第86話
「…………また落ちてる」
魔族によって滅ぼされたと言う村に俊輔達が入って行くと、入り口にも落ちていたように服が落ちていた。
そこに落ちていた服も数人分あり、男性用だけでなく女性用の服も落ちている。
「んっ? 何か湿ってる?」
「京子! 触るな!」
「!?」
京子がその服を持ち上げようとしたとき、俊輔は若干慌てて制止の声をあげた。
それに反応した京子は、拾うのを止めて少し後ずさった。
「何?」
「ちゃんと鑑定してみろ、湿った部分は全部青くなっているぞ」
この世界の鑑定は、別に服の種類や素材が分かるとかではなく、見える色で自分に害があるかどうかが分かる程度だが、それだけでも結構重宝している。
その鑑定を頻繁に使うようにしている俊輔は、すぐにその服についた毒に気が付いたのだった。
「……本当だ」
京子も小さい頃に俊輔に教わったので鑑定が使える。
しかし、大体敵と戦うときに使うことがあるだけなので練度が低い。
俊輔と比べると、僅かだが発動が遅い。
発動した鑑定で確認すると、俊輔が言うように湿った部分が青くなっているのを確認出来た。
「京子はもうちょい鑑定を練習しといた方が良いぞ。敵の毒攻撃だけじゃなく罠も反応したりするから」
「うん。分かった」
俊輔の言う通り、無人島ダンジョンでこの鑑定を使っていると、不自然な反応をする場所が有ったりした。
そう言った不自然な反応をする場所には大抵罠が仕掛けられていて、俊輔が鑑定を多用する要因になっている。
夫婦なので俊輔が罠などを探知すれば良いのだが、常に一緒にいるとも限らないので、京子にも練習するように忠告しておいた。
因みに、無人島でネグロにも鑑定をなるべく使うように言っておいたので、俊輔同様自然と使えるようになっている。
「これってどういう事だろ?」
落ちている服には毒なのか、何なのか分からないが、人体に影響のあるような液体が付いているみたいなので触らないが、何故服が落ちているのかの疑問は解決しないでいた。
その事で、京子は首を傾げて俊輔に問いかけてきた。
「…………多分だけど、俺達より先に来た冒険者じゃないか?」
「え? それって……」
俊輔の答えに、京子はまた疑問が浮かんだ。
結構な報酬が出される事から、ここの場所には魔族退治に沢山の冒険者が来ているはずだ。
俊輔の答えだと、それらの冒険者達がやられたと言うことになってしまう。
集まった冒険者達は、中々の手練れだとグレミオで聞いていた。
魔族は沢山の魔物を使役するとは言え、全滅しているとは思えない。
そうなりそうだったら、町に戻って知らせに来る者がいてもおかしくない。
「!? もしかして入り口近くの服って……」
「ああ、町に知らせに行こうとしたメンバーが、捕まって殺られたのかもしれない」
今思えば入り口に落ちていた服の数から、男女の4人パーティーだった可能性が出てきた。
それならば男女の服が落ちていた理由が説明つく。
「でも入り口の服には毒は付いて無かったよね?」
「それは多分あれだ……」
京子の疑問に対して、俊輔は少し先の草むらを指差して答えた。
「ん? 何?」
「京子、鑑定!」
「あっ!」
俊輔が指を指しただけでは意味が分からなかった京子に、俊輔は先程注意した鑑定をするように促した。
「本当だ! あそこだけ何となく不自然な反応をしてる」
言われて気付いた京子は、俊輔の指差した場所を鑑定することで理解した。
鑑定によって、そこの部分だけ周りとは若干色が違っているように見えた。
つまり、あそこに何かしらの罠が仕掛けられているのだろう。
「背丈の高い草むらによって隠されているみたいだけど、あそこを通ったりすると反応して罠が発動するんだろうな……」
「ふ~ん。発動したら毒を浴びる事になっちゃうんだね?」
「多分そうだな。だから回り道して進もう」
まだ入り口からそれほど進んでいないので、俊輔達は見つけた罠を避けて進むことにした。
「それにしても鑑定って結構重要なんだね。ちゃんと注意すれば罠にかかる事なんか無くなるね」
最初の罠を避けて進んでいると、色々な場所に罠が仕掛けられているみたいで、その罠の近くには冒険者のらしき服が幾つも落ちていた。
俊輔に言われてから、京子は鑑定を頻繁に使っているので、その罠達を発見、回避することが出来ていた。
昨日までの京子だけだったら、罠にかかっていた可能性が極めて高い。
その事から、京子も鑑定という術の重要性を感じ取っていた。
「だろ? 簡単な術だけど、ちゃんと使いこなさないとその事に気付かないんだよな」
鑑定は、魔力を操作して目に集めれば誰でも使えるのだが、その重要性に気付かないらしく、使いこなしている人を見たことが無かった。
「ところで……」
元村の広場だったらしき広がった場所まで来た俊輔達だったが、そこの中央で俊輔は急に立ち止まったのだった。
そして……
「ずっと俺達を見ているお前ら! 隠れてないで出てこいよ!」
2本の木刀を抜いて、俊輔は周囲に向かって叫んだのだった。
「!?」
俊輔が木刀を抜いたのを見て、ワンテンポ遅れて京子も木刀を抜いたのだった。
“パタパタ……”
これまでずっと俊輔の頭に乗っていたネグロはと言うと、俊輔同様敵を察知していたのか、俊輔が立ち止まった時に頭の上から飛び上がり、すでに戦闘体制に入っていた。




