第188話
「ハァー!!」
「くっ!?」
シモンの肉体を乗っ取ったリベラシオンは、鎧とランスに変化し、俊輔への攻撃を始めた。
その攻撃は、まさにシモンそのものといったような軌道を描く。
しかし、その速度と威力は俊輔が城で戦った時とは段違いだ。
その攻撃を、俊輔は懸命に攻撃を躱す。
「どうした? 逃げてばかりでは勝てんぞ!!」
左右へ、後方へと、俊輔は触れたら綺麗に体に穴が開いてしまいそうな、リベラシオンの突き攻撃を躱し続ける。
完全に防戦一方の俊輔の様子に、リベラシオンは調子に乗ったように言って来る。
ようやく俊輔のことを追い込んで行っているからだ。
「ぬんっ!!」
「ぐうっ!!」
ランスの攻撃は突きだけではない。
リベラシオンは、横へ避けた俊輔へ、殴打するように横に振ってきた。
それを、俊輔は2刀の木刀を交差して防御するが、受け止めた時の衝撃に声が漏れる。
リベラシオンは、防がれたといってもお構いなしに、俊輔をそのまま無理矢理吹き飛ばした。
「……チッ!」
攻撃によって吹き飛ばしたリベラシオンの方が舌打ちをする、
防がれた時に、俊輔の木刀にランスが触れたことで、リベラシオンの黒いオーラが剥げてしまったからだ。
俊輔の武器には、リベラシオンの苦手な聖属性の魔力が覆われている。
そのため、防がれた上に無駄にダメージを受けたリベラシオンだった。
「回復させるか!」
「おっと!」
剥げた部分を回復しようと、リベラシオンはまたも黒いオーラを発動する。
そうはさせまいと、俊輔は攻撃をしかけるが、やはりシモンのように反応速く、俊輔の攻撃は躱されたしまった。
ただ、リベラシオンも木刀が危険だと理解しているのか、避け方が少し大きくなっている。
「……当たらなければいいって言いたいのか?」
「その通りだ。この体はいい反応をするから、貴様の攻撃も当たるまい?」
たしかに反応の良さの上に、リベラシオンのオーラによるドーピングで体の動きも俊敏になっている。
元々のシモンなんか、目じゃないほどの実力と言ってもいいだろう。
「兄者! 目を覚ましてくれ!」
「……無駄だ。いい加減諦めろ! やかましい小虫が!」
俊輔と向き合うリベラシオンに対し、シモンの妹のカルメラは、まだ兄の意識が乗っ取られたことが信じられないでいるようだ。
懸命にシモンのことを呼んでいるが、やはり何の反応も帰って来ない。
逆に、リベラシオンが空気を読めよというように、不機嫌そうにカルメラのことを睨みつけた。
「…………兄者……」
リベラシオンが言っているとは言っても、シモンの体だ。
あれだけ優しかった兄が、自分をまるで相手にしていない態度をしてきたことに、カルメラは打ちひしがれたようにうつむいた。
「邪魔が入ったが、続きを始めるか?」
「………………」
カルメラとのやり取りの間に、リベラシオンは回復していた。
その間に、俊輔は考え事をしていたのか、リベラシオンの言葉に反応しない。
「……仕方ない」
「何をブツブツ言っている!?」
まるで、自分を無視しているようなように感じたのか、リベラリオンは怒りと共に俊輔へと攻撃を再開した。
先ほど変わらず、その攻撃を俊輔は動き回りながら避けていく。
その間もブツブツ言っていることに、リベラシオンの怒りはさらに高まる。
「神に救いを求めているのか? そんなことは意味がないぞ!」
特殊なオーラを使っているリベラシオンとは違い、俊輔は魔闘術を使っているだけで少しずつ魔力が削られていく。
このままの状況が続けば、俊輔がどんどん不利になっていくのは目に見えたことだ。
勝ち目がないと判断した俊輔が、念仏でも唱えているのかと思ったのか、リベラシオンの声には嘲りも混じっているようにも聞こえる。
「何故なら神はここにいるからだ!!」
「ゴハッ!!」
これまでから考えると、珍しく俊輔は体勢を崩す。
それを見落とさず、リベラシオンはこれまでで最速の攻撃を俊輔へと突き出す。
俊輔の心臓を貫いたと思ったリベラシオンだったが、攻撃は躱され、俊輔の木刀が右の脇腹に深々とめり込んでいた。
「なっ、何故……?」
「神は自分を神とは言わない。そう言っただろ?」
シモンの超反応を超越する、俊輔の高速移動。
それによって、リベラシオンは大ダメージを負ったのだ。
「き、貴様……」
何があったらこうなるのか。
リベラシオンは全く理解ができない。
理解できないまま、たたらを踏んで後退し、攻撃を受けた腹を抑える。
「答えは簡単。俺が全力じゃなかったからさ」
「バ……カ……な……」
俊輔の言った通り、これまではリベラシオンに対して全力で相手をして来なかった。
シモンを操り、強大な力を手に入れたリベラシオンを相手に、これまで通りの戦いでは俊輔としても勝つのが難しい。
なので、俊輔は仕方なく全力で戦うことにしたのだった。
「くそがっ!?」
俊輔の言葉を聞いて、信じられないと言ったように、リベラシオンは襲い掛かった。
よっぽど我を忘れているのか、腹部の回復を終了しないままだ。
「糞はてめえだ!」
「うごっ!?」
そんな雑な攻撃が、俊輔に通用する訳がない。
ただ振っただけのランスを躱し、俊輔はさっきとは反対側の腹へ攻撃を加える。
「ぐうっ!?」
「お前のようなのは封じるなんて生ぬるいことでは駄目だ。」
左右の腹にダメージを受け、リベラシオンはまたもたたらを踏んで後退する。
そして、両脇腹を抑えながら、俊輔を上目遣いで睨みつける。
そんなリベラシオンに対し、俊輔はずっとムカついていた。
人の心を操り利用する。
そんなことでこの国に混乱を持ち込んできたことと、俊輔たちを巻き込んだことだ。
俊輔たちは、ただの旅行者だ。
面倒事に関わるのは本当に面倒だ。
「俺が叩き折ってやるよ」
二度とこのようなことがないように、この場でリベラシオンを葬り去ろうと、俊輔はリベラシオンに木刀を向けたのだった。




