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第35話

 現在、同竜の城を大軍勢が取り囲んでいる。

 4大大名の中央の藤代家、南の香取家の軍勢が全ての門から蟻1匹逃がすまいと、睨みを利かせている。


「おのれー、藤代、香取めー」


 その軍勢を見て、4大大名で唯一の皇太子派である八坂家当主、八坂英典は怒りをあらわにしていた。

 何故なら藤代、香取の両家は元々は皇太子派だった為である。

 SSS(トリプル)の金藤が親王派に付いたと分かるとこの両家は、手のひらを返しあっさりと親王派に乗り換え、現在かつての仲間である八坂に刃を向けている。


「英典殿、お気持ちは分かりますが冷静になられよ。このままでは相手の思うつぼですよ」


 隣で八坂同様、大軍勢を見下ろしながら篤が八坂をなだめた。


「ぐっ……、フーー、すまん篤殿、あの2家の旗を見たら怒りがこみ上げて来てしまった」


 篤の発言に、八坂は深呼吸をして冷静になった。

 八坂と篤はいとこの関係である為、公の場所以外では、多少砕けた会話になっている。


「篤殿、本当によろしいのか?」


「今回の作戦ですか?」


 篤は八坂の質問に質問で返した。


「左様、情けない話だが篤殿は皇太子派の最高戦力、戦姫隊のみならず、我が部隊にとっても精神的に重要な柱です。ここでその柱を無くすと言うのは……」


「京子にも言いましたが、戦姫隊は副総長の美代がしっかり率いてくれるはず、皇太子様を御守りする為ならば私の命などくれてやりますよ」


「篤殿……」


 篤の言葉に、1人の武人としての決意がにじみ出ているのを感じ、八坂は何も言えなくなった。


「さて……、英典殿始めましょうか?」


「……分かりました。何としても皇太子様を西へ御守りいたしましょう!」


 正午の時間になり、同竜の西門が開き八坂家の部隊と篤が飛び出して行った。


「篤様……」


 その様子を戦姫隊の隊員達は、篤を死地へ見送る事しか出来ない事に唇を噛んで耐えていた。


「美代様、本当にこれでよろしいのでしょうか?」


 京子は副総長の美代にたずねた。


「……分からん、しかし、篤様の指示に今まで間違った事など無い。今回もきっと……」


 美代も本当は篤に付いて行きたい気持ちがあるが、篤が大事に育ててきたこの部隊を任された以上、篤の指示に従うべきだと言う気持ちもあり、どうするべきか迷っている状況である。





――――――――――――――――――――


「報告! 藤代様、香取様、西門が開き八坂家の軍勢が出てきました」


 城を囲んでいた隊員から藤代、香取の2大名は報告を受けた。


「やはり西への逃亡を選択するしかないか……」


「仕方ありますまい藤代殿、再起を計るには西への逃亡の策しか無いですから……」


「そうですな……」


 八坂の軍勢2500に対して藤代、香取の軍勢は10000、数で勝る両家は負けるとは思っていない為、余裕を持って話ていた。


「報告! 戦姫隊総長、藤倉篤が我が部隊に向かって来ています!」


「「何!?」」


 皇太子派最高戦力の篤が、出て来るとは予想していなかった2人は慌てて部隊に指示を出しに向かった。





――――――――――――――――――――


「さてと……、どこまで出来るか分からんけど、とりあえず行きますか……」


 1人言を呟き、篤は先陣をきって敵に向かって行った。


“ボッ!!”


「「「「「!!?」」」」」


 篤が纏った魔力の桁違いの大きさに、親王派の軍勢は驚愕の表情を浮かべ動きを止めていた。


「止まっていたらただの的だよ!」


 そう言って篤は、魔力を纏った巨大な斬撃を敵に向けて飛ばした。


“ズゴーーーーーン!!!!!”


 その一撃で100人単位の敵が吹き飛んだ。

 吹き飛んで生きている敵は、無事に済んだ者は1人としておらず、その一撃を見た者達は篤に恐怖し、ガタガタと足を震わせていた。


「今だよ! 殺っちまいな!」


「「「「「おおーー!!!」」」」」


 篤の指示に、八坂の軍勢は勢い良くぶつかっていった。

 篤の先制攻撃により、数で劣る皇太子派の方が戦場を支配していった。






――――――――――――――――――――


「馬鹿な!」


「こんなはずでは……」


 明らかに押されている軍勢を見て、藤代、香取の2人は冷静になれずにいた。


「どうする香取殿!」


「私に聞かれても……」


 これまでの戦争において、この2家は数で押しきる戦術ばかりしてきた為、こうした状況の対処法は分からないでいた。


「金藤様の仰った通りですね?」


「ああ、そうだな」


 慌てる2人の背後から、2人の男が現れた。

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