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第61話

 俊輔と従魔の丸烏のネグロは、作戦を駆使して魔物達を倒して階層を進んでいった。

 階層を重ねると新種の強力な魔物が現れるが、手こずりつつも俊輔達は連携して倒すことで、何とかこの島に着いて3ヶ月で10階層にたどり着いた。


「ネグ! ようやく10階だぞ!」


「ピー♪」


 前世のラノベなら恐らく守護者との戦闘になるであろう階層に、俊輔は今まで以上に気を引き締めた。

 ネグロはそんな事は気にせず陽気に返事をしていた。

 9層の出口から続く緩い下りの通路を歩いて行き、10階の入り口に着いた。


「ふ~……、行くか?」


 入り口で1度深呼吸した後、俊輔は探知魔術を使いつつ慎重に中に入っていった。


「……!?」


 中に入ると、これまでと同じ大きさ位の大きさの部屋のようだが、中はこれまでと全く違い床が全面芝生に覆われていた。


「……ゴブリン!?」


 入り口から真っ直ぐ進んで行っていると、遠くにゴブリンのような魔物が小さな岩に座っていた。


「……イケメンだ!」


 近づいて行きよく見てみると、そのゴブリンの容姿がとても整っていることに気付いた。


“スッ!”


 俊輔達が少し距離を置いて立ち止まると、そのイケメンゴブリンは座っていた岩から降りて俊輔達を眺めた。


「10階へようこそ! 幼き日向人……」


「!!? ゴブリンが喋った!?」


 そのゴブリンは黒皮のベストに膝まである腰布を巻いていて、刀と同じ長さの木製バットのような棍棒を持っていた。

 そしてその口から発せられたのは、普通のゴブリンではあり得ないほど流暢な日向語であった。


「この10階に人がたどり着いたのは確か6、70年ぶりだったかな?」


 俊輔の驚きの言葉を無視して、そのゴブリンは話を始めた。


「この階層に来た人間にこの島の説明をする為、俺はここにいる」


「おおっ! やっとこの島からの脱出方法が分かるのか……」


 イケメンゴブリンの言葉を聞いて、ようやく予想ではなく真実が分かるのだと思い、俊輔はテンションが上がった。


「まずもう気付いていると思うが、この島はダンジョン化している。そしてお前が入ってきた入り口から,地下へ地下へと階層が続いていて10階ごとに守護者が存在する。そして階層を重ねるごとに魔物は強力になっていく」


「まぁ、予想通りだな……」


 ゴブリンが言うことは俊輔の予想通りで、その予想が正解だったに過ぎず大して気にしなかった。


「この島に入った生き者は、死んでしばらくするとこのダンジョンに吸収され、ダンジョンの栄養になる。この島が出来て随分経ってから、この島の攻略に何千、何万の冒険者がやって来た。冒険者は色々な種族が入島してきたが、誰一人攻略出来ずこの島の栄養になっていった。その中にはもちろん日向人もいた」


「……そんなことより、この島から出るにはどうすりゃ良いんだ!?」


 ゴブリンの説明を待ちきれず、俊輔は脱出方法を尋ねた。


「それはこの先を進み続ければ最下層にたどり着く、そこの守護者を倒せばこの島の結界は数日間解除される。その解除期間に島から出れば脱出出来るだろう」


 これまた予想していた通りの答えであった。


「……で? その一番大事な最下層は何層なんだ?」


 俊輔が今一番聞きたいのはこれであった。


“ニヤリッ!”


「…………100層だ!」


 ゴブリンは、俊輔が真剣な顔で聞いてきたので、にやけつつ絶望的な数字を答えた。


「……ひゃ、100層?」


 俊輔は、たった10層で3ヶ月もかかったと言うのに、まだ1/10だと言うことに絶句した。

 単純に計算して、2年半はかかる計算だ。

 しかも、10階にたどり着くまでですら四苦八苦して来たのに、それ以上の魔物達を相手にして階層を降っていかなければならないのかと思うと、それ以上の月日が平気でかかることは明白である。

 そもそも、そんな魔物達を相手にして、生き残れるのかが疑問である。

 その事を考え、俊輔はゴブリンから発せられた言葉に気分が落ちた。


「ふざけんなよ……」


 落ち込んだ俊輔は、思わず力のない言葉を呟いた。


「さて……、落ち込んでいるところ悪いが始めるとしようか?」


“スッ!”


 そう呟いた後、ゴブリンは持っていた棍棒を俊輔に向かって構えた。


「……えっ!?」


 頭の中が真っ白になっていた俊輔は、その言葉を理解するのが遅れた。


“バッ!”


 脱力している俊輔をよそに、ゴブリンは俊輔に向かって突進した。


「!!?」


「ピーー!!」


“ボッ!”


 剣を構えるのが遅れた俊輔に代わって、ネグロが得意のレーザー光線をコブリンに放った。


「!!?」


 今度はゴブリンの方が驚き、光線を避けるためバックステップして最初の岩の前に戻った。


「驚いた……、まさか丸烏が魔法を放つとは……」


 ゴブリンはネグロの攻撃を驚きつつ、また棍棒を構えた。


「助かったぜ! ネグ!」


 落ち込みから立ち直った俊輔は、ネグロに礼を言いつついつもの木刀を両手に持ち、ゴブリンの攻撃に備えた。


「俺が10階層の守護者だ。俺を倒さないと先へは進めないぜ!」


 俊輔は、先ほどゴブリンが言ったことを思い出した。

 ゴブリンは「10階層ごとに守護者が存在する」と言っていた。

 この階層には、このゴブリン以外の生命は感じない。

 だからもっと早く気づくべきだった。

 このゴブリンがこの階層の守護者だと言うことに……

 この事に気付くのが遅れ、もしもネグロがいなかったらさっきのことで死んでいた。

 その事に気付いた俊輔は、自分に腹が立った。


「くそったれー!!」


 その怒りを言葉に出して、すぐにゴブリンとの戦闘に集中したのだった。


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