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第85話

「今日はもう日も暮れるし、ここいらで野営でもするか?」


「そうだね」


 地図を見る限り、歩きで1日の距離に魔族に滅ぼされたと言う村はあるらしい。

 このまま進めば夜に着く事が出来るが、もしかしたら魔物と戦う事になるかもしれないので、俊輔達は安全の為、手前の位置で休んで翌日の朝に向かう事にした。


「よっと!」


 俊輔は魔法の袋から、折り畳み式のテントを取り出した。

 大陸を観光するのだから、野営をすることも多いだろうと俊輔が試行錯誤した結果、何とか作り上げる事に成功した。


「相変わらず便利だね……」


 四角垂のテントの4つの柱に細工を施してあり、穴が空いた上下の柱に杭を打って固定する事でしっかりした柱になるようになっている。

 一応強風で飛ばされないように、3ヶ所程地面に打った杭とテントを紐で縛って固定する感じになっている。

 袋から出してから1分程で出来るので、とても便利である。

 この世界ではこのようなテントが無く、数人がかりで手間をかけて寝床を作るので、遅いと30分位かかるらしい。

 ルナグランデまでの道のりでもこれを使って野営をしたので、京子はすぐに出来てしまうこのテントに慣れて来ているとは言え、やっぱり便利は便利である。


 余談だが、俊輔達がルナグランデまで護衛についた商人のオラシオ親子は、このテントを見た瞬間、目を光らせて構造を隅々まで見つめていた。

 あまりに熱心なので説明してあげたら、このテントの製造販売を許可してほしいと言ってきた。

 この程度の知識など、その内誰かが考えるだろうと思っていたので、権利なんか別にいらないから勝手にすればと言っといた。

 それを聞いたオラシオ達は、泣きそうになるほどの潤んだ瞳で感謝の言葉を俊輔にしてきた。

 その顔に、俊輔は若干引きながら感謝を受け入れたのだった。

 どうせ潤んだ瞳で見られるなら、かわいい女の子の方が良いに決まっている。

 そんな事を考えた瞬間、京子の方から殺気がしたのは気のせいだと思うことにしている。


 ともかく、恐らくその内同じ様なテントがオラシオ親子によって広められるだろう。


「ネグちゃんは夕飯何食べたい?」


「え”っ!?」「ピッ!?」


 京子のこの言葉に反応した俊輔とネグロは、体が固まってしまった。

 これは結婚してすぐに発覚した事なのだが、京子は料理が上手ではない。

 いやハッキリ言おう、下手であると……


「…………まさか京子が作るつもりか?」


「何それ? いつも俊ちゃんが作ってばっかりだし、たまにはやっぱり妻の私が作らないと…………ね?」


「……………………いや、気にすること無いよ。料理は俺の楽しみなんだ。だからグルメツアーもしてるんだし……」


 台詞と照れた表情を見ていると、とてもかわいいので任せちゃおうかなと思ってしまった俊輔だが、作り出される料理を思い出すと我に返り、何とか言いくるめようと咄嗟に言い訳を捲し立てた。


「……そう言う訳で今日も俺が作る。熊肉もまだ残っていたし、ハンバーグでも作るか?」


 前世では一人暮らしも長かったので、俊輔は料理をまあまあ作ることが出来る。

 とは言っても趣味程度なので、バリエーションはそれほどない。

 熊肉を扱ったことなど前世では無いので、何となくで思い付いた料理を作る位である。


「ピー♪」


「美味しい。やっぱり俊ちゃん料理上手だよね……」


「そうか? まぁ、これも日頃の積み重ねの賜物だよ」


 思い付きで作ったハンバーグにしては、俊輔自身かなり上手く出来たと自負していた。

 熊とは言っても、魔物の熊肉なので臭みがあるかと思っていたが、以前食べた時それほど感じなかったので、ハンバーグでもいけるかもと思ったら成功したようだ。

 ほのかにこれからも自分が作るように京子に匂わせるコメントを返して、俊輔達は夕食を楽しんだ。



「……んじゃ、行こうか?」


 翌日軽い朝食を取った後、俊輔達は予定の村に向かうことにした。



「……んっ?」


 恐らく予定の村の入り口付近に入った道で、ある落とし物が目に入ってきた。


「……これって服だよね?」


 その落とし物を俊輔が拾ってみると、京子が言ったように服が落ちていたのである。


「そうだな。……何でこんな所に落ちてるんだ? 4人分位が……」


 そう、1枚だけ落ちていたのだったら、捨てた可能性もあるので気にしなかったのだが、4人分の服が落ちていた事に違和感を覚えた。

 男性用の服だけなら、まだ100歩譲って落としたり忘れたりした可能性も無くも無いが、落ちているのは女性用の服もあるので、それはさすがに無いのではないかと思う。


「…………京子、ネグ、ここからはちょっと警戒しながら進んだ方が良いかもしれない」


 俊輔は、無人島の5年間で直感がかなり鍛えられたと思っている。

 その直感が、この道の先に反応している気がする。

 大した反応ではないが、取りあえず京子とネグロに注意を促し、俊輔達は先を進むことにしたのだった。



◆◆◆◆◆


「…………フフッ! 懲りずにまた人間が入って来たようだな?」


「ここが我らの罠まみれだと言うのに……」


「今まで同様に餌になって貰おう」


「では、これまで通り……」


 俊輔達がこの場に近付いて来ることを察知した、数人による会話が行われ散開していった。


 その数人が集まっていた場所には、俊輔達が発見したのと同じ様に、服が何枚も落ちて重なっていたのだった。


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