第63話
「オラーー!!」
“ズガンッ!!”
魔闘術を纏ったゴブリンの左拳が、先程まで俊輔が立っていた床に穴を開けた。
「……フー!」
俊輔は、ゴブリンの攻撃を既の所で躱し、一息ついてゴブリンを注意深く眺めた。
『危ねー! あんなの1発でもくらったらヤバイって……』
俊輔は冷静な表情を作りながら、心の中で焦りまくっていた。
『先に片腕と武器を奪えたのは運が良かったな』
先程の攻撃も、武器を使っての攻撃だったら躱せたか分からなかった。
「良く躱したな? だがいつまで逃げられるかな?」
“バッ!”
言葉を発し、ゴブリンはまた俊輔に向かっていった。
「……ハッ!」
“ボウッ!”
俊輔は気合いと同時に、纏っていた魔力の量を増やした。
「!!?」
“ドガッ!”
ゴブリンの左拳を、俊輔は2本の木刀を十字に構え、木刀で攻撃を受けた瞬間威力に逆らわず後ろに飛び下がった。
「へー、上手く威力を逃がすな……」
ゴブリンは嬉しそうに俊輔の事を褒めた。
『手の痺れが治まるのが間に合ってよかった……』
一方俊輔は、綱渡りのような状態だ。
片腕だけでは受け切れないし、かと言っていつまでも逃げ切れるとは思わない。
丁度左手の握力が戻ってきたので、ゴブリンの攻撃を受け止める為、一気に魔力を高めた。
何とか受けることが出来たが、このままでは魔力の消耗が激しく、魔力切れになって終わりだ。
「嬉しいねぇ~、こんな所で何十年も暇していたから、お前みたいな楽しい相手が来てくれて嬉しいぜ!」
ゴブリンは心底嬉しそうに話ながら、俊輔に向かって構えた。
「チッ! ただの戦闘馬鹿でもないか……」
ゴブリンも先程の攻撃で、そのうち俊輔の魔力が切れる事を理解したのか、自分から攻撃する事を止め、待ち構える事にしたようである。
俊輔にとって一番嫌な戦略を取られた。
『このままでは殺られる。魔力を押さえつつ、奴に攻撃を与えないと……、くそッ!』
俊輔は頭の中で、ゴブリンを倒す為の方法がないか懸命に探しているが全然見つからない。
「ピ~……?」
俊輔が頭の中で考えを巡らせている中、丸烏のネグロは心配そうに俊輔の側に飛び浮かんでいた。
「……ネグ! お前はあいつの遠方から隙を見て攻撃しろ!」
「ピー!」
俊輔の指示を受けたネグロは、了解の返事をした。
『俺はどうすれば良い……?』
「考えている所みたいだが、このままの膠着状態じゃつまんねえぜ!」
悩んだままでいる俊輔を見て、ゴブリンは足下の石を拾い上げた。
「まさか……?」
「オラー!」
ゴブリンはそのまま投球フォームを構えると、離れた距離から魔力を纏わせた石を俊輔に向かって投げつけた。
「くっ!」
コントロール良く、俊輔の足めがけて豪速球の石が飛んで来たので、俊輔は慌てて石を躱した。
『……どうすれば、……どうすれば』
「オラ、オラー」
躱しつつも攻略法を考えている俊輔に向かって、ゴブリンは次々と石を拾っては投げ、拾っては投げを繰返した。
『……魔力を無駄なく、最小限で交わしつつ、攻略法を考えろ!』
俊輔はゴブリンの攻撃で考えを纏める時間がなく、焦りながら攻撃を躱していた。
『……魔力を無駄なく、……無駄なく』
「……おっ!?」
俊輔が魔力を無駄なく使う事ばかり考えていたら、次第に俊輔の様子が変わって行った。
その事に気付いたゴブリンは、石を投げるのを止めて、様子が変わった俊輔の事を見つめていた。
「……そうか。……よし!」
自分の行っていることに気付いた俊輔は、少しの光が見えた気がした。
「ネグ! 行くぞ!」
「ピー!」
光明が見えた俊輔は、ゴブリンに向かって攻撃を開始する事に決めた。
「ハハッ! 面しれ~、かかってこいや!」
俊輔の目つきが変わった事に、ゴブリンは嬉しそうに手招きした。
「ハッ!」
気合いと共に飛び出した俊輔は、これまでよりも高速でゴブリンに接近した。
「!!? 速っ!」
驚くゴブリンに向かって、俊輔は右の木刀で斬りかかった。
“ガッ!”
高速の俊輔の攻撃を、ゴブリンは辛うじて腕で防御した。
「くっ!」
“ブンッ!”
ゴブリンは防御した後、俊輔に向かって右足で蹴りを放ったが、そこには俊輔の姿はなく空振りに終わった。
ゴブリンが構え直すと、俊輔は元の位置に戻り新しい技術の確認をしていた。
「…………速えー、速えー」
明らかに自分が不利になったのにも関わらず、ゴブリンはまだ少し嬉しそうに呟いた。
「…………」
一方俊輔は、新しい技術に神経を使っているので、ゴブリンの相手をしている暇はなかった。
「……ピ~」
2人から離れた場所で、ゴブリンの隙をうかがっていたネグロだが、2人の攻防に関われず相手にされないでいた。




