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第66話

1度投稿したのですが、ちょっと書き足しました。読んでしまった方、申し訳ありません。

『痛ててて……、こんな痛いの初めてだぜ……』


 気を失っているネグロを巻き込まないように、その場から少し離れるように歩きながら、体の痛みに歯を食いしばりつつ、俊輔は心の中で呟いた。

 この世界に転生して、これまで多少の怪我なら負った事はあるが、今回のように死ぬ寸前の怪我など前世でも記憶にない。


『あぁ、でも前世で死んだからここにいるんだよな……』


 思い返してみると、死ぬほどの怪我はないが、死ぬ怪我は負ったからここにいる事を思い出した。


『覚えてないけど……』


 前世で崖から落ちた時、途中の岩で頭を打ったのか分からないが即死だったので、死んだ時の記憶はない。

 なので、やっぱり今回のような痛みは初めてである。

 動ける程度に魔法で回復させたが、魔力は残り僅かで、気を抜いたら倒れそうだ。


『こんな体でもやるしかないか……』


 ここから出て行くには、目の前の敵を倒さないとどうしようもない。

 この体で、しかも魔力は残り僅か、勝ち目の薄い戦いの為に、俊輔は右を前に半身でゴブリンに対して構えた。


「良い目付きだな……、覚悟を決めたって感じか?」


 構えた俊輔の目を見て、ゴブリンは嬉しそうに話した。


「……まあな」


 ゴブリンの言葉に、俊輔は短い言葉で返した。


「ヒリヒリするねぇ~……」


 俊輔の出す空気に、ゴブリンも真剣な顔をして拾った棍棒を構えた。


「………………」


「………………」


 2人共、無言で構えた状態からしばらく動かなかった。



“バッ!”


 先に動いたのは、ゴブリンの方だった。

 俊輔と比べればまだ魔力が残っているゴブリンの方が有利、とは言っても残りの魔力は少ない。

 時間をかけて俊輔の体と魔力が回復する前に勝負を決めようと思い、一気に近付き俊輔に飛びかかった。


「!!?」


 恐らくこの戦いで覚えた、強弱させる魔力操作を使ったのだろう。

 これまでよりも速度が上がったゴブリンの接近に、俊輔はとっさに両手と木刀に魔力を纏い、両手の木刀を交差して、ゴブリンが降り下ろす魔力を纏った棍棒を受け止めるよう動いた。


『甘い!!』


 ゴブリンは棍棒を降り下ろしつつ、俊輔の木刀が纏った魔力の量を見て、勝利を確信した。


“グシャ!!”


“ドサッ!”



 ゴブリンが思った通り、降り下ろされた棍棒によって、俊輔の右手は千切れ飛び、俊輔の後方に落下した。



「…………グフッ!」



“ドサッ!”



 この攻防により、決着が着いた。



 口から血を吹き、前のめりに倒れた。









「………………ぐっ!」


 この戦いで負った痛みによって、耐えきれず片膝を突いて俊輔(・・)は座り込んだ。


「………………くっ、……ハ、ハハ……、参ったな……」


 倒れたゴブリンは、まだ息があり途切れ途切れ言葉を発した。

 そのゴブリンの胸には、俊輔が持っていた木刀が貫き刺さっていて、地面に血の池を作り出していた。


「…………くっ!」


 膝を付いた俊輔は、魔法の袋から以前錬金術で作って置いた回復薬を有りったけ出して、血が吹き出す千切れた右腕の傷口にかけ始めた。


「……お前を倒すには、一瞬しか機会は無いと思ってた」


 魔法の袋に入れていた回復薬を全部使うことで、ようやく右腕の傷口が塞がった。

 それによって、俊輔はゴブリンと話し出した。


「……なる、ほど……、……だか、ら……」


「あぁ、右腕を犠牲にして、その機会を活かさせてもらった」


 俊輔が言ったように、ゴブリンの棍棒が俊輔の交差した木刀に当たる瞬間、俊輔は右手と右手に持った木刀に纏った魔力を解除して、素の状態の右に持った木刀だけで受けつつ交わし、解除した右手の分の魔力を左手の木刀に込めて攻撃に意識が向いていて、体に纏う魔力が減っていたゴブリンの胸に突き刺したのだった。


「最後の最後に、お前は俺と同じ魔力操作をしたのが間違いだったな」


 俊輔にしても賭けだった。

 俊輔は、ゴブリンも魔力が残り少なくなっているのが分かっていた。

 理由としては、左半身に受けて吹き飛ばされた俊輔が、辛うじてだが死ななかった為である。

 ゴブリンが防戦一方で不利な状況から練った、賭けに近い攻撃に全力の力を込めたはずなのにである。

 しかし、その全力の攻撃で、防御したとはいえ俊輔が死ななかったのは、魔力が足りなかったからだろうと、ネグロが稼いだ時間の中で、回復しながら思っていた。

 ゴブリン自身も魔力が少なくなっているのであれば、最後の攻撃は残り僅かの魔力を強弱の魔力操作によって、攻撃威力を高めて確実に自分を殺しに来るはず、と俊輔は考えていた。


「自分で思い付いといてなんだが、あの魔力操作は攻撃を交わされた時、防御が脆い諸刃の剣だ。だから俺は、お前が向かってくるのを冷静に待ち、攻撃を躱すことに全力集中した。更にお前の攻撃の意識が切れないように右腕を犠牲にして、俺の攻撃の機会を確実にした」


「……ハ、ハ、……やら、れたよ……、……だが、……俺を、相手に、ギリギリじゃ……、……ここ、から先、……どこまで,行けるかな……?」


「……最後まで行くさ! 俺はここから出て世界旅行に行くんだから……!」


 ゴブリンの途切れ途切れの言葉に対して、俊輔は力強く左手の拳を握りしめた。


「……そん、な理由、かよ……、………………」


 俊輔が言った事に突っ込んだ後、ゴブリンは力尽きたのか動かなくなった。


“コゴゴゴゴッ…………!”


「……!!?」


 ゴブリンが倒れた為、次の層へ行く通路の扉が開いた。

 俊輔はゴブリンの死体と、千切れた自分の右腕と、自分の2本の木刀を魔法の袋に仕舞い、ネグロを左手で抱いて開いた扉に向かってゆっくりと歩き出した。


「…………長かった」


 思わず呟き、俊輔は移動魔法のプエルタを使うときの為に、開いた通路の中に2、3歩入り、座り込んだ。

 プエルタは、1度行った場所でないと行けない。

 通路に入らないで帰ったら、また10層でゴブリンと戦わなければならなくなる。

 その為に通路に入ったのだが、体力も魔力も限界な俊輔は、座り込んで気を失いそうになるのを我慢して、魔力の回復を待ち、少し溜まった魔力を使ってプエルタで拠点に帰り、死んだように眠りについたのだった。

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