第47話
“パタパタッ……”
「ピピー♪」
どや顔をしていたネグロは、久々に京子に会えた事が嬉しくて、元気に京子の周りを飛び回った。
「ううっ、ネグちゃん、良かった、生きてたんだ」
京子は泣きながら、ネグロが生きていたことを喜んだ。
「痛てて……、何なんだその丸烏?」
ネグロに蹴り飛ばされたトマスが、蹴られた腹を擦りながら京子に訊ねた。
「!? ネグちゃんここにもうすぐ魔物の大群が来るの! 私の事はいいからここから逃げて……!」
5年ぶりにネグロに会えた事は嬉しかったが、今現在の状況は最悪だ。
京子は、ネグロにここから離れるように促した。
「ピッ?」
ネグロは、京子の魔物の大群と言う言葉を聞いて首を傾げた。
そして、少し離れた場所で戦っていた親王派の軍と八坂軍と戦姫隊に向かって、約5万の魔物の大群が襲いかかる寸前だった。
「ピッ!」
“パタパタッ……”
魔物の大群は、先ず進行方向から親王派の軍に襲いかかった。
それを見たネグロは京子から少し離れ、魔物の大群の方向を向いて、高く飛び上がった。
「あっ、ネグちゃん……?」
京子は、ネグロの行動を疑問に思った。
“パタパタッ!”
魔物の大群の全体が見える高さまで、ネグロは飛び上がった。
「ピー!!」
ネグロは、魔物の大群に向かって口を開いた。
“キーーーンッ!!!!!”
ネグロの開いた口の手前に、高濃度の魔力が集まり出した。
「ピーーーー!!!!」
ネグロの声と同時に特大の火の玉が魔物の大群に向かって飛んでいった。
“ゴッ!”
ネグロが放った火の玉によって、約1万5千の魔物が、爆音と共に吹き飛んだ。
“ケギャーーー!!!!”
“ピギーーーー!!!!”
死んだ魔物の燃え盛る炎の熱で、生き残った魔物達が悲鳴を上げる。
「ピー!!!!」
そこへ、燃え盛る炎に向かってネグロの風魔法が放たれた。
“ゴウッ!”
炎と風魔法が合わさり火災旋風が巻き起こり、轟音と共に1万の魔物が巻き込まれ、燃え盛りながら切り刻まれ上空に吹き飛ばされた。
「ピーーーー!!!!」
上空に吹き飛んだ魔物達に向かって、ネグロは氷魔法を放った。
“ガッ!”
上空の魔物達が、1塊の巨大な氷になって、生き残った地上の魔物達に降り注いぎ、巨大な地響きと共に1万の魔物を潰し殺した。
“ジューーー!!!”
最初の火の玉で、マグマのようになった地面の熱で巨大な氷が溶かされ、蒸気が上がる。
「ピーーーー!!!!」
蒸気によって湿気を帯びた、残りの1万5千の魔物に、ネグロは電撃魔法を放った。
“バリッ!”
巨大な雷鳴と共に、ネグロの電撃をくらった魔物が絶命し、Aランクの総勢5万の魔物達が、ものの数分で全滅した。
“パタパタッ……”
「ピーッ!!」
上空から京子の前に戻って来たネグロは、またしても、どうだと言わんばかりのどや顔をした。
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「……………………」
「……………………」
少し離れた場所で、親王派の軍が魔物に蹂躙され、すぐその後は自分達だと、覚悟をしていた八坂の軍と戦姫隊の隊員達は、目の前で起こった天変地異と言わんばかりの出来事に、目を点にして口を半開きにして全員が無言で固まっていた。
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「……………………」
「……………………」
ネグロが放った強力な魔法を、目の前で見ていた京子やトマス達も、言葉を発せず無言で固まっていた。
「ピッ?」
固まって動かない京子に「どうしたの?」と言わんばかりに、ネグロは首を傾げた。
「……はっ! ネグちゃん……?」
小さい頃から、主人と共に非常識だったネグロが、今また起こした非常識に、昔も今も一番近くにいた京子がいち早く立ち直り、ネグロの頭を何となく撫で始めた。
『何だ? 何が起こった? 魔物達はどうしたんだ? あの丸烏は何なんだ?』
トマスは、頭の中でぐるぐると疑問が回り、無言で固まっていた。
「何なんだーーーーー!!!!!」
トマスは頭では答えが出ず、自分でも意識せずとうとう大声で叫んでいた。
「何なんだその丸烏は!!? 何で丸烏なんて最弱魔物に、俺が何十年と集めてきたAランク魔物が一瞬で消されなけばならない!!? ……はっ!? そうか……幻術か!!?」
“ちくっ!”
ネグロの攻撃による結果を、幻術だと思い込んだトマスは、持っていた刀で自分の手の指を軽く刺し、痛みで幻術を解こうとする。
「…………?」
結局何も変わらない現状に、トマスは怒りと恐怖で体を震わせてネグロを見た。
「ピッ?」
ネグロが「何?」と言うようにトマスに首を傾げる。
「……ふっ!? ふざけるなーーー!!!」
トマスは色々な感情がごちゃ混ぜになり、混乱した状態でネグロに向かって突進して行った。
「ピッ!」
“ピチュン!!”
向かって来るトマスにネグロは、光魔法でレーザー光線を放ち、トマスの脳天を貫き、あっさりと始末した。
“ドサッ!”
頭に風穴を開けたトマスは、糸の切れた操り人形のように倒れた。
絶体絶命の玉砕覚悟だった負け確実の皇太子派に、突如現れたたった1羽の丸烏によって、長きに渡る戦争に終止符が打たれた瞬間だった。




