第60話
「良いか? 打ち合わせ通り行くぞネグ!」
「ピー!」
以前と同様に、最初の階層入り口で俊輔はネグロに話しかけた。
「とうっ!」
俊輔は掛け声と共に階層内に入り、1番近い魔物の集団に向かって走り出した。
「ダリャー!」
そして魔法の袋に入れておいた石を、出しては魔力を込めて投げ、出しては魔力を込めて投げを繰り返し、数匹の魔物にダメージを与えて注意を引きよせる。
今回も前回同様、巨大蟻との戦闘になった。
「ギギッ!」
「ウオーーー!!!」
蟻を引き連れつつ、ネグロが待つ階層入り口の方へ全力疾走して逃げた。
「ネグーー!! 行くぞーー!!」
「ピーー!!」
俊輔の合図を聞いて、ネグロも返事をする。
そして俊輔は階層入り口から通路を走り、ネグロの所で止まって振り返った。
「ピーーー!!!」
ネグロの得意魔法であるレーザー光線を、俊輔を追いかけてきた蟻目掛けて発射する。
“ズドーーーンッ!!!”
蟻達は避けられず直撃し、数匹の魔物が吹き飛んだ。
「ハァー! オラーーー!!!」
“ズドーーーンッ!!!”
ネグロの光線を受けずに追いかけてきた残りの蟻目掛けて、俊輔は魔力を込めた斬撃を飛ばして吹き飛ばした。
「やっぱりこの戦法が安全かな?」
「ピー!」
倒した蟻達の魔石をネグロと拾いつつ、俊輔は呟いた。
俊輔がネグロと立てた戦法は、最初に階層に来たときにたまたま上手くいった事を、今度は意図的に行うといった単純な事である。
階層の魔物はでかい魔物しかおらず、通路に引き寄せてしまえば1列で向かって来るので、魔法の的状態になる。 後は、魔法をぶっ放して吹き飛ばすだけである。
それから1日、同じ戦法で何度も繰り返した。
「一応数は減ってるみたいだけど、まだまだ先は長いな……」
今日1日で蟻やギガンテス等の魔物を結構倒したのだが、探知魔術で調べると大して減っていない事に気付き、先の長さに俊輔は少々うんざりした。
「ピー!」
「んっ? そうだな今日は魔力使いまくったから帰るか?」
この戦法は安全だが魔力を結構使うのがデメリットである。
体力的にはなんともないが、魔力を消費すると精神的に疲労するので、余裕がある内に拠点に帰る事にした。
「プエルタ!」
訓練によって、最適な魔力で素早く転移魔法を発動できるようになった俊輔は、魔物と戦っていても転移魔法分の魔力は残してある。
ここから拠点まで距離はないが、更に素早く発動できるように練習もかねて俊輔は転移魔法を発動した。
「ピー♪」
「そうだな、今日も巨大鹿が手に入ったし鹿肉料理にするか?」
今日俊輔達が倒した魔物の中には、巨大鹿もいた。
この島全体で倒した魔物は、そのまま放っておくと15分ほどで全てが消え去ってしまうので、魔物の中で素材になりそうな部分は、15分以内に採取しておく必要がある。
巨大猪や巨大鹿の肉は、特に俊輔達からしたら数少ない食材の1つである為、倒したらすぐ血抜きをして魔法の袋にしまうようにしている。
前回鹿肉を食べた結果、ハンバーグが1番美味かったので今回もまた作ることにした。
玉ねぎが無いので、島に生えていた玉ねぎに似た味の野草を代用した。
前世の記憶が確かならば、恐らくノビルと呼ばれる野草だろう。
水仙と間違えると食中毒になってしまうので、ちゃんと鑑定して食べられることは確認済みだ。
ノビルの葉っぱはニンニクの香りがするので、ハンバーグの種に細かく刻んで入れて香り付けにした。
味付けのはコショウは無いが、海水から魔法で作った塩があるので十分である。
「よしっ! 出来たぞ!」
錬金術で作った石のフライパンで焼き上がったハンバーグを、これまた錬金術で作った木のお皿に盛り付ける。
「ピー♪」
出来上がったハンバーグを見て、ネグロは嬉しそうに飛び跳ねた。
「では、いただきます」
「ピー♪」
ネグロもちゃんと翼を合わせて挨拶し、食事を始めた。
「おっ!? 上手く出来たな?」
「ピー♪」
ハンバーグを食べた俊輔の言葉に、ネグロも嬉しそうに返事を返した。
「今度は猪肉との合い挽きも試してみるかな?」
「ピー♪」
元々何でも食べるネグロだが、俊輔が作るハンバーグが気に入ったのか作ってあげると喜ぶので、この島に来てから結構な頻度で食べている。
「さてと、今日も疲れたしさっさと寝るか?」
「ピー……zzz」
夕食を食べ終わり、いつも通り転移魔法の練習で魔力を使いまくって俊輔は寝床についた。
お腹のふくれたネグロはうとうとしていたが、俊輔の言葉を聞いてそのまま眠りついた。
――――――――――――――――――――
翌日も、魔物を通路に連れ込む作戦で階層の魔物を削っていく事を繰り返した。
「ようやく減ってきたかな?」
この戦法を始めてから4日ほどで1/3の魔物がいなくなった。
魔物が減ったことで、少しだがこの階層を調べることが出来るようになった。
この階層の大きさは、島の地上の大きさと同じくらいの広さよりやや広い位でドーム状になっているようだ。
ドーム状の天井から光が照らされていて、その光によって地上同様に草や木が生えていて、地上同様草原や林等が出来ていて、それによって魔物達は棲みかを分けているようだ。
「あれっ?」
「ピッ?」
この日階層を探索していたら、入り口の反対側にこの階層の出口が見つかった。
「ようやくここから出られるかな?」
淡い期待をしつつ、頭にネグロを乗せて最初の階層の出口に入って行った。
「あぁ……、こりゃまだまだ続きそうだな?」
階層出口をそのまま進むと、以前同様に緩い曲線の廊下が続いている。
その光景に俊輔は、なんとなくだがそんな感じがした。
「やっぱりな……」
「ピー……」
言葉の通り、俊輔達の前には次の階層の入り口が広がっていた。
パッと見た感じ、最初の階層より林の割合が多い気がする。
「またコツコツやるか……」
「ピー……」
最初の階層で魔物を倒しまくり、俊輔達は少しずつだが強くなってはいるのだが、ここの魔物達の強さを考えるとまだまだ余裕はない。
この階層でも、廊下釣り作戦で戦うことにした。
「その前に、まずどんな魔物がいるのかな?」
俊輔はそう呟いて探知魔術で魔物の捜索を開始した。
「ん~……、前の階層とあまり変わらないかな?」
この階層入り口から探してみた限り、魔物の種類に差はないようだ。
「んっ!?」
そのまま続けていると、前の階層にはいなかった魔物を探知した。
「……狼だ!」
俊輔の言葉の通り、黒い狼が歩いているのを見つけた。
「狼か~……、ペットに出来ないかな?」
「ピッ?」
“パシッ!”“パシッ!”
前世の時から、俊輔は動物好きで犬と猫を1匹ずつ飼っていた。
狼を見つけた瞬間飼っていた犬を思いだし、思わず呟いてしまった。
しかしその言葉を聞いたネグロは、嫉妬したのか翼で俊輔の頭を叩いた。
「すまん、すまん……」
俊輔は頭を叩くネグロに謝り、廊下に釣る魔物を探し始めた。
「んっ!?」
しかし先程の狼が、沢山の仲間と共にこちらの方に向かって走り出した。
「あれ!? 気配消してるはずだけど……、もしかして……?」
気配を消しつつ探知していた俊輔の方に向かってくる狼を見て、ある当たり前のことを思い出した。
犬は鼻が良いのである。
「ゲッ!! プ、プエルタ!」
狼の大きさは、大型犬の中でも大きめ位のデカさで、廊下に釣っても集団で襲い掛かって来れる大きさだ。
すぐにその事に気付いた俊輔は、転移魔法を発動して拠点に逃げ帰った。
「ハァー、ヤバかった……」
「ピー……」
拠点に帰った俊輔達は、安堵のため息をついた。
「それにしても、やっぱり転移魔法は出来るようになっておいて良かったな?」
「ピー!」
俊輔の問いかけに、ネグロも深く頷いた。
「地下に続く階層が何層有るんだろうな? 転移魔法が無かったらこの島攻略なんて不可能だろう?」
「ピー!」
俊輔の一人言にも似た言葉に、またネグロは頷く。
「だからこの島に1人もいないのか? この島の養分になったのか?」
俊輔はこの島についてあまり深く考えなかったが、この時少しだけ答えが見つかったような気がした。
「この島に入った生物をこの島の養分にする為、あの野郎は船を沈めたのか?」
あの時船の上で見た、海の上に立っていた男の目的に俊輔はたどり着き、怒りが込み上げてきた。
「次あったらぶっ飛ばす!! ……その前にここ出ないとな。」
怒りによってやる気が出たのだが、この島の難易度を思うと力が抜けた。
「もう今日はやる気が出ねぇわ、ネグもう今日は飯食って寝るぞ!」
「ピー!」
まだ夕方の時間だったが気分が落ちた俊輔は、早めに夕食を食べて寝ることにした。
ネグロは単純にお腹がすいていたので、ご飯と聞いて喜んでいた。
狼対策は夕食の時に思いついた。
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翌日、俊輔達は2階層の入り口に転移して階層内を探知する。
狼達は近くにいないので、前の階層同様に蟻等を倒していた。
“ピクッ!”
「居たっ!」
「ピッ!」
狼の存在を探知した俊輔はネグロに声を出して伝え、昨日思いついた作戦を実行に移した。
「グルル……」
匂いによって追いかけて来た狼達が、廊下の1ヶ所に集まる。
「今だ!!」
「ピーーー!!!」
「オラオラーー!!」
“ドゴーーーン!!!”
俊輔の合図と共に、ネグロのレーザー光線と俊輔の飛び剣撃の連撃が、狼の集団に襲いかかる。
俊輔達の攻撃により巻き起こった煙が引いた後には、狼達の亡骸が残っていた。
「よっしゃー! 上手くいったなネグ!」
「ピー!」
昨日の夕食で思いついたのは、俊輔がよく作るハンバーグの種を餌に狼を釣るという単純な事である。
俊輔がネグロに何が食べたいか聞くと、大体ハンバーグと答えるので、一応魔物のネグロがそんなに好むならあの狼達の気も引けるのではないかと思い、試してみたら上手くいったようだ。
この作戦も使いつつ2階層の魔物を俊輔達は削っていく事にした。
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「……ねぇ、俊ちゃん!」
奥電から官林村へ向かう途中、これまでの5年間を話している俊輔の話を折って京子が話しかける。
「んっ!?」
「転移魔法が使えるの?」
「ああっ!」
「じゃあ、何で私達歩いて向かっているの?」
「いやっ……、官林村から東に来たことなかったから、その転移魔法の為に景色を覚えて置こうと思って……」
「……ふ~ん」
「……続き聞く?」
「うん!」
このような会話を交わした後、また俊輔は島での話の続きを話し出した。
文字数調整の為、今回は長くなりました。睡眠削って書いたのでとても眠い・・・




