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第84話

 ルナグランデの町に着いて数日、パティオ祭りを楽しんだ俊輔と京子は、祭りが終わっても町でゆったりしていた。

 そんなある日、


「ねぇ、俊ちゃん……」


「ん?」


「魔族に潰されたっていう村の事聞きに行かないの?」


「あっ……」


 この町を満喫していた俊輔は、京子に言われるまでその事を完全に忘れていた。

 そもそもこの町に来たのは、7割観光、残り3割がちょくちょく俊輔達に迷惑かける魔族の退治で来たのだった。

 しかし、その予定も観光が楽しかったので、すっかり魔族の事など忘れてしまっていた。


「何か魔族なんてもうどうでもよくなったな……」


「……その気持ちも分かるけど、ここも被害に遭った村から近いから、もしかしたら狙われるかもしれないし……」


 魔族のせいで5年間程苦しい思いをしたけれど、その分色々な体験が出来たので、今ではあまり気にしなくなっている。

 しかもこの町の観光が楽しかったので、俊輔は尚の事どうでもいい気分になっている。


「仕方ないな。一応この町のグレミオに行ってみようか?」


 あまり乗り気がしないが、京子の言う事ももっともなので、取りあえず情報を仕入れるためグレミオに行ってみる事にしたのだった。



◆◆◆◆◆


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でいらっしゃいますか?」


 この町のグレミオは初めてだったので少々時間がかかったが、辿り着いたグレミオに入り受付に向かうと、受付の女性が営業スマイルで挨拶をしてきた。


「ちょっと聞きたいことがあるんすけど……」


「はい。何でしょうか?」


「この近くの村で魔族が出たって聞いたんすけど……本当すか?」


 アリバカンポの町のグレミオのマエストロから聞いた噂の真相を確かめる為、単刀直入に受付の女性に尋ねてみた。


「あぁ……、お二人もその噂を聞いて来たのですね?」


 俊輔の質問に、女性は少し困った表情になって質問をしてきた。

 その言葉の感じから、どうやら噂を聞いて他にも冒険者達が集まって来ているようである。


「何で冒険者が魔族の噂で集まってるんすか?」


 他の町にも、この近くの村に魔族が出たという噂が流れている事は分かっている。

 聞いた話では、グレミオ間では日々情報の交換がおこなわれている。

 通信の魔道具があるらしく、それを使って情報交換をしているとの話だった。

 その魔道具の特徴としては、送りたい文字を水晶に写し、その水晶に魔力を送り込むことで、同じ魔道具を持つ遠方のグレミオにも情報が送れるらしい。

 ただ、かなりの魔力を消費するらしく、その町で起きた事を用紙1枚分に収めて送信しているとの事だった。


「魔族は数年前からこの大陸の幾つかの村や町に現れ、その特徴である魔物の操作によって破壊を行い始めました。この国でも幾つかですが魔族によって村や町が滅ぼされました」


 魔族は昔から存在していたのだが、数が少ないので退治することは難しくなかった。

 だが、この数十年活発に活動を始めたらしく、国はその対処に追われている状況らしい。


「そこで国は冒険者に魔族退治を任せる事にしたようです。冒険者が魔族を倒したら高額の賞金を提供すると、グレミオを通して通知したのです。なので今この町には冒険者の方が沢山来ているのです」


「なるほど……」


 魔族がどこに現れるか分からない状況なので、国としては軍を出すことができない。

 ならば軍を派遣する分の金額を使って、冒険者に魔族退治させる事の方が手っ取り早いのは確かだ。


「この町の南にあった村が魔物の大群によって滅んだ事は事実です。それが魔族による事なのか迄は分かっていません。集まった冒険者の皆さんは、その調査に村の跡地に向かって行きました」


「そっか……」


 どうやら俊輔達がパティオ祭りを楽しんでいる時、集まった冒険者達は調査に向かって行ったようである。


「どうする?」


「どうするって?」


 俊輔に問われ、その事を理解出来なかった京子が質問し返した。


「出遅れたみたいだし、結構な数の冒険者が行ってるみたいだから俺達は任せてグルメツアーでもしてようか?」


「う~ん、のんびりするのも良いけど、やっぱり魔族の事を解決してからにした方が良くない?」


 京子としても俊輔とのデートは嬉しいし、楽しいのだが、面倒事を解決してからゆっくりした方が、憂い無く楽しめると思うので、問題解決を先にすることを提案した。


「そうだな。一仕事してからの方が楽しいかもな」


 行ったところでまだ魔族がいるとも限らないし、いたとしても結構な数の冒険者が行っているので、退治してしまっている可能性もある。

 取りあえずどちらにしてもパティオ祭りを楽しんでいた間、冒険者稼業を中止していたので、そろそろ体を動かすのも良いのではないかと思っていた。

 運動がてら、仕事がてら、魔族の件を解決するのも悪くない。


「すいません。その村までの地図を貰えるんすか?」


「はいどうぞ。他の冒険者の方達が結構行っているので、もしかしたら何もせずに帰ってくる事になるかもしれませんが、よろしいのですか?」


 受付の女性は、俊輔と京子の会話を聞いていたようだが、念のため注意を促しながら、村までの地図を俊輔に渡して来たのだった。


「よし。じゃあ行くか?」


「うん」


「ピー!」


 グレミオから出た俊輔達は、声を掛け合うと南の村跡地に向かって歩き出したのだった。





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