第87話
俊輔に隠れている事がばれた者達は、密かに会話を交わしていた。
『おい! どうする? 何か隠れてるのバレてねえか?』
『何なんだよコイツら! 罠にもかかんねえし!』
『落ち着け! 取り敢えず魔物を送って仕留めるぞ!』
「出てこないな……」
広範囲の探知が出来る俊輔からしたら、隠れている連中の居場所も分かっているので、連中が出て来ようとしない事に苛立って来た。
“ガサッ”
「こんなの出して来ても意味がねえっての……」
「ピー……」
俊輔の背後の林からサッカーボール大程の蜘蛛の魔物が、集団で俊輔達に襲いかかって来た。
しかし、俊輔は背後を見ることなく木刀を振り、自分に襲いかかる全ての魔物を一瞬で斬り殺した。
探知術を使っているので、この程度の事は簡単である
従魔のネグロも、同感と言わんばかりに魔法を放ち、蜘蛛を消し去っていた。
俊輔と共に無人島ダンジョンをクリアしたネグロも、探知術が使えるので大したことではない。
「ハッ!」
京子は、広範囲はまだ慣れていないが自身の周辺位は探知出来る。
そのため、突如現れた蜘蛛にも慌てず、俊輔達が倒し終わった1拍程後で斬り終えた。
あっという間に魔物が殺られた事に、林の中に隠れている者達は慌てふためいていた。
『おい! 何なんだよアイツら! ヤベーよ。逃げるか?』
『馬鹿言うなよ! エステ様に何て言い訳するんだよ!』
『もう俺達が食えなくてもいいから奴等を殺しちまおう!』
「お~い! 出て来いよ! じゃないとこっちから仕掛けるぞ!」
俊輔は、蜘蛛の魔物を倒しても出てこない者達に対して、強めの口調で呼び掛けた。
“ガサガサガサッ!!”
「うわっ!? 沢山!」
「は~……、面倒だな……」
今度は俊輔達の全方位から、先程と同じ蜘蛛の魔物が大量に溢れだしてきた。
「ピー!」
「ん? じゃあ頼むわ。京子、ネグがやるってさ」
「そう? お願いね。ネグちゃん」
「ピー!」
出て来た大量の蜘蛛に愚痴っていた俊輔に、ネグロが倒したいと言って来たので、俊輔と京子は任せることにした。
頼られたネグロは、嬉しそうに魔力を集め出した。
「ピー!!」
“スパパパ……………!!”
集めた魔力を使って、ネグロは風魔法の風刃を蜘蛛の数だけ放った。
それによって大量の蜘蛛は、抵抗する間もなく真っ二つになって動かなくなって行った。
『『『はっ?』』』
ネグロの魔法で蜘蛛達が殺られた事で、隠れている者達は驚き過ぎて固まっていた。
そもそも弱い魔物で有名な丸烏が、蜘蛛の魔物を倒したのも驚いたが、魔法を放った事にも驚いたためである。
『何あれ? 丸烏だよね?』
『何で丸烏があんな強いの?』
『…………逃げるか?』
「逃がさんよ……」
「っ!!? うごっ!?」
話していた3人の内の1人の背後に、突然俊輔が現れた。
突然の事に驚いた男は、振り返った瞬間俊輔に鳩尾を殴られ気を失った。
『おい! どうした?』
『エドゥアルド? 何があった?』
「あっちで寝てるよ」
「っ!!? うっ!?」
今度は違う男の背後に回り、俊輔は手刀を首に落として気を失わせた。
「ヘラルド!? くそっ!」
これまで繋がっていた他の2人との回線に話しかけても返事がなくなり、残った1人は咄嗟に逃亡に入ろうとした。
「っ!!?」
「はい! 逃げな~い」
しかし、すぐに服を掴まれ逃亡を阻止された。
「…………あっ?」
捕まった男がゆっくりと首だけ振り返ると、俊輔が立っていた。
男が顔を青くしていると、俊輔がチョークスリーパーで極めに入った。
「………………」
極められた男は、少し手足をバタつかせたが、すぐに大人しくなった。
キレイに極った為、すぐに気を失う事になったのだった。
「あっ? 終わった?」
俊輔が隠れていた男達を捕まえている時、京子とネグロは蜘蛛の魔物の魔石を拾っていた。
あまりにも数が多いため、ネグロが魔物の死体を集めて、京子が魔物から魔石を取り出していた。
それはまるで、内職のように単純作業を繰り返していたのだった。
その作業をしていると、俊輔が3人の男を引きずって戻ってきた。
「おう。捕まえてきた」
捕まえてきた3人を一纏めにして紐で縛り上げると、京子と一緒に魔石取りを手伝い始めた。
「ん……」
「おっ? 起きたか?」
魔石取りが終わり夕方になって来た頃、俊輔が捕まえた1人の男が目を覚ました。
「お前は確かエドゥアルドとか呼ばれていた男だよな?」
他の奴がそう呼んでいたのを覚えていた俊輔は、最初に腹パンで気を失わせたエドゥアルドに話しかけた。
「くっ! 何なんだよ! 俺達は別にお前らに何もしていないだろ!? 何でこんな目に遭わなければならないんだ?」
エドゥアルドは、自分達が縛られている事に気付き抗議してきた。
「ん? お前ら魔族だろ? 捕まえて当然だろ?」
「俺達は魔族じゃない、冒険者だ! 魔族などといちゃもん付けてんじゃねえよ!」
「…………お前馬鹿か? 俺は鑑定術が使えるんだぞ。お前ら完全に人間とは違う魔力の流れになっているじゃないか」
この3人が魔族だと言うことは、鑑定術を使って調べているので分かっている。
その事を知らないエドゥアルドは、普通の冒険者を装って逃げる気でいたようである。
「鑑定!? だから罠に…………あっ!?」
「……お前本当馬鹿だな? 自分で罠とか言ったら完全に黒じゃねえか」
「うっ、うるせえ!」
「まぁいいや、取り敢えず逃げようとするなよ。お前らはルナグランデに連れて行くからな……」
大勢の冒険者が命を落としてしまったが、犯人である魔族を生け捕り出来たのだ。
きっとグレミオからの依頼達成の報酬はたんまり貰えるだろう。
俊輔達はもう日が暮れるので、この日はここに泊まって、明日この3人を連れてルナグランデに戻る事にしたのだった。




