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第51話

「さてと、そろそろ行くか?」


 俊輔としたら、京子に顔を見せる為だけに来たので、目的を果たした今、ここにいる理由が無くなった。


「待ちな小僧、もうすぐ今回捕まえたSSS(トリプル)の金藤を八坂殿の奴隷にするまで京子を連れていくのは、悪いけどもうしばらく待ってもらえるかい?」


 今回の戦いでトマスによって重傷を負った金藤は、終戦とともに拘束され回復薬で回復され現在牢屋に入れられている。

 金藤の仲間である清、アルベルト、ダビドも拘束され収監されている。


「あれほどの戦力をただ手放すのはもったいないからねえ~、親王派の残党に対処する戦力を強化しないとねえ~」


 親王派の主要な大名は今回の戦いで戦死し、頂く帝もいない為、皇太子に歯向かう残党は少ないだろう。

 しかし、中には家族を、親友を殺された等の理由で、復讐を考えている大名もいる事が予想されるので、その為に金藤達を利用しようと結論が出たらしい。


「まぁ~、急ぐ旅でも無いし別に構わんよ」


「そうかい。隷属の首輪が2、3日で手に入るからそれまでこの城でくつろいでくんな。京子、空いてる部屋に案内してやんな」


「畏まりました。行くよ俊ちゃん!」


「ん」


 篤に指示を受け、京子は頭を1度下げた後、俊輔を連れて篤の部屋から退出した。




「ふー……」


 2人が去った後、篤は大きなため息をついた。


「美代、出てきな!」


 篤は2人が去った誰もいない部屋で声を出した。


〝スッ〟


 篤が座っている後ろに掛けられていた掛け軸の裏の空間から、美代が出てきて篤の前に座った。


「聞いてた通りだよ」


 美代は2人が部屋に来る前から隠れていた為、篤は話を端折って話す。


「本当によろしいのですか?」


「何がだい?」


「金藤を隷属させるより、小僧にあの丸烏を引き渡すように言えばよろしいのでは?」


「馬鹿なこと言うんじゃないよ! 折角助かった命を捨てるつもりかい?」


「?」


 真剣な顔をした篤の発言に美代は首を傾げた。


「……あんたもまだまだだねぇ~、あの小僧の実力はネグロとか言う丸烏より上だよ」


「!!? 本当ですか!?」


 美代は、篤の発言に目を見開いて質問した。

 美代はあの魔物の大群を瞬く間に殲滅したネグロ以上の実力を、俊輔が持っているとは感じなかった為である。


「あぁ、だいたいあんたが隠れてることにも気付いていたみたいだよ。あの年で何をしたらあんな化け物が出来るのかねぇ~?」


「化け物……」


 美代からしたら、いまだに化け物の実力を持つ篤が、俊輔の事を化け物と言った事が信じられなかった。


「あんなのを敵に回すなんてお断りだよ。京子1人で友好的に済むなら安いもんだよ」


「京子はその為に手離すのですか?」


 美代の目から見て篤は京子を大切に、それこそ自分の娘のように育てて来たように思っていたのだが、政略の目的に手離すとは思わなかった為、美代は疑問に思った。


「それのどこが悪いんだい!?」


 美代の質問を聞いて篤は、一際大きな声を出した。


「元々、あの小僧を奥電の学校に入学させる審査の為に行ったら京子を拾っただけだよ。京子はいまだにあの小僧に惚れてるみたいだし、丁度良いじゃないか?」


 言葉としたら戦姫隊を率いる長として、更にはこれから皇太子を支える柱の1つとしての政略的な発言だが、美代から見た今の篤は拳をきつく握り、苦汁の決断をした顔に見える。


「分かりました。京子を脱隊させる手続きを致します」


 美代は内心、篤は京子を手離したく無いのを我慢して、京子が惚れてる男と幸せになる事を願っていると理解し、一礼して篤の部屋から退出した。

 残された篤は、どこか寂しそうな顔をしていた。






――――――――――――――――――――


 3日後、隷属の首輪が完成した為、修練場で金藤達の刑の執行を行うことになった。

 刑の執行と言っても、首輪を着けるだけなのだが、日向の国において有名なSSS(トリプル)を見る為に八坂家の全部隊が観客席に座っている。

 更に皇族専用の特別席には、皇太子までもが来ている。


「只今より金藤、並びにその仲間達の隷属の刑の執行を開始する!」


 八坂は特別席の皇太子に届くように、大きな声で開始を宣言した。

 俊輔も立ち見で様子を見ていた。


“カチッ!”


 両膝をついて座っている金藤達の首に隷属の首輪を装着し、八坂は首輪に血を1滴垂らし、主従契約が結ばれた。


「立て!」


“すっ”


 主従契約が結ばれた事を客席に示すように八坂が拘束を解いた金藤達に命令し、命令通り金藤達は立ち上がった。

 

「「「「「パチパチ、パチパチ」」」」」


 無事刑が行われた事に会場からは拍手が起こった。





「……解除」


“パキンッ!”


 拍手でかき消されるほどの小声で発した言葉によって、金藤の首輪は壊れ落ちた。


“ニヤッ”


 会場で誰にも気付かれず、金藤は解放された。

 拍手が鳴り止まない中、密かに口を吊り上げほくそ笑んだ。


“スッ!”


 金藤は静かに拳を握り、背中を向けている八坂に向かって行った。

 そして、金藤の拳が八坂を殴る寸前


「ピー!」


“ドガッ!”


ネグロの蹴りが金藤を吹き飛ばした。


「なっ!?」


 目の前を黒い物体が通りすぎ、吹き飛んだ金藤を見ると、金藤の首輪が外れている事に八坂は驚いた。


「あ~あ、駄目だよ。こんな弱い制約の首輪じゃ解除されるって……」


 金藤が解除した首輪を拾って俊輔は呟いた。


「お主は丸烏の主人の……、隷属の首輪を解除しただと?」


 八坂は俊輔を丸烏の主人としてしか知らず、その口から発せられた言葉が信じられなかった。


「チッ!」


 吹き飛ばされた金藤は立ち上がり、舌打ちをして会場から逃げ出そうと出入口に向かって走り出した。


「くっ、逃がすな追え!」


 金藤とは違い首輪を解除出来なかった清、アルベルト、ダビドが八坂の命令に従い金藤を追いかけ出した。


「ピー!」


“バッ!”


 金藤が出入口に着く前に、ネグロが金藤の前に飛び塞がった。


「くっ、どけ! 糞烏!」


 邪魔をするネグロに向かって、金藤は殴りかかった。


“ボカッ!!”


 金藤の拳はネグロに当たらず、カウンターでネグロの蹴りが金藤の顎を蹴り、脳を揺らされた金藤はあっさりと倒れた。


「拘束しろ!」


 倒れた金藤に、八坂の命令に従った清達が拘束具を装着した。


「まさか、隷属の首輪を解除出来るとは思わなかった……」


「くっ、ははっ、魔法を学ばない日向の人間が作った隷属の首輪なんぞに従う俺様じゃねえっての!」


 拘束された金藤は強がって言うが、首輪を解除する為に魔力をほとんど使い、顔色が少し悪くなっていた。


“ゴッ!!!”


「よしっ! 出来た。はい、これ」


 愛用の錬金術の布を出し、金藤をネグロに任せていた俊輔は、金藤が壊した首輪を錬成して直していた。

 そして、直した首輪を八坂に渡した。


「直したのか? しかし、また解除されるのでは?」


 八坂は、俊輔が直した首輪を見ながら問いかけた。


「大丈夫! 直すついでに制約強化しておいたから、今度は解除されないよ」


「何!? 本当か?」


「信じられなかったら、今度は様子を見て拘束を解いたらいいさ。それじゃあ、俺は部屋に帰るね。ネグロ、行くぞ!」


「ピー!」


 そう言って俊輔はネグロを頭に乗せて、修練場から出ていった。

 翌日、俊輔が直した首輪を八坂は金藤に装着して契約した。

 八坂が色々指示を出したりと試したが、金藤は素直に指示に従い、最後に首輪を自力で解除するように指示を出したが、どれだけ魔力を使っても解除出来ず魔力枯渇で気を失った。

 首輪が効力を発していると確認できた為、八坂は金藤の拘束を解いた。

 この事で八坂は、俊輔に感謝の証に秘蔵の酒を渡した。


「俺まだ15なんだけど……」


 この国では15才で成人になるのだが、前世の記憶から酒瓶を見ながらまだ早いと、思わず呟いたのだった。

 書いていたらどんどん長くなってしまいました。

 来週で2章を終わらせ、再来週の新年から3章 に入りたいと思います。

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