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第78話

「改めて登録お願いします」


 ガビノとの一悶着を無かったことのような態度で、俊輔は受付の女性に話しかけた。

 京子も同じような態度で俊輔の隣に立った。


「……は、はい。分かりました」


 受付の女性も、どういう訳だか分からないが、問題のガビノがいなくなったので受付の仕事に戻ることにした。


「こちらの書類にお名前と得意な武器、魔法をお書きください。武器はまだ確定していなければ使う予定の物で構いません。文字が書けないようでしたら口答で構いませんが?」


「大丈夫です」


 俊輔と京子は、日向の国で読み書きは教わっていたので、日向の言葉は書くことができる。

 翻訳の魔道具を使えば、大陸語は日向語に翻訳されるのと反対に日向語は大陸語に翻訳されるので、書類には日向語で

記入した。

 受付の女性も日向に近い為、翻訳の魔道具を付けているだろうとそこは気にしなかった。


「はい。ありがとうございます。俊輔さんと京子さんですね?」


 予想通り翻訳の魔道具を付けていたらしく、すんなりと書類は通った。


「それではこちらのタルヘタに1滴血を垂らして貰えますか?」


 書類を受け取った女性から、今度はカードを1枚手渡された。


『おおっ! ようやくステータスが見れる!』


 これまで魔力の操作による鑑定の魔術を使ってきたが、数値では表されず、サーモグラフィーのように見えて、色の違いで判断してきた。

 結構面倒なので、数値化出来ないか考えた時期があった。

 俊輔はとりあえず自分の数値を見て、基準にしようと期待していた。


「あっ!? 出てきた!」


 京子の方はすぐに文字が出てきて表示された。


「……あれ?」


 しかし、俊輔の方はカードに名前と使える魔法の属性が表示されたのだが、数値の方が出てこなかった。

 少し待ってみても変化することはなく、何だか変に思えてきた。


「なんか文字が出てこないんですけど……」


 不良品なのかと思って、受付の女性に尋ねてみた。


「おかしいですね……」


 女性の方も今までこのようなことが無かった為、首を傾げるばかりだった。


「ガビノの奴がまた何か騒いでるらしいな……」


 その時、受付の後ろにある扉から体格の良い男性が現れた。


「マエストロ!」


 受付の女性の反応から、どうやらここのトップの人間なのだろう。


「丁度良かった。ガビノさんは帰りました。それよりこちらの方の数値がタルヘタに表示されないのですが?」


 女性はマエストロに数値のでないカードを渡した。


「……あんっ!? んな事があるかよ……」


 文句を言いながらマエストロはカードをじっと眺めた。

 その間何だか居心地が悪い空気が、俊輔の周りに流れていた。


「まさか…………」


 ある考えに至ったのか、真剣な顔をして俊輔の顔を見つめた。

 むさいおっさんの顔が近付き、俊輔はかなり焦った。


「小僧ちっと付き合え!」


 マエストロは、俊輔の顔を見つめながらそう言った。


「いや、俺結婚してるんで……」


 俊輔は、手を横に振って拒否の表現をして、マエストロの誘いを断った。


「……馬鹿か? 実力を見るから鍛練所に付いてこいって事だよ!」


 言われたマエストロは、ジト目で俊輔を眺め、ちゃんとした誘いの言葉を言った。


「……冗談すよ!」


 最初から付いてこいという意味だと分かっていたが、何だか嫌な予感がしてきたのでちょっとボケてみたのだが、このおっさんには通じなかったようである。


「あの、マエストロ?」


「あぁ、お前は気にするな。これは俺が預かるから後は頼む」


 引き止める女性に声をかけ、マエストロは俊輔を連れて鍛練所に向かっていった。

 俊輔がおっさんに連れていかれたので、京子も俊輔の頭から降りた丸烏のネグロを手で抱いて、2人の後を追いかけていった。


「……でっ? 何をしなければならないんすか?」


 サッカーコート位の広さの鍛練所に連れてこられた俊輔は、何をするのかは大体予想出来るが、とりあえず聞いてみることにした。


「こんな所に連れてきたって事は大体分かるだろ?」


 おっさんは俊輔の質問に対して質問で答えを返した。


「……まぁ、何となく……」


 なので、俊輔はそう答えるしかなかった。


「まぁ、簡単だ。俺に一撃与えるだけでいい、それを見てさっきのタルヘタの状態の事を説明してやる!」


 体をほぐしながら、マエストロは俊輔に簡単な説明をした。

 少しの間念入りに体をほぐした後、マエストロは真剣な目をして鍛練用の木剣を俊輔に向かって構えた。


「やれやれ……」


 その姿を見た俊輔も借りた木剣を手に持ち、マエストロと対峙した。


「そこの嬢ちゃん! 開始の合図をしてくれるか?」


 少しのスペースの観客席でネグロを手に抱いて座っていた京子に対して、マエストロは一言声をかけた。


「……分かりました」


 結果は分かっているのでやるだけ無駄だと思いつつ、京子は仕方なく立ち上がって左脇にネグロを抱え、右手を真っ直ぐ上にあげた。


「用意!」


「「…………」」


 京子の言葉に、俊輔とマエストロは更に集中して睨み合った。


「始め!」


 京子は、合図と共に右手を降り下ろした。


「ダリャーーー!!!」


 合図と共に、マエストロは魔闘術を発動させ、一気に俊輔に向かって行った。


「ハッ!!」


 俊輔に近付き、マエストロは上段に構えた木剣を、容赦なく一気に降り下ろしてきた。


「殺す気かっての……」


 マエストロの木剣をあっさり躱し、一瞬の内に後ろに回り込んだ俊輔は、拳骨を喰らわし突っ込みを入れた。


「ぐっ!?」


 突っ込みを入れられたマエストロは、殴られた場所を押さえてうずくまった。


「ふははは……!」


「どうした? おっさん……」


 立ち上がったマエストロは何故か急に笑いだした。


「……もういい、タルヘタに数値が出なかった理由が分かった」


「不良品じゃないのか?」


「あれはお前の数値が、タルヘタが表示出来る限界を越えてるって事だ!」


「…………えっ? じゃあ、どうしたら良いんだ? 身分証として使えるのか?」


 数値が出ないなんて、どっちにしろ不良品じゃないのかと思いつつ、俊輔は今後の旅の事を思い尋ねた。


「数値は普通他人に見せないように設定出来るから、出ていなくても身分証として使えるから大丈夫だろ?」


「……まぁ、そうだけど……」


 身分証として使えるのであれば最低限構わないのだが、自分の数値が見れると期待していただけに、何となくガッカリ感はいなめなかった。


「ほれっ! 受けとれ期待の新人さん!」


 そう言って、マエストロはカードを投げて寄越した。


「とりあえず俺の判断で出来るAランクに上げておいてやるから、後は適当に頑張れや……」


 そう告げた後、マエストロは鍛練所から去って行った。


「えっ? いきなりAランク?」


 マエストロのいきなりの言葉に、俊輔はかなり戸惑った。

 登録に来ていきなりAランクになれるなんて思ってもみなかったので、当然の反応である。


「まっ、いっか?」


 しかし、ランクを上げてくれるのであれば、上げて貰っておいて損はないと思い、すぐに受け入れたのであった。


「京子! 帰ろうぜ!」


「うん!」


 とりあえず証明証を手に入れる事が出来たので、俊輔は少し早いが宿屋に帰って食事にしようと、京子と一緒にグレミオから出て、宿屋に帰っていったのだった。


タルヘタ → カード

マエストロ → マスター

グレミオ → ギルド

の意味です。

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[気になる点] スペイン語圏なのは分かるが何故一部の言葉をスペイン語で表示するのか理解に苦しむ。 外国や異世界を舞台にした物語でも日本語に訳されてるんだから、日本語を使うべき。ギルドとかマスターは英語…
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