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第98話

 ネグロの暴走という予想外の出来事があったが、俊輔達は予定通りピトゴルペスの町に到着した。


「う~ん……、やっと尻の痛みから解放されたよ」


「そうだね」


 中古で買った幌馬車の中の一部に、簡単に取り付けただけの椅子にずっと座っていた俊輔と京子は、到着すると体をほぐす為に伸びをした。

 いくら俊輔達が戦闘力が高いとはいえ、長時間座ったままなのは結構疲労がたまる。


「まずは宿屋の予約に行くか?」


「うん!」


 町は中々にぎわってるようで、他の町から来た商人や冒険者が結構いるようである。

 アスルが引いていた幌馬車の部分は魔法の袋に収納して、俊輔達は宿屋を探しに向かった。


「ここが良いかな?」


 町中を歩いていたら、厩舎のあるトルトゥーガと言う名の宿屋が見つかり、そこに泊まる事にした。

 俊輔は中に入り、受付にいたおばちゃんに宿泊の予約を頼んだ。

 

「アペストルースは厩舎の方に入れて貰えますか?」


 アペストルース(ダチョウ)が従魔にいる事をおばちゃんに言うと、厩舎へ連れて行くように促された。


「分かりました」


 当然一緒の部屋と言うわけにはいかないと分かっていたので、厩舎のある宿屋を選んだのだ。

 その為、俊輔は言われた通りアスルを宿屋に併設された厩舎に連れて行った。

 厩舎に連れて行くと、馬だけでなくアペストルース用の房があり、宿屋の人間が世話をしてくれるらしい。


「悪いな、アルス。ここで大人しく……ってそもそも鳴かないか?」


 厩舎の房にアスルを入れた俊輔は、優しく頭を撫でながら話しかけた。

 宿屋の人に迷惑をかけないように一応言っておこうと思ったが、アスルはダチョウなので騒がしくすることはないという事を思い出した。


「……ともかく、暴れるなよ?」


 この町に来る間に、冒険者の真似をして拳法まがいの事をするというちょっと変わっているダチョウだと言う事を知った俊輔は、念の為アスルに注意をしておく事にした。


『大丈夫っす! 旦那のご飯が貰えれば気にしないっす!』


「……分かった。後で夕飯持って来てやるよ」


 地球のダチョウとほぼ同じだが、一応魔物のアスルは何でも食べる。

 ルナグランデの町からこの町に来るまでの間に俊輔が作った料理がとても気に入ったらしく、結構頻繁に食べ物をねだって来るようになっていた。

 前世では一人暮らしが長かったので、俊輔は料理が結構上手い。

 更に、ほぼ昔の日本のような国に転生したおかげで、味噌や醤油などの調味料があるので結構料理のレパートリーは多い。

 色々な美味しい料理が食べられるようになったアスルは、他のダチョウと違い舌が肥えてしまったようである。

 俊輔としては気に入って貰えたのは嬉しいが、そう頻繁に求められるのはちょっと困ったものである。

 後で食事を持ってくることを告げて、俊輔は先に宿泊の部屋に行った京子とネグロの下に向った。




「この町の観光でもするか?」


 部屋で一息ついた俊輔は、いつものように町を見て回る事を提案した。


「そうだね!」「ピー!」


 その俊輔の提案に、京子とネグロは待ってましたと言わんばかりに賛成した。

 俊輔達は宿のおばちゃんに一声かけて町の観光に向って行った。 


「この町ではブドウが有名でね。町の西側はブドウ畑が広がっているよ。」


 観光に行くと言ったら、おばちゃんが興味深い話を聞かせてくれた。

 俊輔は良い話を教えて貰った礼を言って、京子達と一緒にそのブドウ畑を見に行く事にした。


「本当だ! 俊ちゃんすごいね!?」


「あぁ、辺り一面ブドウ棚だな」


「ピー!」


 市街地から20分程歩いて行くと、少しずつ景色は変わっていき、俊輔達の目の前にはブドウ畑が広がっていた。

 その景色に、京子は驚きながらも楽しそうな声を上げ、俊輔とネグロも同じような表情をしていた。


「あっ! ブドウ狩りが出来るって!」


「本当だ! じゃあちょっとやってみるか?」


「うん!」「ピー!」


 ブドウ棚の一角に小さな小屋が有り、そこにはブドウ狩りの看板がかけられていた。

 その近くには数人の観光者らしき人達が、小屋の近くに設置されたテーブルで、畑から取って来たブドウを食してワイワイと楽し気な会話を交わしていた。

 面白そうに思った俊輔達は小屋に行き、お金を支払いブドウ狩りをして楽しんだのだった。


「兄ちゃん達旅行者だろ? どこの宿屋に泊まっているんだい?」


 取って来たブドウを食べて俊輔達が楽しんでいると、ブドウ園のおっちゃんが話しかけて来た。


「トルトゥーガって宿屋です」


「おぉ、じゃあ丁度良いや! そこの近くの酒場に家が作っているワインを卸しているから行ってみると良い」


 俊輔達が夫婦で成人していると告げると、この町ではワインも有名らしく、ここのブドウ園でもワイン用のブドウも栽培しているらしい。

 そのブドウで作ったワインが、俊輔達の宿屋の側にある酒場にあるらしい。


「そうですか。じゃあ行ってみますね」


 この世界では15歳で成人なので、俊輔と京子はお酒を飲んでも良いという事になっている。

 二人共それ程お酒が強くないが、せっかくの観光なので、おっちゃんに言ったように酒場に行く事にした。

 そこでワインと一緒に夕食を楽しみ、俊輔達は宿に戻って行った。

 京子はそれほど飲んでいなかったが、俊輔は結構飲んでしまった為、宿に戻ったらすぐに眠ってしまった。




『ひどいっす!』


「……すまん」


 翌朝起きた俊輔は、アスルに夕飯を持って行くのを忘れていた事を思い出し、厩舎に謝りに行った。

 一応、宿屋の人に他の馬やダチョウと同じ食事を与えられたらしいのだが、俊輔の料理を楽しみにしていたらしく、アスルはかなり拗ねていた。

 仕方が無いので、俊輔は宿屋の調理場を借りてアスルが満足するまで朝食を作ってやる事になったのだった。



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