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第190話

「ぐっ……」


 リベラシオンを倒せて安心したのか、俊輔はその場に座り込む。

 そしてすぐに出血部位を抑え、回復魔法を開始する。

 さっきまでやせ我慢していたが、痛いものは痛い。


「………………ぐっ…………」


「生きてるか?」


 何とか意識を失わないようにしながら、回復している俊輔の側で微かに呻き声が聞こえた。

 公爵家のイバン同様、リベラシオンに力を吸い取られたのか、かなり衰弱したような状態だ。

 魔法の袋から取り出した回復薬も使い、俊輔は少しでも早く傷を治そうとする。


「……おい! 大丈夫……じゃないな」


 回復が終わり、俊輔はシモンに近付いて話しかけるが、とても弱っており会話ができるようには思えない。

 回復薬をかけて傷口を塞いでやるが、それで衰弱状態が治る気配がない。

 魔法で回復を試みるが、それも反応を示さない。


「残念ながらお手上げだな……」


 もしかしたら、リベラシオンが使っていたオーラのようなものが良くなかったのだろう。

 あのオーラで取り込んだ者の何かを吸収していたのかもしれない。

 よく分からない症状を治せるほど、回復魔法は万能ではない。

 俊輔はシモンを治すことを諦めざるを得なかった。


「…………妹を……」


 俊輔の呟きに反応したのか、シモンが微かに口を開く。


「…………助……けて………くれ……」


 目は閉じているのに、妹の容態を気にしているようだ。

 リベラシオンが妹に止めを刺すのを阻止したとは言っても、その前の俊輔もろともの刺傷は止められなかった。

 意識を乗っ取られていた時の記憶は残っているのだろうか。


「…………頼……む」


 依頼主の指示に従ったために敵になったが、シモンは一応仲良くなった身。

 王暗殺の罪で死刑はまぬがれないとは言っても、もう少しだけ話がしたかった。

 そのため回復しようとしたが、別にシモンの妹には興味が無い。

 俊輔が大怪我を負う原因を作ったことを考えると、むしろ好ましくは思えない。


「…………分かったよ」


 しかし、一時とはいえ友になった者の最後の頼みだ。

 シモンの願いに、俊輔は渋々頷いた。


「息は…………まだある」


 倒れているカルメラに近付くと、俊輔はまず息があるかを確認した。

 弱いが脈も確認できる。

 魔法の袋から取り出した回復薬を傷口にかけ、俊輔はカルメラに回復魔法をかけ始めた。


「何とか大丈夫そうだな……」


 青くなっていた顔も少しずつ赤みを帯びてきた。

 それを確認すると、俊輔は安心した声を漏らした。


「……んっ?」


 少しの間俊輔が回復魔法をかけていると、カルメラが反応を示した。

 どうやら意識が戻ったようだ。


「目が覚めたか?」


「……っ!?」


 目を開けた瞬間聞きなれない声が耳に入り、カルメラは慌てて立ち上がり距離を取る。


「貴様!?」


 立ち上がったカルメラの目に入ったのは、俊輔の姿だった。

 刺されたはずの傷口が塞がっている所を見ると、この男が自分を治したのだということにカルメラは気付く。


「っ!?」


 しかし、それよりも目が行くことがある。

 横たわる兄の姿だ。

 そうなると、俊輔のことなど気にならなくなり、カルメラは兄の下へと走り寄った。


「兄者!! 兄者!!」


 倒れている兄の下へたどり着いたカルメラは、その体に縋りついた。

 衰弱し、今にも事切れそうな兄の姿に、カルメラは目に涙を浮かべて声をかける。

 しかし、シモンは反応を示さない。


「か、回復薬を……」


「無駄だ。リベラシオンの変なオーラのせいで魔法も薬も効かない」


 シモンを助けようとカルメラが回復薬を取り出すが、俊輔がそれを止める。

 先程自分も試したが、傷は治っても衰弱は治らなかったのだから。

 しかし、俊輔のその言葉はカルメラには届かない。

 俊輔の言葉を無視し、カルメラはシモンの体に回復薬をかける。

 しかし、やはり何の効果も発揮しない。


「何でっ!?」


「………………」


 回復薬をかけても何の効果を示さないことに、カルメラは若干パニック状態でなおもシモンに回復薬をかける。

 言っても無駄のようなので、俊輔は黙ってカルメラの好きにさせた。


「…………カル……メラ……」


「兄者!? 兄者!!」


 状態は変わっていないが、シモンが僅かに反応をした。

 自分の名前を呼ばれたことで、カルメラは回復薬をかけるのをやめてシモンに話しかける。


「……お前…………は、……自由…………に……」


「…………!」


 最後の言葉になると分かったからか、カルメラは黙って聞きながら頷きを返す。


「…………生き………………ろ」


「……兄者!? 兄者ァーー!!」


 その言葉を言い、シモンは全身の力が抜けたように力尽きた。

 それを見て、カルメラは今まで以上に涙を流してシモンのことを呼び続けたのだった。






「……っで? お前はどうしたいんだ?」


「…………………」


 少しの間そのままにしておいたが、このままでは埒が明かないと思い、俊輔は抜け殻のように項垂れたままのカルメラへと話しかけた。

 しかし、俊輔の声は聞こえているはずなのに、カルメラは何の反応も示さない。


「だんまりか?」


 元々カルメラのことは対して興味が無いが、その姿を見ていると何故だかちょっとだけおせっかいをしてやることにした。


「まぁ、京子がもうすぐ公爵家の者たちを連れて来る。捕まったら死刑だろうな……」


「……お前は何を言いたい?」


 独り言のように呟く俊輔に、カルメラはようやく反応した。

 その台詞は、俊輔が自分に状況説明をしているともとれる。

 敵であるはずなのにそんなことを言ってくる意味が分からず、カルメラは俊輔の意図を探る。


「別に……、俺としては今回の元凶のリベラシオンは倒したんだ。あとは公爵家に任せるだけだ」


「………………」 


 カルメラの問いに俊輔は軽く首を横に振って答える。

 しかし、そこで終わりでは答えになっていないため、カルメラは黙って俊輔の続きを待つ。


「…………逃げたいなら逃げてもいいぞ?」


「っ!? 何故だ?」


 その言葉に、カルメラは目を見開いて驚く。

 言っておいてなんだが、俊輔自身も意外に感じた。

 何でそんなことを言ったのか自分でも整理ができていないからかもしれない。


「ん~……」


 カルメラに聞かれて、俊輔は自分でも理由を考える。


「どうでも良いって言うのが本音かな?」


「………………」


 素直に出た答えがこれだった。

 何とも身もふたもない答えだ。

 言われたカルメラも、固まって何も言えなくなった。


「これだけのベンガンサの者たちの死体だ。公爵家の者たちも生き残りがいるとは思わない。京子と俺の証言で、リベラシオンに操られたイバンの反乱ということになるんじゃないか? フリオが信じるかどうかは微妙だが……」


 王都のはずれの公爵家の別邸でこれだけドンパチやったのだから、公爵家とは限らずともそろそろ警備兵が集まってきそうだ。

 しかし、公爵家の領域に許可なく入るのには躊躇われる。

 そんなことをしているうちに、イバンの護衛であるフリオを中心とした公爵家の者たちが来るはずだ。

 バジャルドはイバンの口ぶりから死んでいるだろうし、イバンも俊輔がシモンと戦っている最中に息を引き取っていた。

 イバンの側近のフリオがそれを信じるかは微妙だが、確認する意味でも向かってくるはずだ。


「ベンガンサの者たちもリベラシオンに操られたイバンに従っただけだ。……が、魔人の子孫を許すかは保証できない。今逃げても追う者はいないぞ」


 この国がどういう風にこの事件の落としどころを作るのかは分からないが、公爵家はこれで潰れるのは分かりきっている。

 逃げた所で、潰れた家のために追いかけようとする者は出てこないだろう。

 しかし、ここでつかまった場合、魔人の血を引く者を国がちゃんと裁くとは思えない。


「シモンに言われただろ? 自由に生きろって……。ベンガンサなんて組織なんかでなく、他に何か探せって事なんじゃねえのか?」


「………………」


 ずっと俊輔が話す形になってしまったが、カルメラは黙って聞いていた。

 最後まで聞いて、俊輔の言葉をどう受け取ったのかは分からないが、何か思う所があったのかもしれない。

 先ほどよりかは表情に力のようなものを感じる。

 すると、カルメラはシモンの遺体を魔法の袋へ入れ、その場からいなくなった。


 カルメラがいなくなったすぐ後、京子が公爵家の兵を連れて戻って来た。

 俊輔は、シモンとカルメラのこと以外一部始終説明し、あとは国と公爵家に任せることにした。

 こうして、俊輔たちはようやく事件解決に安堵したのだった。



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