第90話
「ちょっと待った」
「!!?」
撤退をしようとした男は、襟を掴まれ強制的に急停止させられた。
「な、何で……?」
男がゆっくりと振り返ると、そこには先程まで鳥を解体していたはずの俊輔が立っていた。
その事が信じられないと思った男は、口をパクパクさせて顔を青くしていた。
「いやいや、最初から気付いていたって……」
俊輔は常に探知術を発動させている。
それによって、この男が遠くから高速鳥を飛ばし来ているのを察知していた。
俊輔達が捕まえた3人の魔族を逃がそうとしていたのは分かったのでネグロに攻撃させたのだが、どうやら戦闘職ではない様で攻撃を受けると男はすぐに逃走を図った。
明らかに魔族に関わっているこの男も逃がす訳にもいかないので、捕まえる事にしたのだ。
「そんなバカな……」
男は戦闘職ではないので、慎重な性格をしている。
もちろん俊輔達が探知術を使う可能性も考えていた。
なので、俊輔達からは結構な距離を取っていたのだが、それにも関わらず、俊輔に察知されていた事に驚きが隠せないでいた。
「取り敢えず寝とけ!」
“ドスッ!!”
「!!?」
京子たちの下に連れて行くのに暴れられると迷惑なので、俊輔は男に腹パンをかまして気を失わせた。
「ただいま」
「お帰り」「ピー!」
「「「!!?」」」
男を背負って戻ると、京子とネグロは笑顔で迎え、3人の魔族達は俊輔が捕まえた男の顔を見て声を出さずに驚いていた。
「で? こいつは何なの?」
明らかに魔族だと思って連れて来たが、この男の事を知るために俊輔は先に捕まえた3人に問いかけた。
「……し、知らん!」「俺も!」「……」
「おいおい、まさかそれが通用すると思っているのか?」
この期に及んで、それぞれの方法で惚けようとする3人に、俊輔もさすがにイラついて来た。
「何なの?」
「「「伝達係の魔族です!」」」
しかし京子が普通に尋ねると、魔族の3人は素直に答えを返して来た。
「……………………」
どうやら3人は少し前の出来事から、京子の事が恐ろしい人間だという認識が刷り込まれたらしく、従順になったようである。
その様子を見て、俊輔は何とも言えないような表情になっていた。
「伝達係って事は色々知っているって事か?」
「「「………………」」」
俊輔が問いかけても、3人は無言で答えようとしない。
「そうなの?」
「「「はい! 俺達よりも詳しいです!」」」
俊輔の時とは違って、京子が問いかけると3人は素直に答えた。
「ごにょごにょ……」
「じゃあ、この男を吐かせれば色々な事が分かるっていう事なの?」
自分で聞く事を諦めた俊輔は、京子に耳打ちして京子に質問してもらい、答えを引き出すという二度手間のような事をする事にした。
「「「はい! その通りです!」」」
思った通り3人はハキハキと答えた。
しかし手間が掛かったが、良い情報が聞けた。
この男を締めあげれば、魔族がやろうとしている事が聞ける。
グレミオの情報網を利用すればその計画を未然に防げるはずだ。
「じゃあ、こいつも連れてルナグランデに戻るか?」
「そうだね」
“バッ!!”
“スパッ!!”
「あっ!?」
気絶していたと思った男が急に立ち上がり、3人の魔族を縛っていた紐を切断した。
咄嗟の事と油断していたのもあったので、俊輔は阻止出来なかった。
「お前ら!! 魔族化しろ!!」
「「「ナイス!! ルシオ!!」」」
拘束していた紐が切れた事によって自由になった3人は、ルシオと呼ばれた男の言葉に即座に反応し、魔族としての本性を現し始めた。
「おわっ!?」
「きゃっ!?」
「ピッ!?」
3人の体が変化を始めた時、変化がし終わる前に仕留めようと動こうとした瞬間、3人にルシオと呼ばれた男は魔法陣を発動させ、無数の高速鳥を召喚し俊輔達の行動を抑え込んだ。
思わぬ足止めに、俊輔達は慌てて鳥を叩き落して対応をした。
「「「ガー!!」」」
ルシオに邪魔をされた間に、3人の魔族が巨大な蜘蛛の姿に変化をしていた。
「ハハハ……、こうなったらこっちのものだ!!」
「俺達の力を見せてくれるわ!!」
本性を現したヘラルド達が俊輔達に向かって襲い掛かって来た。
「ハアー!」
エドゥアルドは8本ある足の右前足を振り上げ、俊輔に向かって一気に振り下ろして来た。
「っと!」
俊輔はその攻撃をバックステップで躱した。
振り下ろされた前足は地面に突き刺さり、爆発したように土が舞い上がった。
「ピッ!!」
「オダリス!!」
俊輔を援護しようとネグロが魔法を放とうとした時、エドゥアルドが叫びオダリスが糸をネグロに向かって放出した。
「ピピッ!?」
ネグロは魔法放つのを中断して、上空に飛び上がり糸を回避した。
「人型の時とは違うぞ!」
京子と対峙したヘラルドは、近くの木を利用して糸を張り巡らし、その糸を利用して高速で移動を開始した。
「くっ!?」
糸の弾力性によって飛び回るように高速で動くヘラルドは、時折京子に向かって飛び、鎌のような足で切り裂きにかかった。
京子は中々その速度に対処できず、ヘラルドの攻撃を躱しながら攻撃をするタイミングを計っていた。




