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第245話

「……ガーゴイル」


「魔人大陸で人族とは珍しいですね……」


 俊輔は相対するものの姿を見て呟く。

 魔物の図鑑で見たガーゴイルが、何だかスーツを着ている。

 ブーオの方も俊輔を物珍しそうに見つめる。

 魔人他陸のこんな所に人族がいるなんて思いもしていなかったようだ。


「何で魔族がこんなとこにいるんだ?」


「っ!? ほぉ~、私を見て魔族と分かるとは……」


 ガーゴイルがこのような格好をしていることを不思議に思ったりはするが、魔力を探知すれば普通の魔物のものとは違うと分かる。

 これと同じような魔力は何度か見たことがある。

 そのため、俊輔はすぐにこのガーゴイルが魔族だと理解した。

 俊輔の言葉に、ブーオは驚きの表情へと変わる。

 恰好からいってただのガーゴイルではないと分かるだろうが、この人族の前ではまだ魔族という言葉を発していない。

 それなのに魔族と知っているということは、魔族を以前に見ているということに他ならない。

 そのため、ブーオは俊輔のことを只者ではないと判断し、警戒することにした。


「魔族は何度か見たことがあるんでな……」


「……そうですか。どうも初めましてブーオと申します。たしかあなたは俊輔というお名前でしたかな?」


「あぁ、そうだ」


 見たことがあるどころか、昔から何体もの魔族を始末してきている。

 毎回毎回俊輔たちの前に現れては、面倒を起こしてばかりいる厄介者たちという印象だ。

 旅のついでに始末するのも、目的の一つになりつつある。

 そんあ俊輔の心境など知る由もなく、ブーオはブラウリオにしたように名前を名乗った。

 先程ブラウリオが叫んだのを聞いていたため、俊輔の名前は分かっているようだ。


「魔物もお前が出したんだろ?」


「その通りです」


 魔族は大量の魔物を使役する。

 俊輔は経験上何度も見てきた。

 避難所や町中に出現している魔物は、このガーゴイルが呼び出した魔物のようだ。

 鳥系統の魔物を呼び出しているから鳥系の魔族だと思っていたが、飛空系の魔物を使役するのが得意ということなのだろうか。

 中には飛べない鳥も混じっていたのでなんとなく意外な思いがするが、魔族の全容を知る訳でもないので、俊輔は深く考えるのはやめた。


「なら、お前を潰して止めるしかないようだな」


「潰す? 人族のあなたが魔族の私をですか?」


「あぁ」


 使役の法則がどうあれ、ようはこのブーオという魔族を倒せばいいだけだ。

 そうすれば魔法陣を壊せば済む話なので、俊輔は早速いつもの木刀を腰から抜いた。

 あっさりと勝利宣言に似た発言をしてくる俊輔に、ブーオは若干不機嫌そうな声色へと変わる。

 それでも俊輔はたいしたことないように短く返答した。


「面白い冗談ですね」


「冗談ではないからな」


「…………」


 俊輔の発言は所詮ハッタリに過ぎない。

 そう判断したブーオは、笑みを浮かべた表情へと戻る。

 しかし、俊輔は自分を軽んじているような態度を崩さないため、表情は真面目なものへとまた変わる。


「ブラウリオさん! こいつは俺が引き受けるから、町中の魔物を頼む」


「いや、しかし……」


 ブーオを倒さなくても、魔物の出現を止める方法はある。

 ブラウリオの実力なら何とかなると思うので、そっちは任せることにした。

 魔人の国のことを客人扱いの俊輔に任せるのは気が引ける。

 予想外の攻撃で危機に陥ったが、まだ戦えるのに退くのは納得できないのかもしれない。


「大丈夫! 任せてください!」


「……分かった、この場は頼んだ」


 ダメージも抜けてまだ戦えるとは思うが、自分はブーオの速度についていけていない。

 あの速度に慣れるのには少し時間がかかる。

 その間に致命傷を受けてしまえば終わりだ。

 そもそも俊輔が来なければ負けていた自分がとやかく言うのは間違っていると、ブラウリオはブーオの相手を俊輔に任せることにし、競技場から町中へと向かうことにした。


「私を無視するのはやめていただきたいですね。それに勝手に逃げるのは許しませんよ!!」


 完全に自分の存在を無視しているように、俊輔とブラウリオが話しを進める。

 そして、ブラウリオが競技場から出ていこうとするので、ブーオは逃がすまいと追おうとする。


「っ!?」


「お前の相手は俺だっての!」


 自慢の速度を使ってブラウリオへ向かっていくが、俊輔が立ち塞がった。

 邪魔をできるということは、自分の速度に付いてこれているということになる。

 ブーオとしては、全力ではないとは言ってもそれが信じられない。

 しかし、俊輔の表情から窺えるのは、自信と余裕という言葉が当てはまった。


「……やれやれ、ブラウリオ殿が行ってしまいましたね」


 エナグア王国において最強の戦士を殺すことが、国を潰すのに手っ取り早い。

 そのため、魔物を使うことで魔力と体力を削って自分の優位に持ち込んだというのに、余計な手間が増えてしまった。

 しかし、別に慌てる必要はない。

 この俊輔とか言う人族を始末してから、改めて倒せばいいだけのことだ。

 そう考え、ブーオはひとまず気持ちを落ち着かせた。


「魔族に遭ったことがあるようなことを言っていましたが、私は逃がしませんよ?」


「何言ってんだ? 逃げてなんかいない。何体も殺してきた」


 魔族は人間のように数は多くない。

 遭遇したのであれば、多くの人間は死を迎えるのが通常だ。

 それでも生きているということは、逃げ延びたと考えるのが自然だ。

 ブーオも同じように考えたのだろう。

 俊輔が運良く生き延びた口なのだと理解した。

 しかし、俊輔からは全く違う答えが返ってきた。

 俊輔は「殺してきた」といった。

 更には「何体も」という言葉つきだ。

 遭遇して、逃げるでもなく倒してきたということになる。


「……何の冗談ですか?」


「冗談じゃねえけど?」


 魔族も実力にピンからキリがある。

 たしかに人族の中には魔族以上の戦闘力を有する者はいるが、所詮は下っ端の魔族を相手にした場合はだ。

 ブラウリオのように中級から上級の魔族相手に戦えるような人間は両手で数えられる程度しかいないはずだ。

 それだけの実力のある人間がいるという話は聞いていない。

 それゆえに、逃げたのではなく倒したというのは信じられない。


「……では、それが冗談でないか確認させていただきましょう」


「おぉ、さっさとかかって来いよ! さっさと終わらせて被害は少なく済ませたいからな!」


 話しているだけではらちが明かない。

 この俊輔という人間の言うことの正否は、試してみれば分かること。

 ブーオはそう考えて、武器となる仕込み杖の柄に手を伸ばした。

 俊輔としてはさっさとブーオを倒してしまいたい。

 明らかに雰囲気の変わったブーオとは違い、俊輔は木刀で軽く肩を叩いて余裕の態度で答えを返した。


「……調子に乗るなよ!!」


「その口調の方が魔族らしいぜ……」


 生物として上位の存在であるはずの自分が、人間に軽んじられている。

 たまたま不意打ちの一撃を与えられたからといって、この人間は調子に乗り過ぎている。

 その態度をすぐに改めさせようと、ブーオは俊輔に対して殺気を飛ばした。

 これまで紳士ぶって我慢していたようだが、魔族は本性を現すと短気で短慮になりがちだ。

 ブーオも我慢の限界が来たようだが、その殺気に晒されても俊輔は何とも感じない。

 これまでの魔族に何度も浴びせられてきたものだからだ。


『ちょっとは警戒しとくか……』


 ただ、このブーオはこれまで倒してきた魔族よりも殺気の威力が高い。

 これまでの魔族と違い、もしかしたら何か特別なことをしてくる可能性がある。

 そう考えると、一応自分も警戒をしておいた方が良い。

 俊輔は表情こそ余裕のままながら、内心では意識を変えていた。



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