第62話
「だりゃー!」
俊輔と丸烏のネグロは現在、10階層守護者のイケメンゴブリンと戦っていた。
「ぬっ!」
“ガッ!”
魔闘術を発動した俊輔の2刀と、ゴブリンの棍棒がぶつかり、つば競り合いの形になる。
「くっ!」
「ぬおっ!」
俊輔とゴブリンの力は拮抗していて、その場から2人とも動けないでいた。
「ピー!」
“ボッ!”
「っ!!?」
俊輔とつば競り合いをしているゴブリンの真横から、ネグロが得意魔法のレーザー光線を放つが、それを察知したゴブリンはその場から後方に飛び退いた。
「ふー……、この島の魔物だけあるな……、ゴブリンの形をした化け物だな?」
「ハハッ、嬉しい誉め言葉だぜ!」
俊輔の言葉を聞いたゴブリンは、笑顔で言葉を返した。
「だが坊主! 俺なんて所詮は10層レベルの魔物だ。下に行けば行くほど俺なんかただのゴブリンに過ぎねえって理解するぜ!」
「……マジかよ?」
たった一度の接触で、俊輔はこのゴブリンの実力がとんでもない事を察知した。
そのゴブリン以上の強さの魔物がまだまだいると言う事に、俊輔の背中に嫌な汗が流れた。
「行くぜ!」
“バッ!”
「なっ!!?」
一言と共に駆け出したゴブリンに構えた俊輔だったが、途中で進路を変更してネグロの方に向かって行った。
「お前にウロチョロされると邪魔なんでな!!」
「ピッ!?」
ゴブリンは、棍棒をネグロに向かって降り下ろした。
“ボッ!”
「ピー!!」
「なっ!!?」
ネグロは棍棒が迫る中、魔闘術を発動させギリギリで攻撃を躱した。
ゴブリンは、ネグロに攻撃を躱された事と、魔闘術を発動した事に目を見開いて驚いた。
「ドラー!!」
“バキッ!”
「ぐおっ!」
“カランッ!”
ネグロに攻撃を躱され、隙が出来たゴブリンに対して俊輔は、右手に握った太刀の長さの木刀を叩き込んだ。
俊輔の攻撃を受けて吹き飛ばされたゴブリンは、右腕の骨がへし折れ、持っていた棍棒を落とした。
「武器が無ければ勝ち目はないだろ!? 大人しく次の階層の扉の場所を教えろ!」
この数回の衝突で、このゴブリンの攻撃力はかなりのものなのは分かった。
しかし、速度においては完全に俊輔の方が上。
武器を無くした状態では負けるつもりは毛頭ない。
俊輔は、ゴブリンが落とした棍棒を、足でゴブリンとは反対方向に蹴飛ばし、扉の場所を問いただした。
この階層は全体が草原になっていて、周囲は全て見えているのだが、出口の扉が見当たらなかった為だ。
「……ククッ、生憎ここは俺を殺さないと、次の階層の扉は開かない事になっている」
折れた腕を抑えつつ立ち上がり、ゴブリンは答えた。
「まったく、面白い魔物を連れた小僧だな……、まさか魔闘術まで使いこなすなんてな……」
「自慢の従魔だよ!」
「ピー♪」
ゴブリンの言葉に胸を張りつつ俊輔は答え、俊輔の言葉を聞いたネグロは嬉しそうな声をあげた。
「なるほどね……。だが勝った気になるのは早いぜ!」
“バッ!”
そう言ってゴブリンは、俊輔に向かって行った。
「特攻か!?」
話している時でも、油断なく構えていた俊輔だが、まだ諦めていない目をして向かって来るゴブリンに、警戒を強めた。
「オラー!!」
“ボッ!”
「っ!!?」
ゴブリンが左手を突き出して向かって来た為、俊輔は左手に持った小太刀の木刀で防いで、反撃をしようとした。
しかし、攻撃が小太刀に当たる直前、ゴブリンがこれまでは使っていなかった魔闘術を発動させて来た。
“ドカッ!”
「ぐっ!?」
「ピー!?」
ゴブリンに小太刀を力任せに殴られた俊輔は、回転しながら吹き飛ばされた。
ゴブリンが魔闘術を発動した事に驚き、俊輔がかなりの距離吹き飛ばされた事を心配して、ネグロは俊輔に向かって飛んでいった。
「ピー……?」
「大丈夫だ! 心配するな!」
俊輔は心配するネグロを安心させる為、こう言った。
俊輔が攻撃を小太刀で受けた瞬間、後ろに自分から跳ぶことで威力を抑えたのに、小太刀を握っている左手は先程の一撃によって痺れていて、小太刀を落とさないでいるのが不思議な位である。
『魔闘術無しで拮抗していたのに、魔闘術まで使われたら完全に力負けする……』
ネグロに大丈夫と言いつつも、俊輔は頭の中でかなり焦っていた。
「へへっ、その丸烏だって使えるんだ。俺が使えないとでも思ったのか?」
「……へー、こいつは1本取られたな」
手の痺れが取れない俊輔は、ゴブリンの言葉に乗っかる形で時間を稼ごうとした。
“バッ!”
「おっと、時間稼ぎはさせないぜ!」
「くっ!!?」
俊輔の左手の状態を察知したゴブリンは、魔闘術を発動したまま、また俊輔に接近していった。




