第297話
「こいつは……」
「ニーズヘッグ!?」
「伝説の……」
フェルナンドのもとへと集まったエルフ王国の兵たち。
彼らは、フェルナンドが対峙している魔物を見て驚きの声を上げる。
それもそのはず、伝説の魔物であるニーズヘッグが目の前にいるのだから信じられないと思うのも仕方がない。
「俺はあの魔族が封印を解除しようとするのを止めないとならない。お前たちはこの魔物の足止めを頼む」
「……りょ、了解しました!」
魔族の出現を聞いて駆け付けたため、その魔族を止めないといけないことは分かっている。
封印されている魔王に復活でもされたら、エルフ王国だけの問題ではなくなるのだから。
しかし、魔族が魔物を操るとは言っても、こんな魔物まで出現しているとは思ってもいなかった。
足止めの指示を受けても、たいした時間止められるような相手ではない。
それが分かっていても、隊長の男はフェルナンドの指示に頷くしかなかった。
「やるぞ!! お前ら!!」
「「「「「お、おおっ!!」」」」」
フェルナンドの指示を受けた隊長の男は、部下たちに対してニーズヘッグとの戦闘を指示する。
出来るできないではなく、やらなければならない。
それが分かっているからか、部下の兵たちは戸惑いつつも指示に頷きを返し、ニーズヘッグへ向けて攻めかかって行った。
「若!! ここはお任せを!」
「すまん! 頼んだ!」
兵と共にニーズヘッグに向かいつつ、隊長の男はフェルナンドに声をかける。
危険な相手へ攻めかかれと言う無茶な要求をしているのは分かっている。
しかし、それを受け入れた隊長の男と兵たちに感謝の言葉をかけ、フェルナンドは魔王封印の地へと向かったセントロの後を追った。
「あの島だな……」
フェルナンドの相手をニーズヘッグに任せたセントロは、魔王が封印されている島の近くまで来ていた。
外から見る限り結界が張り巡差れているようには見えないが、あの島に入ったなら出て来られなくなるということは、適当な魔物を使って分かっている。
「さて……、ムッ?」
「ハッ!!」
「っと!」
魔王を復活させるために行動を起こそうとしていたセントロだったが、突然背後から攻撃を仕掛けられる。
その攻撃を回避して攻撃してきた者の姿を見ると、そこにはニーズヘッグを相手にしているはずのフェルナンドが立っていた。
「それ以上封印の地には近付かせん!!」
セントロに向け右手に刀、左手に銃を構えるフェルナンド。
少しでも封印の地へ近付こうとすれば、攻撃をする気満々と言った感じだ。
「……ニーズヘッグはどうした?」
「さあな……」
フェルナンドの相手はニーズヘッグに任せたはず。
それなのに自分に追いついたということに、セントロは不思議そうに問いかける。
質問にわざわざ正直に答える訳もなく、フェルナンドは惚けるような答えを返した。
「なるほど、仲間がきたか……」
フェルナンドが質問に答えないので、セントロは目に魔力を込めてニーズヘッグを置いてきた方向に視線を向ける。
すると、多くの人間がニーズヘッグと戦っているのが目に映った。
この国の兵が駆けつけたのだと判断したセントロは、どうしてフェルナンドが追い付いたのかの理由を理解した。
「お前を倒して、仲間の所へ行かせてもらう!!」
「フッ! ニーズヘッグ相手に手こずっているような奴が、私に勝てると思っているというのか?」
「何っ?」
倒して追いついたというのなら分かるが、仲間に任せて追いかけてきたと言うのなら話は違う。
その程度の相手なら恐れるに足らないと、セントロは余裕の表情で話しかける。
その余裕の態度に、フェルナンドは訝し気な表情になる。
「竜があれだけだと思うなよ! ハッ!!」
「っ!!」
戦闘態勢になったセントロは、魔力を手に集めて地面に手を突く。
その行為は、ニーズヘッグを召喚した時と同じ行動だ。
思った通り、セントロの足下には魔法陣が浮かびあがり、何かこの場に出現して来た。
「ゲオルギウスだと……!?」
魔法陣から現れたのは、黄緑色の鱗に長い尻尾、巨大な翼を持った竜のゲオルギウスだ。
大昔、多くの人間を殺し回ったと言われる毒竜。
ニーズヘッグ同様、伝説に近い魔物の出現に、フェルナンドは驚愕の表情をする。
「手駒はまだある!」
「ファ、ファイヤードレイク!?」
ゲオルギウスに驚いているフェルナンドを余所に、セントロはまたも地面に手を突き魔法陣を作り出す。
その魔法陣から、全身に炎を纏った竜が出現した。
炎により各地に大きな被害をもたらしたファイヤードレイクだ。
次から次に出てくる危険生物の出現に、フェルナンドはどんどん顔が青くなっていった。
「……おかしいな、まだいたはずだったが……」
ここまで来るのに乗っていたワイバーンまで呼び出し、セントロは首を傾げる。
召喚の魔法陣を作ったというのに、何も出現しなかったからだ。
「そうか、他の奴との戦いで……」
召喚の魔法陣を作ってどうして何も出てこないのかと考え、セントロは小さく呟く。
魔物が召喚されない理由を理解したかのような呟きだ。
「まあいい。この竜たちを倒さない限り、私の邪魔はできない」
「くそっ!!」
思っていた通りにはいかなかったが、これだけの魔物がいればフェルナンドの邪魔を阻止できる。
そう考えたセントロは、笑みを浮かべてフェルナンドを見つめる。
これではセントロの行動を阻止しようにも、竜たちによって邪魔をされる。
魔王復活を阻止できず側で見ていることしかできないと思うと、フェルナンドは悔しさで血が出るほど唇を噛んだ。
「お前たち、やれ!!」
「「「グルル……」」」
「くっ……」
セントロの指示を受け、ゲオルギウス、ファイヤードレイク、ワイバーンがフェルナンドを睨みつける。
睨まれたフェルナンドは、竜たちに向けて武器を構える。
しかし、相手が相手なだけに、心折れ手が震えそうになる。
そんな思いを必死に抑えるため、武器を持つ手に力を込めた。
「ピーー!!」
「「「っっっ!?」」」
「なっ!!」「何だ!?」
フェルナンドが心折れそうになっていたところ、突然上空に黒い生物が現れた。
その生物は、一声鳴くと強力なレーザー光線を3体の龍たちに発射した。
攻撃に対し、3体の龍は回避行動に移る。
しかし、3体のうち回避できたのはファイヤードレイクだけで、ゲオルギウスとワイバーンは回避しきれず翼を撃ち抜かれた。
突然のことに、フェルナンドとセントロの両者が驚く。
そしてそれをおこなった黒い生物を見て、両者は更に驚く。
「「丸烏……?」」
上空を飛んでいる黒くて小さな丸い物体。
強力な竜の翼に風穴を開けたのが、弱小魔物と知られている丸烏だったからだ。
「ナイスだ。ネグ! アスルもご苦労さん」
「ピー!!」「…………【ウッス】!!」
フェルナンドとセントロの2人が驚いている所に、ダチョウそっくりの魔物であるアぺストルースに乗った人間が現れる。
現れたのは俊輔、先程の魔法を放った丸烏はネグロ。
乗ってきたアぺストルースはアスルだ。
アスルから降りた俊輔は、竜2体の翼を潰したネグロと、ここまで自分を乗せて全力で走ってきたをアスルを褒めるとともに撫でてあげる。
主人に撫でられた2匹の魔物は、褒められて嬉しそうに声を上げた。
「お、お前は……」
「間に合ったようだな。ナンパ王子」
俊輔の姿を見たフェルナンドは、嫌な奴が来たと眉をひそめる。
しかし、癪ではあるが、共に自分の中で安堵しているのを感じていた。
そんなフェルナンドに、俊輔は軽い口調で声をかけた。




