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第181話

「ハッ!!」


「ヌッ!?」


 初撃を防いだ俊輔は、そのまま圧し潰そうとしてくるリベラシオンの力を流し、そのまま勢い余って床へ突き刺さるように仕向ける。

 そして、体勢を崩しで隙だらけの背中側に回り込み、木刀で袈裟斬りに斬りつけようとした。


「チィッ!」


 しかし、リベラシオンが剣を床に刺し、それを起点に体を捻ると、俊輔の木刀は空を斬った。

 そして、躱したリベラシオンはそのままステップして俊輔から距離を取った。

 完全に躱したと思ったリベラシオンだが、背中には一筋の赤い線が生じていた。

 俊輔の攻撃が、皮一枚だけ斬っていたらしい。


「おのれ……!! 貴様!!」


 この程度の傷なら、たいして痛みなど感じない。

 それでもイバンの体を完全に乗っ取った自分が、一度ならず二度も傷を負わされたことで完全に頭に血が上っているようだ。

 リベラシオンは顔を赤くし、俊輔を睨みつけた。


「この神に歯向かうのか!? 愚か者め!!」


「……だから、自分を神だという奴は信じないって言っただろうが」


 怒りの表情のまま、真っすぐ斬りかかって来たリベラシオンに対し、俊輔はあっさりと横へ移動する。

 頭に血が上って視野が狭くなっているのか、リベラシオンはその動きにワンテンポずれて付いて行く。


「神のくせに耳がついていないのか?」


「貴様ぁー!!」


 自分の動きに付いてこられないことに、俊輔は更に煽るようなことを呟く。

 すると、案の定腹を立てたリベラシオンは、額に無数の血管を浮かびあげた。

 そんな状態では俊輔へ攻撃を与えることなどできず、振り回す剣は空振りをするばかりだった。


「ガァッ!!」


「っ!?」


“ボンッ!!”


 俊輔を追い回すリベラシオンだったが、そこに合わせるように魔力弾が飛来し着弾した。

 着弾したことで煙が巻き起こり、それがすぐに落ち着くと、そこには剣を持っていない左手をかざして受け止めたリベラシオンが立っていた。

 そして、リベラシオンは感覚を確認するかのように、受け止めた手を握って、開いてを繰り返した。


「何だ? まだいたか?」


 リベラシオンに魔力弾を放ったのは、ベンガンサという組織ののリーダーであるシモンだった。

 俊輔が来た時には倒れていたシモンだったが、時間経過と共に少しは回復したのだろう。

 疲労の色は拭えないが、足元はしっかりしている。

 血が上りすぎて、俊輔しか見えていなかったため、始末するのを忘れていた。


「止めとけ! シモン」


 本人は認めないだろうが、恐らくは俊輔の援護射撃だったのだろう。

 しかし、はっきり言って無駄な攻撃だった。

 むしろ、リベラシオンの頭を冷やすことになってしまい、迷惑なことだった。

 それに、シモンは俊輔によって武器と防具は破壊されていて得物がない。

 素手で挑むのは狂っているとしか言いようがない。


「兄者!!」


「カルメラ!?」


 武器無しのシモンには、離れた所でおとなしくしていてもらいたい。

 そう言おうとしたその時、一人の女性が地下から現れ、シモンへ武器を放り投げた。

 カルメラが愛用しているバスタードソードだ。


「やめろ! 今のお前じゃ殺られるぞ!」


「黙れ! 仲間の仇を討つのは組織の頭の役目だ!」


 裏切られただけでなく、仲間はほぼ殺された。

 任務失敗の際には、情報漏洩を防ぐために自害することは多々あるが、それは全員が覚悟の上だ。

 決して仲間の命を軽く扱うつもりはない。

 その覚悟を無駄にしないためにも、裏切りには死を与えなければならない。

 その思いから、シモンは俊輔の制止を聞かずイバン(リベラシオン)を殺しにかかった。


「ダリャー!!」


「……………………」


 カルメラから受け取ったバスタードソードを振り回し、シモンは首へ腹へと斬りかかる。

 それをリベラシオンは、受けるでもなく無言で避け続ける。

 ランス使いのシモンが剣で戦うのはどうかと思ったのだが、剣も使いこなせるようで、鋭い振りをしている。


「神だか魔剣だか分らんが、貴様なんかのために仲間をやりやがって!!」


 中々鋭い剣の扱いだが、やはり慣れていなかったのか、シモンの攻撃は少しずつ回転速度が上がっていった。

 怒りに我を忘れることなく、むしろそれを乗せるがごとき攻撃は、リベラシオンが防がなければならなくなるほど激しくなった。


「クソッ!! 無駄に防御は高いらしな? だが、こいつで…………どうだ!!」


 小技を防ぐリベラシオンを、言葉を発せられないほど追い込んでいると思ったシモンは、僅かにリベラシオンの態勢を崩すと、思いっきり上段から振り下ろした。


“スパンッ!!”


「……なっ!?」


 剣での防御ができないと思い大振りしたシモンの剣を、リベラシオンは剣を持たない左手で、振り下りる剣の横っ面に手刀をした。

 それによって軌道がズレ、シモンの攻撃は空振りに終わる。


「羽虫が邪魔をするな……」


「ふぐっ!?」


 無言だったのは、ただシモンが眼中になかったからだ。

 渾身の攻撃が通用せず、目を見開くシモンのがら空きの腹に、リベラシオンは蹴りを放った。

 直撃を受けたシモンは、吹き飛んで地面へと落下した。


「ガハッ!?」


「兄者!?」


「……だから言ったろ?」


 一度弾んでうつ伏せに倒れたシモンは、内臓を痛めたのか血を吐き出す。

 それを見ていた妹のカルメラは、心配の声をあげ、黙ってやらせた俊輔は、予想通りの結果に嘆息する。


『……なんだ? ただのガキが剣を持っただけだというのに強すぎる』


「分かったろ? 死にたくなかったら引っ込んでろ」


 なんとか手をついて体を起こすが、シモンは痛みで立ち上がることができない。

 今の一撃だけで、リベラシオンとの格の違いを思い知った。

 表情でそれに気付いた俊輔は、今度こそシモンに下がっているように忠告した。


『ハハ……、常に天才と言われた俺が、邪魔扱いだ……』


「化け物め……」


 シモンは、これまでの自信が全て崩れ落ちるような音を聞いたような思いがした。

 剣の癖に強いリベラシオンと、それに対して笑みを浮かべながら近寄っていく俊輔。

 とても人間が入る余地がない。

 シモンは小さく悪態をつくことしかできずに、声なく笑うしかなかった。



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