第232話
昨日投稿予定だったのですが、もう少しで書き終わる寸前で全文消えてしまいました。
流石にすぐさま書き直す気にならず、今日になってしまいました。
「おいっ! 何でお前がここにいるんだ!?」
「………………」
武術大会の予選の日を迎えた。
大会の会場の隅でビダルが体を動かしている所に、1人の少年が文句を言うように話しかけてきた。
その少年は友人2人を引き連れてきている。
同じ道場で、いつもビダルをイジメていた3人組だ。
そんな3人を一瞥すると、ビダルはまた体を動かし始めた。
「てめえ無視してんじゃねえよ!」
「魔力もねえ癖に!」
先程の言葉を無視されたことで、他の2人も苛立たし気にビダルを睨みつける。
そして、ビダルに対して脅すように迫ってきた。
しかし、大会の関係者がゴロゴロいるため、いつものように手を出すことはできない。
それが分かっているため、何を言われてもビダルは彼らに興味がないと言いたげに無視を続ける。
「それではエナグア王国武術大会の予選を開始します!」
3人組がビダルを囲んで更なる脅しをかけようとしたところで、大会関係者の声が会場に広がった。
予選の振り分けはクジで分かれており、8つのブロックに分かれている。
15歳前後の男女が300人程集まっており、大体の人間は3勝すれば明日以降の観客が入った競技場での本選へと進むことができる。
「チッ! もう開始かよ……」
3人組の中では、大会への緊張を紛らわせるためにビダルをからかおうとする思いがあったのだが、思いのほか早く始まることになってしまった。
そのため、思わず舌打ちが出てしまう。
「じゃあな! 魔力無し!」
「お前なんてすぐに負けんだろ?」
「せいぜいぶさまにやられるてみんなを楽しませてくれよ!」
「「「ハハハハハ」」」
言いたい放題にいつものようにビダルをからかい多少満足したのか、3人組は捨て台詞と共に自分たちのブロックへと向かって行った。
しかし、そんな彼らの言葉は全く気にかけず、ビダルは終始無言で自分の戦いに向けて準備をおこなっていた。
「では、第3ブロックの予選を開始します」
心を落ち着かせて待っていると、ようやくビダルの初戦の番が来た。
武器は木製であれば何でも使用可能で、 武術大会とは言いつつも魔法までありとなっている。
魔法も戦闘の技術の1つという意味合いがあるらしい。
しかし、相手を殺傷しようとするのはルール違反の失格になるとのことだ。
相手は木剣で、ビダルは俊輔に貰った木刀を使用する。
錬金術で強化してはいないが、なかなか丈夫な木で仕上げた木刀だ。
「始め!」
開始の合図と同時に、お互い魔力を体外へ放出する。
「なっ!!」
「あいつ魔力を!!」
「何で!?」
1回戦は何とか勝利を収めたイジメ3人組。
自分たちの試合が終わって、すぐさまビダルの負けっぷりを笑いに来たつもりだったが、魔力が無いと言われていたはずのビダルが魔力を使ったことに驚きが隠せない。
「ハッ!」
お互い相手の様子を窺い動かない状況でいたのだが、先に相手の方が痺れを切らした。
一気にビダルへと接近し、ビダルへ向けて木剣を振り下ろした。
「シッ!」
何もしなければ当然負ける。
振り下ろされた木剣を、ビダルは木刀で弾く。
そして、木剣を弾いた勢いをそのままに、相手の胴へと木刀を振る。
カウンターによるがら空きの胴への攻撃。
そのまま直撃すれば大怪我をしてしまうと判断したビダルは、胴に当たる直前で木刀を停止させた。
「勝負あり! 勝者ビダル!」
攻撃を止めたことで勝敗は決し、審判はビダルの勝利を宣言した。
「マジかよ……」
「勝っちまった……」
「どうなってんだ……」
魔力を使うだけでなく、ビダルが勝利をしたためイジメ3人組は驚きで目を見開いている。
何年も魔力が無かったはずなのに、突然発動したと思ったら余裕そうな勝利。
元々魔力が無かっただけで、ビダルの剣技はかなりのものがあった。
魔力が使えるようになれば、凡庸な才しかない3人組は太刀打ちできないだろう。
案の定3人組は2回戦で敗退。
ビダルは3勝して本選への出場が決定した。
◆◆◆◆◆
「さて、俊ちゃんの教え子はどんな子かな?」
「……言っておくが男だぞ」
毎日昼間は観光に連れて行っているのに、毎朝ビダルを鍛えに行っていた自分に何か思う所があったのか、京子は少し嫌味気味に話しかけてきた。
もしかして、教えているのが女性だと思っているのかと、俊輔は京子に性別だけは教えた。
「お前が鍛えたんだ。さぞ強いんだろうな?」
「お前も難易度をあげるなよ」
カルメラも俊輔が目を付けた相手のことが気になる。
俊輔自身も大会が面白くなると言っていたのだから、ある程度は強いのだろう。
いつも強力な魔物にも平気で向かって行くのに、からかわれているのが面白いのか、ハードルを上げるような発言をした。
面白いものを面白いと言って伝えると、大抵の話はつまらない話になることが多い。
カルメラの発言に、俊輔は困った表情へと変わった。
「まぁ、最後は突貫になっちまったが、良い線行くと思うぞ」
「へぇ~」「ほぉ~」
魔力を無理やり動かしたら気を失ってしまい、その後ビダルの親に説明するのに苦労した。
しかし、ずっと無いと思っていた魔力があると俊輔に説明されて、若干涙ぐんでいたようにも思える。
魔力が使えるようにするといった俊輔に懸けたのか、翌日の夕方に目を覚ましたと、わざわざ俊輔たちが世話になっている宿にまで知らせに来てくれた。
母を亡くして父親しかいないらしく、その父親からは好きなように鍛えてくれと言われていた。
男なら強くあれという思いがあったが、魔力が無いのではどうしようもないと諦めていた。
そこへ急に魔力があると言われて、人族だろうが関係なく縋るしかなかったのだ。
父親からは了承を得たので、俊輔は時間もないことから結構きつめの訓練をビダルに課した。
とりあえず戦えるようには仕上げられたと思っている。
ビダルから予選突破を聞いた時、訓練の成果が出たと俊輔はかなり嬉しかった。
きっと本選でも戦えると思うので、カルメラの上げたハードルもそんなに高くないかもしれない。
俊輔が自信ありげに呟いた言葉に、京子とカルメラは試合が始まるのを楽しみにすることにした。
「ピッ!」
「そうか。ネグも楽しみか?」
会場の賑わいで楽しい空気を感じ取ったのか、いつものように俊輔の頭の上に乗ったネグロも楽しそうに声をあげる。
俊輔たちは、アルボリソの村を救ったことによる招待客という位置づけになっている。
そのため、戦闘部隊の隊長であるブラウリオが、招待客用に来賓席を用意してくれた。
会場全体を見渡せる結構いい位置だ。
「お集りの皆様! ようこそおいでくださいました!」
見る側にも人気の大会らしく、会場が満席といった感じで人が溢れている。
それを見計らった訳ではないが、大会の運営側の人間が拡声器の魔道具を使って話し始めた。
その声に反応するように、観客のざわめきは少しずつ静まっていく。
「これより、エナグア王国武術大会の本選を開始いたします!!」
ざわめきがかなり治まった所で、運営側から開始の宣言がされた。
そして、会場の東西に分かれた選手入場口の側に、初戦の選手の名前が書かれたボードが掲げられた。
「おいおい、初戦からかよ……」
予選を突破したのは32人いるのに、くじ運なのかビダルの名前が書かれたボードが掲げられた。
それを見て、俊輔は緊張する初戦を引くなんてくじ運のない奴だなという思いが湧いてきた。
「あのこが……」
「ほぉ~……」
西口から入場したビダルに、京子とカルメラは視線を送る。
冗談抜きで、俊輔の指導を受けた子供がどれだけ戦えるのか楽しみだ。
「始め!」
お互いが武器を構えると、待ち望んだ試合開始の合図が審判から発せられた。




