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第264話

「たった1匹の人間相手に何をやっている!?」


 どういう手を使ったのか分からないが、いきなり魔王復活のためのダンジョンが攻略されてしまった。

 密かに調べてみれば、半年程前に入った人間が攻略したそうだ。

 きっと正当ではない方法で攻略したに違いない。

 そう思ってドワーフ王国を攻め込んでみたのだが、せっかく揃えた数人の動物型魔族たちが殺られ、ライオンの姿をした魔族は焦りながら檄を飛ばす。


「さっさと殺せ!」


 ドワーフなら何かしらの魔道具で攻略した可能性があるが、人族となるとそれも疑わしい。

 部下たちを倒した動きを見て、ライオンの魔族はもしかしたらの可能性を感じ始めていた。

 特殊な方法を用いた訳などではなく、この人間は普通に攻略したのではないかという可能性だ。


「全員で攻めかかるぞ」


「「「「了解!」」」」


 上司であるライオンの檄を受けた5体の魔族は、集まって会話を交わす。

 1人、2人で攻めかかっても、この人間は対応してしまうだろう。

 それ程の動きをしている。

 ならば4人で囲んで、魔法の得意な猿魔族が援護する形にした方が良いと判断した。

 猿魔族の言葉を受け、残りの4人はジリジリと俊輔を囲むように行動を開始した。


「……手間が省けるな」


 距離を取りつつ囲んでくる魔族たち。

 集団での戦闘をするつもりだということを理解した俊輔は、挑発するように呟く。

 しかし、魔族たちはその挑発に乗ることはなく、一斉に俊輔に攻め込むタイミングを計っているかのようだ。


「ハッ!!」


「っ!?」


 先に攻撃をして来たのは、俊輔の四方を囲むように立つ4体ではなく、少し離れた位置にいる猿魔族の魔法攻撃だった。

 上空から落下させるような火球魔法。

 この攻撃を躱すために動いた俊輔へ、囲んでいる魔族の誰かが襲い掛かるという考えなのかもしれない。


「フンッ!」


「「「「「なっ!?」」」」」


 魔族たちの企みを崩すように、俊輔は落下してきた火球を木刀で弾く。

 錬金術による強化により、俊輔の持つ木刀はそう簡単に燃えるようなことはない。

 そんな事を知らない魔族たちは、俊輔の行為に目を見開いた。


「くっ!」


 俊輔が弾いた火球は、羊魔族の方へ飛んで行く。

 魔力を纏った毛は、火球ですら弾く。

 防御力に自信のある羊魔族は、毛を膨らませて飛んで来る火球を防ごうとした。


「させるかよ!」


「がっ!?」


 羊魔族が毛による防御をするのを、俊輔は読んでいた。

 攻撃にも防御にも毛を使うのが羊魔族の戦闘スタイルだと、少し前の戦いで気付いていたからだ。

 そのため、火球を防ごうとするのを邪魔するように、俊輔は羊魔族に向かって電撃を放つ。

 火球よりも早く到達した電撃により、羊魔族は痺れて僅かに身動きができない状態になった。


「っ!?」


 身動きができなくなったことで飛んで来る火球に対処できず、羊の魔族は直撃を受けて吹き飛んだ。

 そして、吹き飛んだ先で、黒焦げのような状態で動かない所を見ると、どうやら今ので事切れたらしい。


「くそっ!」「野郎っ!」「このっ!」


 羊魔族が吹き飛んだのを見て、俊輔を囲んでいた残りの3人が一斉に攻撃を開始した。

 馬、象、熊の魔族たちが俊輔へ攻撃する。 

 馬魔族は手に持つ槍で、象魔族はパワーを生かしたハンマーで、熊魔族は両手に装着した鉤爪で切り刻むように攻撃してきた。


「いい攻撃だ。しかし、一段上げた魔闘術には通用しない」


「なっ!?」「くっ!?」「うっ!?」


 3体の魔族の連携を取った攻撃も、少し本気を出した俊輔に通用しない。

 槍、ハンマー、鉤爪の攻撃を、俊輔は見切っているかのようにギリギリで躱す。

 自分たちの攻撃が空振りばかりになり、魔族たちは焦った声を漏らした。


「おいっ!」


「は、はい!?」


 俊輔が3体の相手をしているなか、指揮官のライオン魔族は俊輔に魔法を放つ隙を窺っている猿魔族の側へと近付き声をかける。

 突然のことで、猿魔族は何を言われるのか不安になり、慌てたような声をあげた。


「お前の全力魔法で、あいつらごと奴を吹き飛ばせ!」


「なっ!?」


「大きな声を出すな!」


 上司が何を言うのかと思ったら、まさか味方ごと敵を倒せという指示だった。

 魔族同士は仲が良いとは言わないが、仲間という意識はある。

 いきなりその仲間ごと撃ち殺せと言われても、猿魔族からすると戸惑うしかない。

 思わず大きな反応をした猿魔族に、ライオン魔族は小声ながらきつい口調で制止する。

 敵の人族だけでなく、攻撃をしている仲間の魔族にまで聞こえてしまっては、使える手も使えなくなってしまうという判断のようだ。


「気付かれないようにさっさとやれ!」


「しかし……」


「やらなければ、俺がお前を殺るぞ……」


「りょ、了解しました……」


 上司の指示とは言え、魔族仲間を攻撃するということはどうしても躊躇してしまう。

 そんな猿魔族に、ライオン魔族はドスの効いた低い声で呟く。

 出来ればやりたくない所だが、やらなければこの上司は本当に自分を殺そうとするかもしれない。

 仕方がないので、猿魔族はその指示に従うことにした。


「っ!?」


 攻撃を躱しつつ3体の魔族の動きを見ていたこともあり、段々とこの者たちの攻撃パターンが読めてきた。

 そろそろ反撃に出ようかと思ったところで、俊輔は魔力の高まりを探知する。

 その探知した魔力にの方向に目をやると、猿魔族がこちらへ向けて魔法を放つ寸前だった。


「ハッ!!」


「「「なっ!?」」」


 俊輔に遅れて、攻撃をしていた魔族たちも猿魔族の攻撃に気付く。

 しかし、その時にはもう猿魔族は魔法を放っていた。

 これまでの何倍もする大きさの火球が、こちらへ向かって発射された。

 明らかにこの場にいる者たち全員を巻き込むような攻撃に、3体の魔族は驚きで俊輔への攻撃の手が止まった。


「フンッ!」


「「「っ!?」」」


 俊輔と3体の魔族。

 全員まとめて始末するような魔法攻撃が迫るなか、俊輔はまたも魔闘術の魔力を増やす。

 それによって強化された脚力を生かし、俊輔は3体の魔族だけこの場に残して魔法の回避に移った。

 俊輔が消えたように高速で動いて回避したすぐ後、飛んできた超巨大火球が3体の魔族を巻き込んで大爆発を起こした。

 その爆発によって巻き起こった土煙が治まると、そこには大きなクレーターができているだけで、他には何も残っていなかった。

 直撃を食らった3体の魔族は、跡形もなく消し飛ばされてしまったようだ。


「フゥ~……。危ないところだった」


 3体の攻撃の手が止んだのが助かった。

 その隙に魔力を上げる間を与えてもらえたのだからだ。

 例え攻撃の手が止まなかったとしても攻撃を受けない方法はあったが、魔力を消費することになっていた。

 無駄に魔力を消費することなく済み、俊輔は一息吐いたのだった。



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