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第198話

「魔物が減ったか?」


「そう言えばそうね」


 俊輔の呟きに妻の京子が反応する。

 子供たちの向かった方向へ歩く俊輔たち。

 森の中の樹々が減って来たのと同時に、ここまで頻繁に出て来ていた魔物も数が減ってきた気がする。

 それでも時折出てくる魔物もいるが、これまでに比べればたいしたことない魔物ばかりだ。

 それも、俊輔たちだから簡単に倒せるのであって、普通の冒険者なら人数を揃えないと危険な魔物ばかりである。


「つまりは、町か村が近くにあるのだろう?」


「そうだな……」


 俊輔と京子のやり取りを見ていたカルメラがその会話に入る。

 その言葉通り、大陸に着いて探していた最初の町か村が近いということになる。

 いくら魔力が多い魔人族といっても、魔物の多いところに住んでいては、休まる日々を過ごす事などできないだろう。

 ならば、魔物の少ない場所に住むのが必然だろう。

 俊輔たちもそれが分かったようだが、何やら様子がおかしい。


「んっ? 何の準備をしているのだ?」


 人の住むところがが近いと分かった俊輔と京子が、武器を収納し始める。

 いくら近くになったとは言っても、まだ魔物が出るかも分からない。

 そのため、カルメラが首を傾げる。


「ほら! お間の武器も寄越せ!」


「あっ!? おいっ!!」


 何をしているのか聞いてくるカルメラに、俊輔は自分の武器だけでなくカルメラの武器を取り上げて収納した。

 抗議の言葉を投げかけるカルメラだが、これで3人とも丸腰の状態になってしまった。


「町か村が近いんだろ? ということは……」


「っ!? 何だ!?」


 俊輔の言葉の途中で、急に殺気がする。

 それにカルメラが反応し、そちらに顔を向けると、数人の魔人たちが茂みに隠れているのが分かった。


「来たみたいだな?」


 集まった魔人たちを見ると、俊輔は彼らが来ることが分かっていたかのような言葉を呟く。

 

「やれっ!!」


「「「「「ハッ!!」」」」」


“ボボボボボッ!!”


 俊輔たちが自分たちの存在に気付いたようなので、隠れるのを諦めた魔人たちは、姿を現すと共に俊輔たちに魔法を放ってきた。


「っと!?」


「わっ!?」


「ピッ!?」


「…………!?」


「クッ!?」


 俊輔たちは、それぞれに飛んできた魔法を避ける。

 まるでそうなるように、魔法を避けた俊輔たちはバラバラに離された。

 予想通りになったことで、魔人の者たちは武器を構えて俊輔たちに襲い掛かって来た。


「抵抗はしても、絶対殺しはするなよ!!」


「了解!」「ピッ!」「……(了解っす)!」


「なっ!? 何っ!?」


 俊輔たちを更に分断して、連携を取れないようにしたいのだろう。

 魔人の者たちは、数人ずつに分かれて武器による攻撃をしてきた。

 俊輔たちはこうなる事が分かっていたかのように、冷静に対処する。

 そんな中、俊輔は魔人の攻撃を躱しつつ殺さないように仲間に指示をする。

 京子、ネグロ、アスル(念話)で返事をする中、カルメラだけが完全に理解できていないのか、慌てたような声をあげる。







「……あの?」


「ハッ!!」


「話もなしかよ!」


 分断された俊輔は、自分を目の前に並ぶ5人に向かって話をしようと口を開く。

 しかし、それを全く聞く気がないのか、魔人の一人が俊輔に向かって土塊を飛ばす魔法を放ってきた。


「流石というか……、なかなかの威力だ」


 飛んできた土塊には結構な魔力が込められており、普通の冒険者が当たれば大怪我するのは間違いないだろう。

 しかし、俊輔は損所そこいらの冒険者とは訳が違う。

 飛んできた土塊を、前後左右に最短距離動くことで全部躱す。


「っと、囲まれたか……」


 俊輔が躱している間に、魔人たちは周囲を囲むように移動していた。


「おらっ!」


「丸腰相手に容赦ないね……」


 魔人たちは色々な武器を持っており、ロングソードを持った男が俊輔に向かって斬りかかってきた。

 大怪我くらいは構わないと言ったような攻撃に、俊輔は思わず声が出てしまう。


「……とは言っても、優しいな……」


 戦っている最中でありながら、俊輔は魔人の彼らに好感を持った。

 自分を攻撃してくる人間に対してそんなことを思うなんておかしなことだが、俊輔は彼らの攻撃の1つ1つから伝わってくる感情を読み取ったからだ。


「このっ!!」


 攻撃してくる魔人の中には比較的若い者も混じっており、その動きは戦いに慣れていないように見える。

 当然そんな攻撃が俊輔に通用する訳もなく、余裕を持って攻撃を躱す。


「クッ!? こいつ……」


「あぁ、普通じゃないぞ!」


 自分たちの攻撃が全く通用しないことに、魔人の彼らも慌て始めた。

 動きが予想できないほど速いため、手の打ちようがなくなって来ていた。


「失礼だな……」


 常に魔法や武器による攻撃が飛んでくるなか、俊輔は武器を出すこともせず、躱すだけで攻撃をしない。

 魔人たちの会話にツッコミを入れられるほど余裕だ。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 魔人たちも攻撃のしっぱなしに、疲労から息が切れ始めた。

 特に若い彼は、動きが鈍ってきている。


「そろそろいいかな……」


「「「「「っ!?」」」」」


 彼らの疲労を見て取ると、俊輔は動き出す。

 これまで以上に速い動きをして、魔人たちの視界から消える。


「1人!」


「がっ!?」


 魔人たちが俊輔を見失い姿を探していると、俊輔は若者の魔人の背後に突如姿を現した。

 そして、チョークスリーパーを極めると、すぐに気を失わせることに成功する。


「てめえ!」「このっ!」


「2人、3人!」


「ウッ!!」「ガッ!!」


 仲間をやられ、腹を立てた2人が斬りかかって来る。

 それを躱した俊輔は、2人の腹に拳をねじ込む。

 鳩尾に直撃した2人は、そのまま気を失った。


「チクショウ!!」「この野郎!!」


 ここまで来ると、残りの2人は俊輔の強さに恐れを抱く。

 破れかぶれと言った感じで武器を振り回してくる。


「4人!」


「かっ!!」


 残りの2人の内、1人の顎先を殴って脳を揺らして気を失わせ、


「5人! っと……」


「うっ……くそっ!!」


 最後の男も腹を殴って動けなくした。



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