第67話
“コツッ!”“コツッ!”
「…………」
“コツッ!”“コツッ!”
「痛えな! ……って、ネグか……?」
「ピ~♪」
頭を何度もつつかれるので目を覚ますと、10層の守護者と戦って体中が色んな痛みで横になっている俊輔の顔の側に立っていた。
「悪いけど体バッキバキで起きたくねぇんだ……、まだ寝かせてくれ」
そう言って、俊輔はまた目を閉じて寝ようとした。
「……ピー!!」
”コツッ!コツッ!コツッ!……“
「痛ててて……!! 分かった、分かったから嘴でつつくな!」
二度寝をしようとした俊輔に、ネグロは高速の連続嘴攻撃を放った。
それによって寝ていられなくなった俊輔は、上半身だけ起こした。
「体痛くて料理したくないから、これでも食って我慢してくれ……」
俊輔はそう言って、魔法の袋から以前調理して入れておいた鹿肉を取り出し、皿の上に置いてネグロに差し出した。
「ピ~♪」
“ガツガツガツッ!”
差し出された肉を見て、ネグロは嬉しそうに食べ始めた。
「は~……」
元気に肉を食べるネグロを見ていると、改めて生き残れたことに嬉しくなり、俊輔はため息をついた。
『何とか生き残れたけど、この結果はある意味運が良かったに過ぎないな……』
少し動かすだけで痛む体を眺めつつ、俊輔は今回の守護者との戦闘の事を考えていた。
『今回みたいな、かろうじて勝つみたいな戦いしてたら命が幾つ有っても足りないな……』
元気に肉を食べるネグロを横目に、俊輔は今回の戦いの反省点を改めて考える事にした。
『まず、今回の戦いで掴んだ魔力のコントロールを、もっと上手く使いこなせるようにしないとな……』
今回の戦いで掴んだ省エネ魔闘術を使いこなせるようになれば、もっと沢山の魔物と戦えることが出来るようになる。
しかし、この魔闘術は利点も有るが、欠点もある。
守護者のゴブリンを倒したときがそうだが、魔力を集めたところ以外の防御力が格段に下がる点である。
『もしも、全く知覚しないで攻撃を受けたら……』
欠点の事を考えていた俊輔は、欠点をつかれたときの結末がどうなるかを、自分の無くなっている右腕で身をもって体験している。
あの時はアドレナリンが出てたので我慢できたが、とてもではないがまた味わうにはヘビー過ぎる痛みである。
『もっと魔物を倒して地道に強くなるしかないか……』
この世界は、前世のRPGのように魔物を倒せば倒すほど、少しずつだが戦闘力が上がって行くようなので、俊輔はこれから1~9層の魔物達を倒して、コツコツ強くなるべきだと結論を出した。
「……ネグ! もっと強くなろうな?」
そう言って俊輔は、肉を食べ続けているネグロの頭を左手で撫でた。
「ピ~?」
言われたネグロは、食べるのに夢中で聞いていなかったのか、俊輔の言葉に口の周りを、肉にかかったソースまみれにしつつ首を傾げた。
「ハハッ……!」
あれほど緊迫した戦いをしてまだそんなに経たないのに、忘れたように呑気な行動をするネグロに、俊輔は思わず笑ってしまうのだった。




