第72話
トウモロコシを満喫した俊輔は、翌日も植物ゾーンである階層を進んでいった。
結果的に、11層~19層は全て植物ゾーンで、この階層は俊輔にとって充実した階層だった。
魚や猪や鹿の肉は沢山手に入れていて確かに美味いのだが、さすがに飽きてきていた中、この階層で色々な種類の野菜魔物を倒す事によって、色々な野菜を手に入れる事が出来た為である。
「食べ物ってのは、無い時ほど有り難みが分かるってもんだな……」
脂の乗った肉ばかりの食生活が続いていたので、手に入れた野菜を使ったサラダを食べた時思わず呟くほど美味かった。
「ピー……」
久々のサラダに感動している俊輔の横で、従魔のネグロは肉の方が美味しいよと言っていた。
雑食のネグロだが肉が大好物らしく、野菜は添えられている程度で良いという感じである。
――――――――――
19層までの攻略を終え、拠点に帰って来た俊輔とネグロは夕食をとった後、明日に備えて話し合っていた。
「ネグ! 次はいよいよ20層だ」
「ピー!」
俊輔の言葉に、ネグロも真剣な顔つきで返事を返した。
「守護者がどんなに種類で、どんな戦闘形態だか分からないけど、倒さないと先に進めないからな……」
「ピー……」
俊輔とネグロは、10層の守護者のゴブリンに痛い目にあわされた事を思い出して苦い顔をした。
「……取りあえず薬草はかなり用意して置いたから、何とかなるだろう……」
前回の反省から、俊輔は回復薬を多めに持つようにしていた。
「今日はもう寝て、明日万全の状態で挑むぞ!」
「ピー!」
そう言って、俊輔達は眠りに就くことにした。
――――――――――
「フー!」
「ピー!」
20層の入り口手前で、俊輔とネグロは深呼吸をして気持ちを落ち着かせていた。
「よしっ! ネグ! 行くぞ!」
「ピー!」
声を掛け合い、気合いの入った表情で俊輔達は中に入っていった。
“ザッ!”“ザッ!”
俊輔達が進んでいくと、室内は背丈の短い草が生い茂る草原で、10層の時同様敵は現れず、恐らく室内の中央に当たる部分に、2m位の背丈の木が1本立っていた。
「…………」
俊輔は、無言でその木に向かって歩いていった。
その木との距離が10m位になった時、
「……ようこそ20層へ」
「!? 予想はしていたがあんたもしゃべるのか……」
その木が話し掛けて来た。
その2m位の木には顔があり、木の種類からいったら常緑針葉樹のアカマツと言ったところだろう。
通常、植物系の魔物が言葉を話す事はない。
しかし、10層のゴブリン同様言葉を話す可能性があるかもしれないと思っていたので、俊輔はそれほど驚く事はなかった。
「えぇ……、戦闘に知能は必要でしょ?」
アカマツは、女性口調で俊輔に対して話してきた。
「……まぁ、そうだな」
赤松の問いに答えつつ、俊輔は2刀の木刀を持ち、アカマツに向かって戦闘態勢に入った。
「……………」
「……………」
俊輔とアカマツは無言で対峙して、少しの間そのまま時間が経過した。
“ビュンッ!”
先に動いたのは、アカマツの方だった。
アカマツがカッと目を開いたと同時に、アカマツの針のような葉が俊輔に向かって高速で飛んでいった。
「速いな……、トウモロコシの弾丸より速いかもな……」
俊輔は高速針を横に躱し、その早さを冷静に批評した。
「……当然だけど、私を倒さないと先には行けないわ、よ!」
アカマツは台詞の最後の言葉と共に、俊輔に向かって高速針を連射した。
『他の植物系と同じで遠距離戦闘タイプみたいだな……』
俊輔は高速針を前後左右に細かく躱しながら、頭の中でアカマツの分析をしていた。
植物系の魔物は、移動速度が遅いせいか、遠距離攻撃を主とした戦いをするのがほとんどであった。
このアカマツもどうやらそういった種類のタイプのようで、俊輔は高速針を躱しながら距離を詰めるタイミングを計っていた。
「ピー!」
戦闘が始まると、すぐにネグロは上空に飛び上がって、攻撃を躱す俊輔の様子を見ていた。
そして、俊輔がアカマツに近付く機会を伺っているのを見て、その機会を作るべく得意の光魔法によるレーザー光線を赤松に向かって発射した。
「!!?」
アカマツもネグロの事は気にしていたので、根を足のように扱うことによって横に動き光線を躱した。
「ハッ!」
アカマツが光線を躱す事に意識が向いたので、高速針が止んだ為、俊輔は一気に距離を詰めて攻撃の態勢に入った。
そして気合いと共にアカマツの幹に向かって攻撃を放った。
“ガキンッ!”
「くっ!?」
しかし、俊輔の攻撃が当たる直前アカマツは魔闘術を発動して部分強化した事により、俊輔の攻撃は効果がなく、木刀が弾かれた。
その為、俊輔はその場から後方に飛び退き、また元の場所に戻った。
「………硬えな。やっぱすんなり行くわけ無いか……、それにしたって全く効いてないってのは結構へこむな」
10層の事があったので、俊輔自身簡単に倒せない事は覚悟していた。
先程の攻撃も魔闘術で強化して結構強めに木刀を振るったのだが、ただでさえ強固な幹をしている松系の人面樹、更にその変異種らしきアカマツが魔闘術を使うとなると、全くダメージを与える事は出来なかったようだ。
「フフッ、とても良い連係ね。でも私の防御力を突破出来るかしら?」
アカマツは俊輔とネグロに対して、笑顔で挑発的な言葉を放って来たのだった。




