第95話
「……え?」
蜘蛛の魔族3人衆を捕まえて来た報酬を受け取りに、俊輔達はグレミオに来ていた。
昨日と同じ受付の女性に話しかけ、報酬を取りに来たことを告げると、受付の女性は受付のカウンターの奥の部屋に入り、大量の白金貨が入った袋を持って来て俊輔の前に差し出したのだった。
日向の国とペラモンターナでは使っている通貨は違うが、通貨の価値は同じである。
使われている硬貨は以下のようになっている。
小鉄貨 5 ペセタ ※(ペセタ=両)
鉄貨 10 ペセタ
小銅貨 50 ペセタ
銅貨 100 ペセタ
小銀貨 500 ペセタ
銀貨 1000 ペセタ
小金貨 5000 ペセタ
金貨 10000 ペセタ
小白金貨 50000 ペセタ
白金貨 100000 ペセタ
そして、先程受付の女性から出された袋には白金貨が300枚くらい入っていた。
つまり、30000000ペセタの大金が手に入ったという事である。
それを確認した俊輔は、思わず驚きの声を上げてしまったのである。
「思ってた以上に高い金額ですね?」
そう、俊輔からしたらあの3人の魔族は適当に相手をしたに過ぎない。
そんな相手がこれ程の金額になるなんて思ってもいなかったのだ。
その事を呟いていると、
「俊ちゃんからしたらあの3人は大した事なかったかもしれないけど、私は結構危なかったわよ。それに結構な数の冒険者が全滅させられたんだから、これぐらいの金額は妥当だと思うよ」
京子が俊輔の呟きに答えて来た。
「なるほど、言われてみればそうか……」
15組のパーティー、約60人の冒険者が蜘蛛の餌食になって命を絶った事を忘れていた。
どうやら5年間の迷宮生活によって、俊輔は相当なレベルに達していたのであの3人の魔族を大した事無いと思ったのだが、一般的な冒険者からしたらあの3人の連携や罠をクリアするのはかなり厳しい所である。
京子に言われてその事を思い出した俊輔は、この金額に納得して袋ごと腰に付けた魔法の袋に収納したのだった。
「それじゃあ、用も済んだ事だし他の町に向かうか?」
元々この大陸に来たのは世界観光が目的であって、魔族退治はついでのようなものである。
この町に来たのも観光ついでに来ただけなので、この町に来た時のパティオ祭りで十分この町を楽しむ事が出来た今、俊輔は次の町へ観光に向かいたい気持ちになっていた。
「捕まえた魔族から情報を聞かなくていいの?」
京子は俊輔と一緒なら別に構わないのだが、安全に観光をしたいので一応あの3人の魔族から情報を得てから先に進む事を提案した。
「ん~……、別に良くね? 俺達って一応冒険者なんだし、多少の危険があった方が観光の喜びも増すってもんじゃね?」
「え~……、そうかな~? まあ、俊ちゃんがいれば危ない所でも何とかなりそうだし、いいか」
俊輔は人族の冒険者の中でも恐らく一番強いと京子の中では思っているので、危険な事なんて特に起きる事はないと思っている。
完全に色眼鏡で見ているのだが、あながち間違いではない。
そもそも冒険者カードに能力が表示されない程の飛び抜けた実力の持ち主は、人族では存在しない。
「ピー!」
「ネグが自分もいるってよ」
いつものように俊輔の頭の上に乗っているネグロが、自分の事も頼ってくれる言葉を言ってくれない京子にちょっと拗ねたような声を上げた。
京子はネグロの言葉が分からないので、俊輔が通訳した。
「そうだね。ネグちゃんも強いもんね?」
「ピー!」
ネグロのその拗ねた感じの顔が可愛らしかった京子は、宥めるために頭を撫でてあげたのだった。
撫でられたネグロはすぐに気分を良くし、嬉しそうな声を上げた。
「あの……」
「ん?」
俊輔達が次の町へ行く話をしているのを黙って聞いていたグレミオの受付嬢は、言い出しづらそうに声をかけて来た。
「マエストロが話したい事があるらしいので少々お待ちいただけますか? もうすぐマエストロが魔族への尋問を終わらせる頃だと思いますので……」
「……分かりました。一応挨拶をして行った方が良いだろうし……」
Aランク以上の冒険者は、今回のように近隣に有事が起きた際にいて貰えると色々な面で助かる存在である。
実力がある事から調査などを頼みやすく、達成率が高いからである。
グレミオ側なら当然囲っておきたい存在であるが、冒険者は自由な存在なので強制される事は無い。
しかし、もしも助けが必要な時に有能な冒険者がどこに行っているか知っていれば、他のグレミオ支店を通じて連絡を取る事も出来る。
そう言った事は面倒だから俊輔は相手にするつもりは無いが、結構な依頼達成金を貰ったので、せめてここのマエストロであるバネッサに挨拶ぐらいをして行こうという事にしたのだった。
「どうぞ支部長室へ」
マエストロを待つ間どうしようかと思っていた俊輔達を、受付嬢はマエストロの専用の部屋で待つように誘導した。
“ガチャ!”
「いやー、待たせて悪かったな。あいつら結構魔法の抵抗が強くてな……」
少しの間支部長室で俊輔達が待っていると、尋問を終えたバネッサが入って来た。
「そっすか……。何か用があるって聞いたんすけど、何ですか?」
報酬を得たので、あの3人の事はもう興味が無くなった俊輔は、あっさりと用事の方を聞く事にした。
「あぁ、あんたら観光旅行をしてるって言っていたけど、次の町は決めたのかい?」
魔族を渡した時少し話をしたのだが、バネッサは俊輔の考えている事を察していたのか、突然そんな事を聞いて来たのだった。
「いや、決めていないっすけど……?」
俊輔達はこの後宿屋で次の町はどこに行くか決める予定だったので、まだ決まっていない。
その事を俊輔が答えると、
「ちょうど良いや! ピトゴルペスって町が西にあるんだけどそこに行ってみないか?」
「ピトゴルペス? まあ、行っても良いけど何かあるんすか?」
「あんた達が捕まえて来た魔族の連中を尋問したが、あまり詳しい事が聞き出せなかった。だけど3人が共通して言ったのが、ピトゴルペスの町の方に他の魔族のアジトがあったらしいんだ」
「あった?」
バネッサの話を聞いていた俊輔は、過去形の部分に引っ掛かった。
「ピトゴルペスはここと同じくらいの大きさの町なんだが、魔族が攻めて来ているとかの情報は聞いていない。もしかしたらSSSランクの冒険者がいたから中止したのかもしれないがな……」
「へ―……、SSSの冒険者ねぇ……」
バネッサが尋問から得た話では、ピトゴルペスには数年前からあるSSSランクの冒険者が拠点にしているらしい。
そのおかげで攻め込む事を中止して、ここルナグランデの町の方を攻める話だったらしい。
「SSSランクの冒険者に、魔族のアジトか……、興味あるな」
「だろ? その町に行くついでに、あんたらSランクに上がるのに丁度良い町だと思うよ?」
現在Aランクの俊輔と京子は、アリバカンポの町でマエストロのエクトルから実力を認められた証明書が与えられていた。
バネッサにも昨日の内に証明書を受け取っていたので、Sランクの昇格に必要な3人のマエストロの認定と言う条件の内二つはクリアしている。
あと1人のマエストロの認定で昇格できる。
「……何でっすか?」
昇格にピトゴルペスの町が良いという事を聞いて俊輔は疑問に思った。
「あそこのマエストロは、私やエクトルと昔パーティーを組んでいた奴なんだよ。一応私からも簡単にあんたらの事を言っておくから行ってみたら良い」
「……決まりだな!」
「うん!」
「ピー!」
バネッサの話を聞いて、俊輔は京子と目を合わせ、頭の上のネグロを撫でて言葉を発すると、2人共納得したように声を上げた。
これにより、俊輔達は次にピトゴルペスの町へ行く事に決定したのだった。




