第38話
トマスと呼ばれた男が金藤の陣から離れた後、金藤のもとには5大大名の1人、北の大名の羽田が現れた。
「羽田様!? どうなさいました? 御用がございましたら私が向かいましたのに……」
金藤は羽田の顔を見ると片膝をついて頭を垂れた。
はっきり言って金藤は、親王が勝とうが負けようがあまり興味はない。
しかし、羽田に関してはそうは言っていられない。
金藤家は元々、羽田家のかろうじて名字を名乗れる位の下っ派の家柄である。
その金藤家の4男の慎之丞が大陸で実力をつけたいと言った時、慎之丞の剣の才能を見越した羽田が許可と資金提供を出してくれた為、ここまでのし上がれたと慎之丞は恩を感じている。
それに、皇太子派と親王派に別れて始まった初期に、金藤の父と兄たちは八坂家によって殺されていた為、その敵を討つ機会を与えてくれた事にも感謝している。
「気にするな。それに今はお主がこの戦の総大将を親王様に指名されたのだ。立場的に私が来るのが当然だ」
「そう言って頂けると助かります。して、どのような御用でしょうか?」
金藤は椅子に座り直し、羽田に用件を聞いた。
「お主の作戦で本当に大丈夫か気になったのでな……」
「何か気になることでも?」
「お主とお主が連れてきた人間は大丈夫だとは思うが、藤代、香取、それと2人程ではないが池島の3大名は、かなりの無能だからな」
「確かに羽田様、そして敵の八坂以外の3大名は無能なのは承知しています。しかし、戦姫隊が皇太子の護衛で出て来れない八坂なら、あの3人とあの大軍なら潰せるはずです」
5大大名の内、羽田家と八坂家は、北と西の他の3大名より辺境の領地であり、強力な魔物が住む地域もある為、軍事力において常に競いあって来た。
天皇家主催の剣術大会や武闘会では毎回、羽田家と八坂家の家臣が優勝争いをしていた。
他の3大名は陰で、野蛮だの田舎者だの言っているだけで、たいした剣士や武闘家を配下に持っていない。
しかし、さすがに1陣、2陣合わせて敵の8倍の数で攻めて負けるはずがないとは思っても、宿敵である八坂ならもしかすると、と思ってしまう気持ちが羽田は頭から消えないでいる。
「大丈夫です。例え1陣、2陣で倒せなくても羽田様の3陣が控えているのですから」
羽田が未だに悩んだ表情でいた為、金藤は悩みを打ち消すための言葉を放った。
「……そうだな。すまんな、少し考え過ぎたようだな」
「いえ、お気になさらず」
「では、陣に戻る事にしよう。邪魔したな」
「いえ、お気になることがありましたらいつでもお越しください」
そう言って、羽田が自分の持ち場に帰るのを金藤は見送った。
――――――――――――――――――――
Sランクの2人と闘っている篤は、2人の守り一辺倒に仕止め切れず長引いていた。
「フゥ~、あんたら何企んでるんだい?」
2人が最初とは違い、守り一辺倒で時間を稼いでいる事は分かりきった事である。
「ハァ、ハァ、そんな事教えるわけ……」
「ハァ、ハァ、もうすぐSSランクの仲間が来てくれる予定なのですよ」
アルベルトの言葉を遮って、清が答えた。
「おいっ!?」
「大丈夫ですよ、あの方が来るまでもつでしょうから」
篤に話してしまった事に突っ込んだアルベルトに対し、清は冷静に返した。
「なるほどそう言う事かい? さすがに3人相手はきついねぇ~、だから……」
“ゴウッ!”
篤はいままで以上の魔力を放出した。
「本気で行くよ!!」
「おいおい……」
「まだ本気じゃ無かったのですか?」
篤の巨大な魔力を見て清とアルベルトは冷たい汗が流れた。
その時、
「おいおい、すげー婆さんだな!?」
1人の中肉中背で、サラサラの金髪男が突然現れた。
「「ダビドさん!?」」
清とアルベルトはそろって声を上げた。
「どうやら間に合ったな、お前ら良くやった。あとは援護頼むぞ。」
「「わかりました」」
そう言って清とアルベルトは篤から距離を取った。
「あんたがSSランクの男かい?」
「ああ、ダビド‐シルバだ。よろしく」
“ゴウッ!”
金髪男こと、ダビド‐シルバは自己紹介をして、篤と同じくらいの魔力を放出した。
「……こいつはまた面倒だねぇ~」
ダビドの魔力をみて、今度は篤が冷や汗をかくことになった。
そして、ダビド到着前に2人を仕止め切れなかった事にこの後、後悔する事になるのだった。
思っていたより2章の進みが遅い。もう少し早く進めるようにしたいのですが、もうしばらくお付き合いください。




