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第29話

―――――同竜城の一室―――――


「失礼します。(あつ)総長、1番隊隊長京子参上しました」


「はいよ、そこに座りな」


「はっ!」


 篤の指示で、京子は篤の下座に正座した。

 日向の国は、ほとんどの部屋が襖と障子の畳の部屋である。


「京子、あんた何で呼ばれたか分かるかい?」


 篤は困ったような表情をしながら京子に訪ねた。


「はい……」


 京子は無表情で答えた。

 その態度を見て篤は呆れた表情に変わった。


「全く、あんたは出会った時と変わらないねぇ……」





―――――――――――――――――――――――――


 5年前、官林村から俊輔が居なくなった事を手紙で知り、京子は落ち込んだ。

 その事で京子の祖父である村長は慌てた。

 奥電の学校に俊輔を入学させる為に、審査をしてもらおうと、奥電の役人に来てもらっていて、今日の夕方村に着く予定だった為である。


「困ったのぅ……」


「申し訳ありません、村長……」


 昨夜俊輔が出ていった事を、田茂輔は村長に話した。


「確かに俊輔本人に聞かずにいたとは言え……」


「親である俺でも、ひょっとしたらぐらいの違和感だったので……」


「「ハー」」


 二人ともため息しか出なくなった。





―――――――――――――――――――――――――


 月和村から官林村へと続く道のりを、二人の人間が歩いていた。


「篤様、このまま進めば今日の夕方には着きますので、ご辛抱ください」


 奥電と同竜の街、そして月和村・官林村・反倉

の街の5つを取り仕切る大名、八坂家には4つの戦闘部隊を有している。

 その内1つは女性のみで構成された部隊、通称戦姫(せんき)隊と呼ばれている部隊がある。

 その戦姫隊の総長を務める藤倉篤を、案内役である京子の父の和弥が月和村から官林村へ案内していた。


「しかし、まさか審査役に戦姫隊の総長様自ら、お出でになるとは思いませんでした」


 通常入学審査は、学校がある奥電で3月初旬に行われるのだが、今は4月中旬で今年の審査は終了している。

 しかし、村が魔物の襲撃を受けた時の状況を、伝書鳩で報告すると共に、特例で審査してほしいとの事を村長が願い記したところ、襲撃後の村の状況の確認も兼ねて、審査役人を送るとの返事が届いたのである。


「なぁに、たまたま襲撃状況の手紙を読んでねぇ。あまりにも面白そうな子供がいるのを知って、見てみたくなったんでねぇ」


 和弥は案内する役人が来るのを、前日から月和村で待っていた為、俊輔が居なくなった事を知らなかった。


「それにしても、10才で魔闘術を操る子供がいるなんてねぇ……」





―――――――――――――――――――――――――


「父さんお連れしたよ」


 夕方、和弥が篤を連れて官林村に到着し、父の村長に報告した。


「お、おうご苦労さん……」


「こちら戦姫隊総長の藤倉篤様です」


「……これはこれは、このような辺鄙な村へようこそお出でくださいました」


 村長もまさかそのような大物が来るとは思わず、一瞬言葉が詰まった。


「いやいや、面白そうな知らせを聞いて自分の目で見たくなってねぇ」


 村長はその言葉を聞いて、背中に嫌な汗が流れた。


「その事なのですが……」


 村長は意を決して、全てを正直に篤に話した。


「何だって? 居なくなった?」


「申し訳ごさいません。まさか居なくなるとは思わず……」


 村長は土下座して頭を下げた。


「ここまで来て無駄足とはねぇ全く……」


 流石に少し苛立ち気味に篤は呟いた。


「おばあさん……」


 そこに1人の少女が篤に近づいた。


「ん?」


「あんた強いの?」

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