第64話
申し訳ございません。遅くなりました。
第10層の守護者のイケメンゴブリンと戦っている俊輔は、魔力を操る事に集中していた。
『……まだ慣れないな。ちょっとでも集中が切れると殺られるかもな……』
俊輔が思い付いたのは、このゴブリンを倒すには魔闘術に多くの魔力を注がないとならないのだが、最初から魔闘術を使っている俊輔は、魔力を高めて戦っても倒す前に魔力が尽きてしまう。
なので、全身の魔力を高めるのではなく、地面を蹴る瞬間や攻撃する瞬間にだけ魔力を高める事で、魔力の消費を押さえて戦うと言うことである。
「何だか分かんねーけど、急に強くなったな……」
俊輔を笑顔で眺めながら、ゴブリンが話しかけた。
「…………」
“ダンッ!”
俊輔は、ゴブリンを無視して動き出した。
「!!?」
地を蹴る瞬間に魔力を足に集めて、戦闘を開始した時とは比べ物にならない速度で、ゴブリンの右側に回り込んだ。
「……くッ!」
辛うじて俊輔を目の端で捉えたゴブリンは、咄嗟にバックステップしてその場から離れた。
“ブオンッ!”
ゴブリンが躱したすぐ後、ゴブリンがいた場所を俊輔の右手の木刀が通り抜けた。
「チッ!」
運良く躱せたゴブリンは、舌打ちと共に攻撃後の隙をついて左拳を降り下ろした。
“フッ!”
「なっ!!?」
ゴブリンが捉えたと思った拳は空を切った。
俊輔がゴブリンの拳が当たる瞬間に、消えるようにその場から離れた為である。
「ハッ!」
攻守交代し、今度は隙が出来たゴブリンに向かって俊輔が攻撃した。
「おわっ!!?」
“ドガガガ……!”
俊輔の左右から繰り出される木刀の連撃を、ゴブリンは左手だけで懸命に防いだ。
“ガッ!”
「ぐっ!!!」
しかし片手では全ての攻撃を防ぎきれず、俊輔の左手に握られた小太刀の木刀が脇腹に直撃した。
“バッ!”
この間合いを不利に思ったゴブリンは、受けた攻撃の方向に逆らわず飛び、距離を取ろうとした。
「逃がさない!」
離れようとするゴブリンを追いかけ、俊輔は間合いを詰めようとする。
「……くっ! オラー!!」
“ドゴンッ!”
「!!?」
俊輔が追いかけてくるのを嫌がったゴブリンは、咄嗟に拳を地面に叩き付けた。
ゴブリンの拳が地面を叩くと、土煙と共に石が弾丸のように飛び散り、俊輔の追随を退ける。
「痛つつ……、こりゃヒビが入ったな……?」
俊輔の小太刀が当たった場所をさすりつつ、ゴブリンはダメージを確認した。
“タンッ!”
「……休ませないぜ!」
「ゲッ!!?」
俊輔からしたら土煙の煙幕など大した意味が無く、探知魔術でどこにいるかはすぐに分かる。
俊輔は、一息付くゴブリンの懐に入り込み、呟くと同時にまた連撃を開始した。
“ドガガガ……!”
「ガー!」
俊輔の攻撃を、ゴブリンは魔闘術の魔力を高めて徹底的に防御に回った。
俊輔が距離を詰めて攻撃すれば、懸命に防御して距離をとるゴブリンの構図が続いた。
『くそっ! しぶといな!』
逃げ回るゴブリンのしぶとさに、俊輔は心の中で愚痴をこぼした。
『だけどあの魔力量の魔闘術なら、先にあいつの方が魔力が切れるはず……』
防御の為に魔力を高めたゴブリンは、俊輔と違い細かい魔力操作が出来ないらしく、全身の魔力を高めて戦っている。
この状況ならゴブリンが先にガス欠(魔力切れ)すると見越した俊輔は、冷静に距離を詰めての攻撃を繰り返した。
「ダリャー!」
同じ攻防を15分近く繰り返し、その瞬間は訪れた。
「ぐっ!!?」
“フッ!”
これまで通り俊輔の攻撃を防いでいたゴブリンの纏う魔力が、分かりにくいがわずかにしぼんだ。
「!!?」
その瞬間を見逃さず、俊輔は攻撃時に瞬間的に纏う魔力の量を増やし、一気に勝負を有利にしようと試みた。
“ドカッ!”
俊輔が右手の木刀で、ゴブリンの防御する左手ごと叩き潰そうと瞬間的に魔力を高めて攻撃した直後、攻撃によって吹き飛び、部屋の壁に叩きつけれた。
「グハッ!!」
攻撃のダメージと壁に叩きつけられた衝撃によって、吐血した。
そして壁に寄りかかるようにして、虚ろな目をしつつ座り込んだ。
俊輔が……




