第52話
遅くなって申し訳ありません。
今年最後の投稿です。
金藤の脱走未遂が収まった2日後、篤の指示により修練場に戦姫隊の隊員が全員集められた。
因みに、今回の戦争で最後に参戦した戦姫隊の隊員は、魔物の大群から1番離れていた為、敵兵との戦闘で怪我を負った者しかおらず、死人は出なかった。
隊員達が整列する左前に、京子と頭にネグロを乗せてアフロヘアー状態の俊輔が立っている。
「皆、よく集まった。これより篤様からお言葉がある。篤様、よろしくお願い致します」
「あいよ」
副総長の美代の挨拶の後、篤が隊員達の前に立った。
「単刀直入に言うよ。今回、京子が戦姫隊から脱隊することになった」
「「「「「!!!!!?」」」」」
篤のいきなりの言葉に、隊員達は驚きで言葉が出せずにいた。
「そんな!? どうしてそのような事になったのですか!?」
隊員の誰もが驚きに戸惑う中、1人の隊員が篤に質問を投げかけた。
「桜かい? 簡単に言うと……、寿脱退だ」
「ぶっ!!! あっ、篤様!?」
とっさに思い付いたような理由に、京子は慌てふためいた。
「…………俊ちゃん?」
京子は隣にいる俊輔が、どのような反応をしているのか振り向いた。
「…………すー、すー」
俊輔は立ったまま寝ていた。
「そんな事認めません!」
京子ががっくりと肩を落とす中、桜は篤に向かって声を荒げる。
「桜! 控えなさい!」
「何故ですか!? そいつは丸烏のおまけのような奴じゃないですか!? そんな奴に隊長を任せることは出来ません!!」
美代の言葉を受けても収まらない桜は、俊輔を指差し不満をぶちまける。
しかし、俊輔は眠ったままである。
「くっ! 貴様聞いているのか!?」
「え? んっ? ああ、聞いてた、聞いてた」
桜の大声によって俊輔は起きたが、聞いてるはずがないのに適当に返事を返し、更に桜を苛立たせた。
「ぐっ、貴様ー!! 私と勝負しろ!!」
「さく……」
“サッ!”
桜を止めようとする京子を篤が手で抑える。
「どうする小僧?」
「え? あぁ~、別に構わんよ」
篤の質問に、俊輔はあまりよく理解せず返事を返す。
「よしっ! 両者合意が取れたので明日試合を行う。本日は解散!」
篤の発言によって、隊員達はバラバラと修練場を後にした。
――――――――――――――――――――――――
翌日、修練場にある観客席には戦姫隊の全隊員と八坂、そして今回の戦争で比較的軽傷だった八坂の部隊の隊員達が観戦に来ていた。
「おお~、けっこう集まってるな~」
修練場の西と東側にある出入口の西側から、のんきな発言をしながら俊輔は現れる。
「よく逃げずに来たな? おまけ野郎!」
俊輔より先に来ていた桜が、俊輔に対して挑発的な言葉を発する。
「…………」
しかし、俊輔は特に気にすることなく、ぼけ~と立っている。
「いいか! 私が勝ったら隊長は戦姫隊に残る。ついでにあの丸烏も置いて貴様独りで惨めにここからは出ていけ!!」
言い返して来ない俊輔に苛立った桜は、更に挑発を繰り返した。
「…………」
しかし俊輔は変わらず、ぼけ~としたままでいる。
「貴様!! 聞いてるのか!?」
俊輔の態度に我慢できず、桜の方がキレた。
「桜!! 静かにしな!!」
怒りで今にも襲いかかろうとしていた桜に、審判役の篤が注意する。
「……はい」
篤を前にして、桜は落ち着きを取り戻した。
「これより俊輔対桜の試合を行う。お互い相手を死に至らしめる以外は何でも有効、気絶もしくは降参により勝敗は決する。お互い良いね?」
篤は観客に聞こえるような声で話した後、最後に俊輔と桜に納得したか確認の問いをした。
「はい!」
「あいよ!」
篤の問いに桜と俊輔は返事を返す。
「2人共用意は良いかい?」
「はい!」
篤の問いに桜は薙刀を構え返事をする。
「あいよ!」
桜とは反対に武器を持たず、だらっとしたまま返事を返した。
「っ!!」
俊輔のそのふざけた姿に、薙刀を構えた桜は表情を怒りに変えた。
「それでは……」
篤は開始の合図をする右手を上げた。
“ボッ!”
それを見て桜は魔闘術を発動する。
しかし、俊輔は変わらず立ったままでいる。
「始め!!」
篤が勢い良く右手を降り下ろし、開始となった。
“スッ!”
“パチンッ!”
開始となった瞬間、俊輔は桜の目の前に移動し、指をパチンと鳴らした。
“ドサッ!”
俊輔が指を鳴らしたすぐ後、桜は糸が切れた人形のように倒れた。
「…………!? しょ……勝者、俊輔……?」
篤は何が起きたかわからないが、桜が倒れて動かないのを見て、何となくで俊輔の勝利を宣言した。
「「「「「……………………!?」」」」」
観客席の人々も理解できず、無言で動けないでいた。
「小僧! お主何をした?」
篤は抑えきれず、俊輔に問いただした。
「簡単だよ。鳴らした指の音を、魔力で操って鼓膜に打ち付け、脳を揺らして気を失った、って訳」
「音を操るだって?」
俊輔が言ったことが本当なのだとしたら、どれだけ難易度が高い事を簡単そうにやっているのだと、篤は思った。
「さてと、これでもうこの城から出て行って良いのかな?」
俊輔はそろそろ大陸旅行に行きたい為、さっさとこの城から出て行きたいと思い始めていた。
「…………待ちな小僧!!」
「んっ?」
篤はこれまでより少し低い声で、俊輔を呼び止めた。
「京子の事を頼んだよ? あの子を哀しませたらただじゃおかないよ!!」
「えっ!? ああ、分かった」
篤の言葉に込められた圧力に、ちょっと焦りつつ俊輔は返事をした。
―――――――――――――――――――――――――
試合の2日後の昼、京子は城の西側の大門で篤と美代、そして桜の3人に最後の別れをしていた。
「篤様、今まで剣術や学問を指導いただき、ありがとうございました。無理をなさらぬようご自愛下さい」
京子は篤にこの5年の感謝を述べた。
「私の心配するなんて10年早いよ! ……私の事は良いから自分の幸せを考えな」
「はい。美代様、篤様とこれからの戦姫隊の事、よろしくお願い致します」
京子は美代に後の事を頼み頭を下げた。
「大丈夫だよ。京子も元気でね」
「はい。桜、あんたは才能がある。これからもっと精進していつか私を越えなさい」
桜は現在10才、8才で魔闘術を発動し戦姫隊に入った。
入ってすぐ京子の強さに惚れ込み、毎日京子に指導を受けてきた。
「うう~、ぐすっ! 隊長~、お元気で~」
ある種、姉のように慕ってきた京子がいなくなることに涙で顔をぐしゃぐしゃにしつつ、桜は別れの言葉を告げた。
「お~い京子、そろそろ行こうぜ!」
「ピ~!」
3人との別れをしていた京子を、少し離れた場所で待つ俊輔とネグロが急かした。
「うん、分かった。それでは皆様またお会い出来る日までお元気で」
「ああ、行っといで……」
京子の言葉に、篤は少し寂しげな笑顔で京子を送り出した。
「行ってきます!」
そう言って京子は3人と別れ、俊輔とネグロと一緒に城から離れていった。
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奥電から官林村方面の街道を俊輔達は歩いていた。
「ところで俊ちゃん、これからの予定は?」
城から出て来たは良いが、どういった予定か聞かずについてきた為、聞いておこうと思い京子は尋ねた。
「取り敢えず官林村に行って、俺の家族と京子の家族に話にいかないと……」
「え…………!?」
家族に挨拶と聞いて、京子は真っ赤な顔になった。
「まあその後に大陸旅行だな」
そう言って俊輔はネグロを頭に乗せて、京子と一緒に官林村に向かって街道を歩いていった。
来年から3章に入ります。
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