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第75話

 日向の国から出発して1日、ようやく大陸の最初の町に俊輔達はたどり着いた。


「う~ん、やっぱり陸地の方が良いね!」


 たった1日だったが、慣れない不安定な足場の船旅は、使い慣れない筋肉を使うせいか、体が固まってだるい気分になっていた京子が、船から降りて早々体をほぐすように伸びをした後、俊輔に話しかけた。


「…………5年かかった」


「…………ピー!」


 話しかけた京子と違い、俊輔とネグロは長い間待ち望んだ大陸の地への到着に、感動の声をあげていた。


「……取り敢えず宿屋を探しに行こうか?」


 いつまでも感傷に浸っている俊輔達に、少し呆れた様子で京子は最もな提案をした。


「やっぱり日向に一番近い町のせいか、日向語があちこちに書かれているお陰で迷わなくて済みそうだね?」


 港から少し離れ、町の中心に向かう道すがら、看板や道案内の標識に日向語も書かれている事に、京子は安心していた。

 日向から出ることは無いと思っていた京子は、モンターナ語(スペイン語)が話せない。

 なので、日向語がそこかしこに書かれている事が、とても嬉しかった。


「早くモンターナ語の翻訳器を手に入れないとな……」


 昔村で会ったペドロとニコラスから聞いていたのでその事を知っている俊輔は、キョロキョロと町の中を眺めながら呟いた。

 この世界の錬金術は、魔力を大量に喰う割には大した道具が作れないせいか、あまり役に立たないように思われている。

 そんな錬金術でも幾つかの魔道具は作られていて、特にこの町では、日向との交易を行うために重宝される翻訳機能を持った魔道具が需要がある。

 指輪型やネックレス型等、身に付けるだけでモンターナ語と日向語を使い分けられる魔道具である。

 金額的にもそれほどしないそうなので、宿屋に向かう途中で買いたいところである。


「あっ? あれかな?」


 そう思っていた所にそれらしい魔道具店を見つけたので、俊輔達は寄って行くことにした。


「Bienvenidos!」


 店に入ると、店主らしき女性が声をかけてきた。


「……??? 俊ちゃん、何て言ってるの?」


 陽気に話しかけてきた女性に、かけられた言葉が分からなかった京子は、少し焦りぎみに俊輔に問いかけた。


「いらっしゃい! って言ったんだよ」


 少しだがモンターナ語が分かる俊輔が、京子に通訳した。


「ごめんなさい。日向の人が来ると、いつもこう言って慌てる姿を見るのが楽しいのよ」


 店主の女性はそう言って、楽しそうな笑顔を見せた。

 ハッキリ言っていい趣味とは言えないが、人柄のお陰なのか俊輔達はそれほど腹は立たなかった。


「いいんですよ。それより翻訳器の魔道具はこれですか?」


 店のカウンターの手前に、指輪等が置かれているスペースがあったので、俊輔は店主に問いかけた。


「そうよ! 2人は若いようだけど恋人同士かい?」


 欧米人からしたら、日本人は幼く見えると良く言うが、この世界でも大陸の人間からしたら日向人は幼く見えるのか、女性は若干からかった様子で話しかけてきた。


「いえ、夫婦です!」


 それをやんわりと否定して、照れた様子で京子は後半の言葉を強めに発した。


「……そ、そう? じゃあ、このお揃いの指輪なんてどうかしら?」


 京子の勢いに若干圧されながらも、女性は商売根性でおすすめの品を指差した。


「え~……、俊ちゃんどうかな~?」


 店主の前だと言うのに、京子は2人だけの空気を作り始めた。


「……京子に合ってるんじゃないか?」


「やだ~、もう~!」


 店主の女性が、爆発しろと言わんばかりの顔で我慢しているのが分かったので、若干苦笑しながら俊輔はお揃いの指輪を買うことにした。

 俊輔は内心、京子の未知の部分を見せられ戸惑っていたが、嬉しそうな京子を見てすぐにそれも消し飛んだ。


「……さて、それじゃあ、次は宿屋だね!」


 俊輔に買ったばかりの指輪をして貰い、京子は嬉しそうに宿屋探しに歩き出した。


「痛っ!? イテテテ……! おい! どこ見て歩いていやがるんだ!?」


 軽い足取りで俊輔の少し前を歩いていた京子だったが、冒険者風の格好をした恰幅の良い男が現れ、京子にぶつかり因縁をつけてきた。


「俺様を誰だと思ってやがるんだ!? Aランクの冒険者、ガビノ様だぞ!」


 どうやらぶつかった男は町でも有名らしく、名前を叫んだとたんに周囲の人々は「あの!?」とか「あれが!?」などと、小声で話をしあっていた。


「ホ~、中々の上物じゃねえか!? 詫びの代わりに俺に付き合え! 一晩相手するだけで勘弁してやるよ!」


 京子の容姿を見たとたん、男は下卑た笑顔で命令してきた。

 そして、京子の腕を掴む為に手を伸ばそうとした。


「あ”ん”っ!!?」


 さっきまで満面の笑みをしていた京子だったが、男の態度と、汚い手が近付く不快感から、ドスの効いた声を出した。


「ふべべべべ…………!!!!!」


 そしてその直後、目にも止まらぬマシンガンジャブを受けて男の顔面は、元々酷い顔が更にグシャグシャに膨れ上がって吹き飛んだ。


「殺すぞ! ターコ!」


 倒れた男に対して言葉を吐き捨て、京子はまた宿屋を探しに歩き出した。

 無惨な姿になった男は、そのまま放置された。


「…………怖っ!!」


「…………ピー!!」


 それらを全て見ていた俊輔とネグロは、怒った京子の姿に冷たい汗をかき、京子を怒らせないようにしようと目で誓い合い、黙って京子の後を付いて行ったのだった。


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