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第68話

 激戦による精神的疲労が数日のダラダラで回復した俊輔は、拠点の洞窟から数日ぶりに外に出た。


「……まぶしい」


 久々の日の光りに、心地よい気持ちと共に、数日のダラけた生活で体が鈍っているのを感じた。


“パタパタッ!”


「ピー!」


 いまいちシャキッとしない俊輔をよそに、従魔の丸烏のネグロが元気に外を飛び回っていた。


「元気だなぁ~……」


 その姿を見て、俊輔は思わず呟いた。


“パタパタッ!”


「……? ネグ、遠くに行くと危ないぞ!」


 飛び回っていたネグロが、森の方に入って行ってしまった。


“スドンッ!”


「!!?」


 すると、ネグロが飛んで行った方から爆発音が響いた。


「ネグ!?」


 俊輔がネグロに何かあったのかと思い、慌てて爆発音のあった場所へ向かった。


「ピ~!」


“パタパタッ!”


「…………」


 音のあった場所へ着くと、黒焦げの巨大猪が横たわっていて、その周囲をネグロが飛び回っていた。

 この状況を推理すると、どうやらネグロはこの巨大猪が近寄ってきていた事に気が付き、自分から向かって行き、魔法を放って猪を倒したようだ。

 その事を理解した俊輔は、その光景を無言で眺めていた。


「何かずいぶん強くなってるな……」


 この島に流れ着いた当初は、俊輔自身罠にはめてようやく倒していたこの巨大猪を、ネグロ単独で余裕で倒せるようになっていた。


「ピ~♪」


 どうやらネグロは単純にお腹が空いただけだったようで、俊輔に向かって「猪肉♪」と言っていた。


「分かったよ。これもって帰ろう」


 俊輔はネグロにそう言って、魔法の袋に解体した巨大猪の肉を入れた。

 そして拠点に帰った2人(正確には1人と1羽)は、猪の肉を焼いて海水から作った塩をかけて食べた。

 最近は実家から持ってきた醤油と味噌は貴重になってきたのであまり使わないようにしている。

 この世界に転生してから家の手伝いで作り方は知っているが、手間がかかるので作っていない。

 そもそも材料がない。

 なので、醤油代わりに魚と塩で魚醤を作っている。


「さてと、俺もネグも強くはなってるけど、まだまだ強くならないと次の20層のボスでどうなるか分からないからな……」


 10層のボスだったイケメンゴブリンですらあの強さで、そいつ自身が下のボスからしたら雑魚だと言っていたので、今のままでは駄目だと俊輔は思っている。


「11層からは、フロアの魔物を正々堂々倒せるようになるまで、先に進まないようにしよう!」


 1層から9層までは、早く先に進みたい思いから、安全と速度重視で進んできた。

 これからは、魔物を安全に倒すのではなく、安全に進む為に魔物を倒して行く方針に変えた。


「取りあえず今日は右腕くっつけるか……」


 俊輔はそう呟いて、魔法の袋から10層ボスに吹き飛ばされた自分の右腕を取り出した。


「自分の腕ながらぐちゃぐちゃだな……」


 ボスを倒して、ボロボロの体を引きずりながらも拾ってきた自分の右腕は、折れた骨が肉を突き破って、おかしな形になっていた。


「……直すか」


 俊輔はまず、このぐちゃぐちゃの右腕を、回復魔法で直していった。


「よし! 後はこれがくっつくかだな?」


 俊輔は左手で、直した右腕を持って、今は回復薬などで治した切断面に触れさせた。

 ネグロの翼を再生させた事があるので、自分の右腕も再生できるのだが、時間がかかって仕方がない。

 なので、もしかしたらくっつければ早いのではと考え、右腕を拾ってきたのである。


「ハー……」


 俊輔は、切断面と右腕がくっつくイメージを強く思い、魔力を高めていった。


「ハー!!!」


 そして一気に全身の魔力を高めた。


「……おぉっ! やった成功だ!」


 魔力はごっそり持っていかれたが、右腕はイメージ通りくっつき、動かしてみても違和感はない。


「よし! ネグ! 明日から頑張るぞ!」


「スー、スー……」


 猪肉でお腹が膨れたネグロは、いつの間にか眠っていた。

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