第82話
前回のルナグランデまでの距離を修正しました。20kmだと近すぎたので500kmに変えました。
アリバカンポの町を離れる事にした俊輔達は、グレミオから出て町の商業地帯に向かっていた。
「俊ちゃんどこに向かっているの?」
毎度毎度、俊輔と京子の邪魔をする魔族が気に入らないので、旅のついでに潰して行こうという話をした俊輔に賛同した京子だったが、次の町に向かう出口とは反対に向かっている事に疑問を持った。
「いや、ここから500km位って言っていたから、のんびり景色でも眺めながら行きたいじゃん? だから馬車で行こうと思って……」
「……俊ちゃん達なら1日で行けそうだもんね。確かにそれじゃつまんないね」
以前、官林村から奥電の町までの200km近い距離を6時間程でたどり着いた事から、京子は単純に計算したら24時間以内に着く事に気付いた。
俊輔はどう思っているかは分からないが、京子からしたらこの旅は新婚旅行でもある。
折角の旅行をせかせかと行動するのは確かに面白くない。
「馬車だと何日かかるの?」
「1日約80km前後ってところかな? だから1週間位だな」
「ふ~ん……、丁度良い位かもね」
1日でピュ~と行ってしまうのは味気無い。
1週間のんびり馬車に揺られて行くのは楽しそうだ。
京子は馬車の旅を想像して、嬉しそうに賛成の声をあげた。
「馬車はどうやって手配するの?」
馬車で行くのは賛成した京子だが、今度は馬車をどうやって手に入れるかが気になった。
「事前にルナグランデに向かう商人の馬車を調べといた」
俊輔はここ数日、グルメ巡りをするついでに仲良くなった店員から情報を集めていた。
「おぉ、こんにちは俊輔さん。今回は宜しくお願いします」
「こんにちはオラシオさん。こちらこそ宜しくお願いします」
ある武器屋の前に着くと、俊輔は馬車に荷物を乗せている男性と挨拶を交わした。
どうやらこの馬車に乗せて貰う事になっているらしい。
オラシオと呼ばれた男性は、荷物を乗せている手を止めてこちらに近付いて来た。
「初めまして、私武器屋を営んでおります、オラシオと申します。今回は護衛をして頂けると聞いております。宜しくお願いします」
オラシオは、初めて会った京子に対して頭を下げてきた。
俊輔との間で、冒険者としてこの馬車の護衛をするのを条件に乗せて貰う事になっているらしい。
「初めまして、俊輔の妻の京子です。宜しくお願いします」
京子は話の流れから読み取り、そう言う事になってるのかと思いつつオラシオに挨拶をした。
「ピー!」
いつものように俊輔の頭に乗っているネグロも、宜しくと言った感じで片翼を上げて挨拶をした。
「あぁ、こいつは従魔のネグロです。こいつも宜しくって言ってます」
「おぉ、なかなか賢い丸烏ですね。宜しくネグロ君」
俊輔がオラシオと護衛の話をした時は、京子と一緒に宿屋にいたので、ネグロも今回オラシオと初めて会ったのだった。
人懐っこいネグロにオラシオは笑顔で話かけていた。
「親父、荷物乗せ終ったぜ。それよりもそんな若いのに任せて大丈夫かよ?」
俊輔達と挨拶をしていたオラシオの代わりに、手を止めず荷物を乗せていた息子らしき若い男性が話しかけてきた。
護衛の事は一応オラシオから聞いていたのか、護衛役の俊輔達を見て不安そうな表情をしていた。
「大丈夫だよ。ちゃんと冒険者ランクを見せて貰ってる。俊輔さんはAランクの冒険者だぞ」
冒険者ランクの証明にタルヘタを見せて貰っていたので、オラシオは俊輔のランクを知っていた。
なのでその事を若い男性に説明した。
因みに、能力の数値が表示されない俊輔のタルヘタでも、名前とランクと使える魔法の種類だけは表示されているので、証明には使えるのである。
「……本当かよ?」
そう言われても、男性はまだ納得出来ないように呟いた。
「人を見抜く目を持つのも商人の仕事だぞ! すいません俊輔さん。こいつは息子のパウリノです。一緒に付いて行くので宜しくお願いします」
オラシオは、申し訳なさげに頭をかきながら俊輔に頭を軽く下げた。
「宜しくお願いします。パウリノさん。」
「宜しくお願いします」
「ピー!」
俊輔達は別に気にすることなくパウリノにも挨拶をした。
「…………宜しく」
オラシオに言われた事も分かるが、まだなんとなく納得出来ないパウリノは、仕方なく挨拶を返したのだった。
「それでは行きましょうか?」
「そうですね」
オラシオの合図によって、俊輔達は幌付きの荷台に、オラシオとパウリノは御者台に乗って、ルナグランデに向けてゆっくりと馬車は進みだした。
◆◆◆◆◆
「楽しい旅の始まりに不粋な奴等だ……」
「本当ね……」
「ピー……」
アリバカンポの町を出てすぐ、俊輔達の馬車の前に20人位の男達が立ちはだかった。
それを探知した俊輔達は、馬車を降りてその集団に近付いて行った。
「おい、小僧! てめえマエストロに気に入られたからって調子に乗ってるんじゃねえぞ! 女と馬車の荷物を置いてさっさと失せろや! その女もこの人数ではこの間のようにはいかねえぜ。この間の借りを体で返して貰おうか? ハッハッハ………!」
馬車の前に立ちはだかったのは、町についてすぐ京子がボコボコにしたガビノであった。
どうやって知ったのか、俊輔達がここを通るのを待ち構えていたらしい。
ガビノは、京子にボコボコにされた事もそうだが、俊輔がマエストロとの馴れ馴れしい掛け合いを見て、それも気に入らないでいた。
どうやら手下を連れて来ていて、数が多ければ京子に勝てると思っているらしい。
俊輔の事は調子の良いだけの奴だと思っている。
「大変だ!! 俊輔さんこいつら相手じゃ……」
御者台のオラシオは、ガビノの顔に見覚えがあったらしく、俊輔を止めようとした。
「……………さっ、行きましょうか? オラシオさん」
しかし、オラシオが制止の言葉を話終わる前に、ガビノ達は1人残らず俊輔によって叩きのめされていた。
「「……………えっ!?」」
オラシオとパウリノは、あっと言う間の出来事に理解できずにいた。
ガビノも確かAランクの冒険者だったはずである。
手下もそれなりに強いことで有名だったのに、それがまさに一瞬で倒されたことに理解が追い付かないでいた。
「……………はい」
ようやく俊輔の言葉に反応したオラシオは、まだ戸惑いつつも馬車を走らせ始めたのだった。




