第65話
すいません。また遅れました。次こそは遅れないようにがんばります。
「グッ……」
ゴブリンの攻撃を受け吹き飛ばされた俊輔は、体の左半身のダメージがひどく、痛みで意識が失いかけていた。
「ぐうっ……」
俊輔は強烈な痛みに耐えつつ右手を動かし、回復魔法で左半身の回復をし出した。
“ザッ!”“ザッ!”
俊輔に攻撃を加えたゴブリンは、俊輔の元に向かわず、ゆっくりと離れていった。
“ガッ!”
「痛てて……、身体中アザだらけだぜ……」
ゴブリンは俊輔によって遠くに蹴飛ばされた自分の棍棒を拾い、自分の体を見つつ呟いた。
「しかし、久々のガチンコ勝負が出来てとても楽しかったぜ!」
棍棒を拾ったゴブリンは、ゆっくりと、まだ動けないでいる俊輔に向かって歩き出した。
「おっ!? 予想していたけど回復魔法が使えたか?」
蹲りながら回復を計る俊輔を見ても、ゴブリンは焦ることなく俊輔に歩き近付いて行った。
『くそっ! 落ち着いてやがる』
俊輔は回復しながら、頭の中で近付いてくるゴブリンを分析していた。
『分かっていたはずなのに……、まんまとやられちまった』
そう、俊輔はこのゴブリンをただの脳筋ではないことを理解していたはずだった。
状況的には優位に立ち冷静に戦ったはずなのに、その事を忘れていた為に、このような状態になってしまった。
「一か八かの考えだったが、上手くいって良かったぜ」
俊輔がゴブリンにやられたのは、この闘いで俊輔が身に付けた技術を、ゴブリンも使って来た事により、このような状況になったのである。
「まさか、追い込まれていたあそこで使うとは思わなかったろ?」
ゴブリンのいう通り、攻撃を受けるまで俊輔の頭には浮かばなかった戦術である。
劣勢ながら時間をかけ、あの一瞬、俊輔が使う魔闘術を真似て纏う魔力を抑え、その事を魔力切れと思った俊輔の大振りの攻撃をかわし、拳に魔力を纏い渾身の裏拳を、俊輔の左半身目掛けて振り抜いたのだった。
「お前のように、瞬間的に魔力を纏うのをしながら闘い続けるなんて、今の俺には出来ねえけど、数回位は出来るんじゃねえかと闘いながら思ったんだ。」
『思い付きを実行するなんて、どういう神経してやがんだ……』
ゴブリンの言葉に、俊輔は心の中で突っ込んだ。
「元々の魔力量はお前の方が上かもしれねえが、回復魔法なんて使ってたら、とてもじゃねえが残りはわずかだろ?」
ゴブリンは、俊輔を仕留めようとすれば一足跳びの距離に入った。
『……どうする? 悔しいが奴の言ってる事は正論だ。残りわずかの魔力で勝つには……』
「ピーーー!!!」
“ドンッ!”
「おっと!」
「……ネ、グ……!?」
俊輔に近付くゴブリンの前に丸烏のネグロが割って入り、ゴブリンを俊輔から離そうとレーザー光線を放った。
ネグロの攻撃に、ゴブリンはバックステップでかわし距離をとった。
「主人のピンチに助けに入るとは……、本当にイカした丸烏だな……」
「ピーー!!」
“ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!……”
俊輔を痛め付けたゴブリンに対して、ネグロは怒りで我を忘れたように、連続でレーザー光線を放ちまくった。
「ヨッ! ハッ!……」
しかし、ネグロの攻撃に慣れたのか、ゴブリンは危なげなく余裕すらうかがえるようにかわし続けた。
「……ぐっ! ……やめ、ろ! ネグ……」
「ピーーー!!!」
“ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!……”
俊輔の制止の声を聞かず、避けられると分かっていても、ネグロは懸命に魔法を放った。
しかし、それもネグロの魔力が尽きるまでの短い時間だった。
「ピー……、ピー…………」
魔力が切れ、魔闘術も使えなくなっても、ネグロは魔法を続けようとするが魔法は発動せず、とうとうネグロは気を失ってしまった。
「ネグ……」
俊輔は気を失ったネグロに近付き、優しく頭を撫でた。
「俺の為に時間を稼いでくれてありがとな……、ここでゆっくり休んでろ……」
俊輔が言ったように、ネグロのデタラメ攻撃によって、俊輔が回復する時間を稼ぐことが出来た。
「おっ! 回復したか? でもお前もその丸烏同様魔力切れ寸前だろ? まだやる気か?」
「あぁ、お前を倒して、後でネグロに上手いメシ食わせてやらねえとな……」
そう言って、俊輔はゴブリンとの決着をつける為に両手に木刀を持ち、ゴブリンに向かって構えた。




