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第89話

 蜘蛛の魔族3人を生け捕りにした俊輔達は、ルナグランデの町に向かっていた。


"バサッ!!"


 そこに1匹の鳥が3人の魔族に向かって高速で飛んできた。


"パシッ!!"


「何だ? この鳥……」


 普通の人間なら感知はおろか目視する事自体が不可能な速度だったのだが、俊輔は飛んで来た鳥を難なく捕まえた。



◆◆◆◆◆


「なっ!? 馬鹿な!! あの鳥を捕まえただと……」


 かなり離れた所から眺めていた男は、自分が飛ばした高速鳥を捕まえられた事に慌てふためいていた。

 それもそのはず、その高速鳥は連絡用に扱っている鳥なのだが、扱っているこの男でもしっかり意識しないと捕まえるのが難しい鳥である。

 それをあの男はいきなり死角から飛んで来たにも関わらず、あっさりと片手で捕まえたのである。

 人どころか、魔族においてもそんな事が出来るのは、男が知る限り数える程しか存在しない。

 その者達は、この男からしたら天上人と言っていいほどの強力な戦闘力を有している者達である。


「まさか……あの男は……」


あんな事があっさり出来る俊輔の事を、男は恐怖の対象にしか見えなかった。



◆◆◆◆◆


「確かこの鳥ってグレミオが連絡用に使っている鳥じゃね?」


 捕まえた俊輔が言ったように、早く飛ぶ事に特化したようなフォルムのこの鳥は、グレミオ職員が従魔として使う鳥の魔物である。

 この鳥を使う事で大陸中のグレミオ同士で情報交換を迅速に行う事が出来るのである。

 普通の人間の場合、従魔は片手の指の数程の魔物としか契約できないものである。

 グレミオ職員には情報交換を専門に行う人間もいるので、グレミオの建物の中で時折見る事があった。

 確か種類名はウルヘンテ・パッハロとか言う名前だったと思う。


「そうだね。何回か見たよね? すごいね俊ちゃん。よく捕まえられたね」


「何でこの鳥がこいつらに向かって来たんだ」

 

 京子がこの鳥を感知した瞬間俊輔が捕まえていたので、どうして飛んで来たのかという事よりも俊輔の反応速度のスピードに称賛の声を上げていた。

 俊輔はそんな事よりもこの鳥の行動に違和感を覚えていた。

 この鳥は情報伝達をする為に飛んで来たのではなく、あからさまに俊輔達が捕まえた3人の魔族に向かって来ていた。


「……お前ら何か分かるか?」


 捕まえた手の平大の鳥を見せて、俊輔は捕まえた3人の魔族に問いかけた。


「……知らん!」「……知るかよ!」「……さあ?」


 その鳥を見た3人は、あからさまに惚けた返事を俊輔に返してきた。


「お前ら嘘下手だな……おもいっきり顔に出てるぞ」


 誰がどう見ても、3人は鳥を見た瞬間動揺していた。


「まぁ、別にこの程度の鳥大した事ないけどな……」


 そう呟くと、俊輔は魔法の袋から小刀を出して捕まえた鳥を捌き始めた。


「もうすぐ昼だし、鳥料理にでもするか……」


 血抜きをし、羽を毟った鳥をそのまま魔法の袋に入れたのだった。



◆◆◆◆◆


「……何者かは分からないが、1羽では無理のようだな」


 平気で捕まえたあの男は、確かにまともな人間ではないだろう。

 しかし、1羽のウルヘンテ・パッハロを捕まえたからと言って、戦闘力が高いとは言い切れない。

 その事を冷静に考えた男は、次の手に出る事にしたのだった。


「だったら……」


 そう言うと男は魔法陣を作り、呼び寄せた数体のウルヘンテ・パッハロを捕まっている3人の拘束糸向かって飛ばしたのだった。

 


◆◆◆◆◆


「おぉ!! 今度はすげえ数が飛んで来た」


 先ほど同様鳥が3人の魔族に向かって飛んで来た。

 しかし、先程とは違い数十羽の鳥が集団で向かって来ていた。

 それでも俊輔は慌てる事無く飛んでくる鳥を眺めていた。


「よっと!!」


 今度は待ち受ける形になった俊輔は、飛んでくる鳥を一羽一羽素手で叩き落していった。


「これでしばらく鶏肉には困らないな」


「そうだね!」


 向かって来ていた鳥を叩き落し終えた俊輔は、京子と共に解体作業を始めたのだった。

 さすがに一人で全てを解体していたら時間がかかるので、京子にも頼んだのである。

 転生前は魚以外の解体などした事なかったのだが、転生して小さい頃から解体の作業を見て来て、いまでは当たり前のように出来ている。


『慣れってすごいな……』


 テキパキと鳥たちを解体しながらしみじみ思ってしまう俊輔だった。



◆◆◆◆◆


「…………あの数をあっという間に……………」


 色々な方向から鳥を向かわせたはずなのにも関わらず、俊輔は苦もなく叩き落した。

 その事が信じられず、男はこれ以上言葉が出せずに固まってしまった。

 そのせいで、男はある事に気付くのが遅れたのだった。


「!!?」


"ズバッ!!"


 男がその事に気付いた瞬間体を左に躱したのだったが、躱しきれず右手首から先を消し飛ばした


「ぐうっ!?」


 片手を失った男は痛みで脂汗を流しながらうめき声をあげた。


「まさか丸烏が魔法を放ってくるなんて……」


 そう、男の右手を吹き飛ばしたのは、俊輔の頭に乗っている従魔のネグロの魔法である。

 鳥が飛んでくる方角に探知術の範囲を伸ばし、レーザー光線を放ったのだった。


「くっ!? 撤退しかない!!」


 片手を失った今、男は回復魔法によって傷を塞ぎながらその場から去って行ったのだった。


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