第83話
出だしにちょっとした面倒があったものの、それからの旅は俊輔達にとっては平穏だった。
「うわっ! ロソ・ロホだ!」
ロソ・ロホは赤い毛並みをした熊で、ごくまれに人前に現れる強力な魔物として有名な魔物である。
商人の間でも、ロソ・ロホに会ったらすぐ逃げろと言うのが定説である。
「ピー!」
「…………えっ!?」
しかし、俊輔達にとっては大したことがない魔物で、オラシオ達が驚いたと同時に、ネグロの魔法で一瞬で脳天に風穴を空けたロソ・ロホが倒れてていた。
「いいぞネグ、今日は熊肉料理だな……」
熊を倒したネグロを撫でながら熊を魔法の袋の中に収納した。
「ピー♪」
俊輔に褒められ撫でられたのと、熊肉料理が楽しみな事から、ネグロは嬉しいそうな声をあげた。
「……………」「……………」
オラシオとその息子のパウリノは、その様子を言葉を出せず、だだ見つめていた。
ロソ・ロホは、先日瞬殺したガビノなんかよりも強力な魔物である。
瞬殺と言っても一応ガビノは殺していないが、ブッ飛ばしといて放っておいたので、魔物の餌になっている可能性は大である。
まあ、俊輔達からしたらどうでも良いことである。
ともかく、危険で有名な魔物を、弱小で有名な魔物の丸烏が瞬殺したことに言葉が出ないでいた。
その日の夜は、俊輔が捌いたロソ・ロホの肉で鍋や焼き肉をして楽しんだ。
「いや~、皆さんには驚かされる事ばかりですな」
「全くだぜ。ガビノの集団をあっさり倒したと思ったら、ロソ・ロホまで瞬殺なんてあり得ないだろ」
熊肉を食べながらオラシオ親子は、楽しそうにこれまでの事を話していた。
この親子からしたら、今回の移動は初めて尽くしだった。
盗賊紛いの冒険者に出くわすは、強力魔物に出くわしたりで不運が続いたと思ったが、護衛役の俊輔達があっという間に倒してしまうという嬉しい驚きが続いた。
「それにしても俊輔殿は料理も上手いのですな?」
「……ありがとうございます」
オラシオもパウリノも、俊輔の熊料理が気に入ったのか、かなりの量の肉を食べまくっていた。
俊輔からしたら、肉は魔物を倒せばいつでも手に入るので構わないのだが、さすがに食いすぎじゃねえのと思いつつ返事を返した。
「ピー!」
沢山食べる2人に負けじと、ネグロも大量の熊肉を頬張っていた。
「日向にはこのような美味しい調味料があるのですな」
「今度は日向にも行ってみないとな?」
肉の味付けに使った醤油や味噌が気になったのか、オラシオ親子は次は調味料で稼ごうとしているらしい。
これまでの移動で話を聞いたところ、オラシオ親子は武器を売り買いして商売をしているのだが、それは今のところそれが良い儲けになるからやっているだけで、新しい儲け方を見つけたら、いつでもそちらに鞍替えするつもりでいるらしい。
「……ところで、これから行くルナグランデの町って何か面白い事ありますか?」
魔族の退治はついでである。
それよりも元々旅の目的は観光なので、オラシオ達にルナグランデの見所を聞いてみることにした。
「そうですね……そうだ! ちょうど今の時期、パティオ祭りと言うのが開催されていると思いますよ」
「パティオ祭り?」
「はい。家々の中庭やバルコニーなどを、沢山の花や観葉植物で飾って美しさを競う祭りです。」
「へぇ~……、楽しそうですね」
やはり行った事がある人に聞いて見るもんだ。
日向ではあまり聞いたこともないお祭りに、俊輔はルナグランデの町の観光に期待値が上がっていた。
「俊ちゃん! お花だって! 楽しみだね!」
花と聞いて、俊輔以上に京子の方が反応していた。
昔から俊輔と森の中を走り回っていた京子だが、やはり女性らしく花が好きなようである。
花の祭りと言うことにワクワクしているようである。
◆◆◆◆◆
数日後、俊輔達は無事ルナグランデの町にたどり着いた。
この間にも何度か数種の魔物が現れたのだが、ロソ・ロホほどの魔物は現れず、これまたネグロが瞬殺することで難なく通り過ぎて来たのだった。
オラシオ達も次第に慣れて来たのか、魔物が現れても俊輔達が倒してくれるだろうと、安心して馬車を走らせていたのだった。
「いや~……、長旅の護衛ご苦労様でした」
ルナグランデの町に入ると、オラシオは俊輔達のこれまでの労を労ってくれた。
「いえいえ、のんびり景色を眺めつつ、楽しい旅が出来ました。ありがとうございました」
護衛をしてもらったのだから、代金を払うと言っていたオラシオだったが、俊輔達は今それほどお金に困っていないので、運賃代わりにした事だからと断っていたのだった。
しかし、タダではこちらの気が済まないと、結局護衛代を渡され、ここで別れる事になった。
「うわ~! 綺麗!」
オラシオ達と別れ少し町中に入って行ったら、目に入った景色を見て京子は感動の声をあげていた。
「本当すげえな……」
町中は家々が沢山の花で飾られていて、様々な色の花で美しい景色になっていた。
絵画のような景色に、俊輔も思わず感動の声を呟いた。
「えへへ……、綺麗だね? 俊ちゃん」
「そうだな……」
綺麗な景色でロマンティックになったのか、京子は俊輔の手を繋いできた。
その気持ちが分からなくもなかったので、俊輔は京子と手を繋いでゆっくりと飾られた家々を眺めて回って行ったのだった。
綺麗に飾られた家々、広場や街角ではフラメンコの歌や踊りが披露されていて、俊輔と京子はとても楽しい1日を過ごしたのだった。




