第39話
篤とダビドが、ジリジリと間合いを読み合う。
「はっ!」
先に動いたのは篤、魔力を纏った刀で袈裟斬りを放った。
「クッ!」
“ガキンッ!”
篤の袈裟斬りを、ダビドは魔力を纏った右手で受け止めた。
「ダリャッ!」
篤の攻撃を止めたダビドは、その一瞬を見逃さず空いている左拳を篤の顔に向けて放った。
“チッ!”
間一髪の所で避けた篤は、ダビドから距離を取った。
「あの攻撃を避けるなんて、妖怪か婆さん?」
攻撃を躱されたダビドは、篤の反応の速さに感嘆の声を上げた。
「躱しきれなかったけどねぇ~……」
篤の言う通りダビドの攻撃がかすった事により、篤の頬には一筋の血が流れていた。
「徒手空拳の使い手と戦うのは久しぶりだねぇ~。さっきの音からすると服の下には手甲でも着けてんのかい?」
篤は一回の攻防でダビドの戦力を多少把握した。
「あっさりと見透かすなよ! やりづらい婆さんだな……」
ダビドは篤の洞察力に、嫌な汗をかいた。
「あまり時間をかけたくないってのにねぇ~」
篤はまだ少しずつ勢いが藤代、香取の部隊に流れ始めていると感じていて、八坂の部隊の援護に向かいたいと思っていた為、清、アルベルトの他にダビド程の男が現れたことに、内心焦っている。
「婆さん1人が頑張った所で、同竜から皇太子を逃がす事なんて無理だぜ!」
「!? どう言う事だい?」
ダビドの言葉を篤は疑問に思った。
「実は、俺って金藤さんに第2陣を任されているんだ……」
「だから何だい? ……もしかして」
「分かったかい? 俺がここにいるんだから第2陣も、もうすぐ着くって事だよ」
ダビドの言葉を聞いて篤は顔が青くなった。
第2陣はまだまだ時間がかかると予想していて、第1陣を倒して暫くは間が空くと思っていた。
その時間に、戦姫隊が皇太子を連れて逃げるはずだったのに、これではこちらの軍は第1陣と第2陣の敵軍の数に飲み込まれるのが、容易に想像できる。
「くっ! なら、尚の事さっさと消えな!」
“バッ!”
篤は時間が惜しくなり、ダビドに向かって行った。
「ようやく焦ってくれたな」
“キンッ!”“ガキンッ!”“キンッ”“キンッ”
ダビドは篤の連続の攻撃を、両手両足に装着した手甲で冷静に防御する。
「はっ!」
「クッ!」
“ガキンッ!”
篤が放った唐竹斬りを、ダビドは両手を頭上に交差させて受け止めた。
「焦った攻撃なんかじゃ俺の守りは崩せないぜ!」
つばぜり合いのような状態で、ダビドは呟いた。
「あんたも守ってばかりであたしに勝てると思っているのかい?」
「確かにこのままだったらな……」
「!?」
その時篤に向かって氷の塊と石の礫が高速で飛んできた。
篤がその攻撃に一瞬目が行った隙に、ダビドは篤から遠退いた。
「くっ!」
“ドドンッ!”“ガンッ!”“ドンッ!”“ガンッ!”
篤は氷と石の礫を前後左右に交わして行く。
篤がいた場所に氷と石の礫が地面に穴をうがっていく。
「!?」
”ガンッ!“
ほとんどの礫を交わしたが、穴だらけになった地面に少し足が滑り、石の礫が篤の左腕にぶつかり篤が吹き飛んだ。
”ドン……ドサッ!“
篤は地面に一度弾んでからうつ伏せに倒れた。
「ぐっ! 痛っ……」
刀を支えにして篤は立ち上がった。
しかし、石の礫をくらった左腕は折れているのかぶらぶらしている。
「あいつらかい……?」
篤が氷と石の礫が飛んで来た方向を見ると、犯人である清とアルベルトがいた。
その清とアルベルトは、先程の攻撃に魔力を大量に消費し、魔力切れを起こしたのか青い顔をしている。
「その通り。この国は魔闘術を使う人間が多いせいか、魔法を甘く見すぎだな。だから今みたいな事になるんだよ」
ダビドは作戦が上手く行った為、嬉しそうに話した。
「こんなことならさっさと殺っとくべきだったねぇ~」
「片腕だけでまだやる気かい?」
「当たり前だよ。小僧のくせになめすぎだよ」
そう言って篤は、右手で刀を構えダビドに向かって行った。




