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第25話

「どうしよう……」


 村の近くの丘の上で、仰向けに寝転びながら俊輔は独り言を呟いた。


「ピー?」


 寝転んでいる俊輔の周りを飛び回っていたネグロが、俊輔のお腹の上に乗って首を傾げて来た。


「どうしようか? ネグ……」


「ピー♪」


 悩まされている俊輔とは違い、ネグロは呑気に返事をしている。


 この国では35の地域に分けられていて、その中で国立の学校は5つしかない。

 京子から聞いた奥電の役人がこの村に向かっているのは、恐らく俺の学校への資格の審査だろう。

 もちろん先日の、魔族による魔物の襲撃の被害状況の確認もあるのだろうが、奥電とこの村には今まで大した係わりがない。

 その為、奥電の役人が来る理由はそれ以外の用事なのは分かりきった事だ。

 この村から1番近いのが奥電の街の学校で、その学校で学力や武術を身に付け、優秀な能力の持ち主は気に入られた大名に仕官するのが、この村の人々の夢である。

 それは家の家族も同様で、特に父の田茂輔は期待しているようだ。

 母の静江に聞いた所、父の田茂輔は子供の頃、祖父の反対を押しきって勝手に奥電の街に行き、剣術道場で実力をつけて、学校に入学したらしい。

 しかし、学校では上には上がいて、大した成績を出せず、結局仕官先など無く、何とか卒業する事が出来ただけで村に帰って来たらしい。

 その為、俊輔が先日魔闘術を使いこなし、しかもその実力の高さに、かつての自分の夢である大名への仕官も期待出来る事が嬉しいようだ。


「気持ちは分かるけどなぁ……」


 前世で自分は結局家庭を持つことが出来なかったが、周りの友人達は結婚して家庭を持ち、皆自分がやっていたスポーツを子供にやらせていたのを思いだし、かつての自分の夢を、息子に託したくなる気持ちは多少だが分かるのだが、はっきり言って学校になど行きたくない。

 うぬぼれではなく、自分だったら恐らく仕官先など見つかるだろう。

 何故ならば勉強だって一応前世で3流大学とは言え卒業しているし、魔闘術だって5才位から使いこなせるようになったのは、ほとんど遊びだが訓練して来たからである。

 学校在学中に魔闘術が使えるようになった人間は間違いなく仕官している為、入学前から使えるのであれば、場合によっては異例の飛び級だってあるかもしれない。

 しかし、仕官してからは大名への忠誠を誓い、大名の為に、この国の為に働かなくてはならない。

 この国の最高権力である将軍家の側近にまで登り詰めなければ、とてもではないが大陸に行く事などあり得ない。

 しかもその場合、好き勝手に動き回るなんて出来るはずもない。

 俊輔はせっかく転生したので、今世では自由に世界を旅して回りたいと思っている。

 その為に、この国で仕官などせず大陸で冒険者として生きようと決めていた。


「父ちゃんには悪いけど、このままじゃ学校行きが決まっちゃうしなぁ……」


「ピー……」


 夕方になってもずっと悩んでいる俊輔を、ネグロは心配そうに見つめている。


「…………よしっ、決めた」


 そう言って俊輔は立ち上がり、ネグロを頭の上に乗せ家に帰って行った。





――――――――――――――――――――


 深夜になり、寝ぼけているネグロを頭に乗せ、俊輔は家族に気付かれないように家の外に出た。


「父ちゃん、母ちゃん、龍兄、虎兄ごめん。俺やっぱ出てくわ。今度帰って来たら1発くらい殴ってくれて構わないからさ……」


 そう言って俊輔は家に背を向けた。


「俊輔!」


「!!!?」


 俊輔は出て行こうとしたとたんに声を掛けられ、びっくりして振り返った。


「父ちゃん……?」


 そこに立っていたのは父の田茂輔だった。


『やばい……、どう言い訳しよう』


 俊輔は頭の中で言い訳を考えているが、全然思い付かない。


「こんな夜中にどこ行くつもりだ?」


「…………」


「数日後に奥電の役人が来る……、風邪でもひいたらどうするつもりだ?」


「…………」


「さあ……、家に入れ!」


「……ごめん父ちゃん! 俺この国から出て行く! 大陸で冒険者になって世界を旅して回りたい!」


 俊輔は結局言い訳が思い付かなかったので、本音で話す事にした。


「馬鹿な事を言うな! 強いと言ってもお前は子供だ! 独りで生きて行けるわけないだろう!」


「大丈夫! 今まで貯めた魔石とか売って何とかやってくよ!」


 父の言いたい事も分かる。

 この世界では前世と違い命が軽く扱われている。

 そんな世界で10才の子供が独りで生きて行く事は自殺行為に等しい。


「駄目だ! そんな馬鹿な事言っていないで早く寝ろ!」


「……悪いけどもう決めた事だから、俺は出て行く!」


 そう言って、俊輔は家に背を向け歩き出した。


「おい! 俊輔!!」


 俊輔を止めようと、田茂輔は拳を握り殴りかかった。


“ドスッ”


 俊輔は田茂輔の拳を避け、カウンターで鳩尾に拳を叩き込んだ。


「ぐっ!」


 きれいに入ったため、田茂輔はその一撃で気を失った。


「ごめん父ちゃん……」


 俊輔は殴ったことを一言謝り、気を失った田茂輔を背負って、静かに家の中に寝かせた。


「黙って出て行けた方が良かったなぁ……」


「ピー……」


 喧嘩別れのようになってしまい、後味の悪さを感じつつ家から南に向かって歩き、俊輔とネグロは官林村から出て行った。


 

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