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第173話

 成人して後、初めての全力攻撃。

 久々に気に入った日向の少年。

 せめて苦しまないように一撃で仕留めようと、愛槍を突き出した。


「っ!?」


 しかし、全く手に感触が訪れない。

 俊輔が抵抗することなく自分の攻撃を受けたのかと思うが、そうではない。


「消えたっ!?」


 つい先ほどまで目の前にいたはずの俊輔の姿が、いつの間にかいなくなっていた。

 目を離したわけでもないのに姿がなくなったことに、シモンは慌てた。

 シモンも当然ながら探知はできる。

 その範囲から一瞬にして消え去ったのだ。


「っ!?」


「…………………」


 シモンは探知ではなく直感で反応した。

 僅かに感じた背後の気配へ目を向けると、俊輔がゆらりと立っていた。

 うつむいて表情が見えない俊輔は、無言で小太刀の木刀を腰に戻した。


「いつの間に……」


「はぁ、人間相手の手加減は神経使うわ……」


 全く目では反応できなかった。

 見失った時間はほんの一瞬だが、俊輔と自分の戦いからすると致命的な時間だった。

 それよりも、急に俊輔の反応速度が上がったことがシモンには不可解だった。

 しかも、俊輔の呟きを聞く限り、自分がずっと手加減されていたように聞こえる。


「シモン……」


「……何だ?」


 右手の木刀だけをシモンへ向け、俊輔は前傾姿勢に構える。

 纏っている魔力の量も、シモンに与えられた怪我も何も変わっていないようにも見える。

 しかしながら、言い知れない感覚がシモンの警戒心を最高潮にさせる。

 発せられた言葉も、どことなく不気味に思いながらもシモンは返事をする。


「俺も少し手加減は止める……」


「…………何を……?」


 俊輔の言葉にはどことなく愁いが含まれている。

 シモンが思ったことと同じだ。

 俊輔も、久々に気が合う相手を倒さなければならないことにためらいがあった。

 そのせいか思っていた以上に手加減していた。


“ボッ!!”


「っ!?」


 その手加減は止めた方が良いようだ。

 シモンが俊輔の言葉に疑問を持ち、それを問いかけようとするのを遮るように俊輔の纏う魔力が上がった。

 その方が……


「死んでも恨むなよ!」


 シモンを苦しませることがないはずだから……


“フッ!!”


「なっ!?」


 ワザとなのだろうか、先程自分が言ったことと同じ言葉を俊輔が呟いた。

 その次の瞬間、俊輔はもうシモンの目の前に迫っていた。

 まさに目にもとまらぬ動き。

 常に天才と言われてきた自分が、相手を見失うなんて考えたこともなかった。

 人間のみならず、魔物であろうともそんなことは起きるはずがない。

 もしかしたら、いつの間にかそう思っていたのかもしれない。

 ただ、シモンは確かに天才だった。


“パキッ!”


「すごいな……。反応するとは思わなかったよ」


「馬鹿な……」


 目ではない。

 ただ体が反応した。

 シモン自身も驚いたが、それ以上の驚きが起きた。

 俊輔の攻撃を防いだ槍にヒビが入った。

 その事が信じられない。

 魔力を纏うことで大体の武器・防具は強化され強固になる。

 だが、触れた魔力を霧散させる物質であるミスリル。

 メッキなどではなく、100%で作られたランス。

 一瞬で全てを霧散させるとは言わないが、魔闘術による攻撃は、接触すれば必ず魔力が減少する。

 どんな人間・魔物が全力で魔力を纏った攻撃をしようとも、破壊されるわけがない。

 それにヒビをいれる俊輔に、シモンは今更ながら背筋が凍った。


「なっ!? こっ!? こんなことが……」


 攻撃を止められても俊輔はそれほど驚かない。

 どんな相手でも、防がれる可能性をいつも想定しているからだ。

 見た目で判断したら痛い目に遭う。

 魔の領域ではよくあったことだ。

 そもそも、自分の従魔がいい例だ。

 丸烏と言われる弱小魔物が、天変地異と言わんばかりの極大魔法を平気でぶっ放つ。

 自分で教えておいてなんだが、可愛い容姿ながら完全な化け物だ。

 止められることを想定しているのだからそこで終わりではない。

 2撃、3撃と、俊輔はシモンへ攻撃を続ける。

 ギリギリのところでシモンは防ぐが、そのたびにランスにはヒビが入って行く。

 

「生憎まともな人生は歩んでいないんで……なっ!」


“パキンッ!!”


 最後の言葉と共に振られた俊輔の攻撃で、シモンのランスは柄を残して砕け散った。


「……降参して大人しく捕まれ」


 魔闘術の防御を突き破って来る武器は壊れた。

 もうシモンが俊輔に攻撃を加えることはできないだろう。

 以前魔の領域で苦しめられたことへの腹いせができた気がし、俊輔はちょっとすっきりした。

 予想よりもシモンの反応が鋭くて良かった。

 自分の手で殺すことにならなかった。


「ラ、ランスがなくても戦える!」


 勝ち目がなくてもシモンは諦めなかった。

 俊輔に迫り、徒手空拳での近接戦闘へと誘い込んだ。

 確かに、左右から繰り出される拳は鍛練を重ねているのがよく分かる程無駄がない。

 だが、俊輔には通用しない。

 無数に繰り出される攻撃を、流れるように躱していく。


「……終わりだ!!」


“バキンッ!!”


「グハッ!?」


 拳だけでなく蹴りも加え、シモンは攻撃の手数を増やす。

 それでも全く苦とせず躱す俊輔。

 攻撃が当たらず焦りが生まれた。

 振り下ろすような攻撃が僅かに大振りになった。

 その瞬間にできた隙を、俊輔は逃さない。

 人間を(・・・)相手にする(・・・・・)時の(・・)本気(・・)でシモンの胴に向かって木刀を振るう。

 当たった瞬間崩れるように鎧は砕け、食らった衝撃で飛ばされたシモンは、そのまま壁に背中を強打し肺の中の空気を吐き出し膝をついた。


「……………………」


 さすがに手足を纏うだけ残ったミスリルの鎧で、歯がたたない俊輔と戦おうとは思わないだろう。

 そう思い、シモンを捕まえようと俊輔はゆっくりと近付いていった。


“ドタドタッ!!”


「っ!?」


 多くの足音が廊下から聞こえて来た。

 今更ながらに王国の兵が近付いてきたようだ。

 どれだけ人数を集めていたのか分からないが、のんびりとしたものだ。


「俊輔殿! 敵の鎮圧ご苦労様でした」


 俊輔からしたらあまりにも間が悪かった。

 戦闘が終わったとでも思ったのだろうか。

 しかも、兵を率いてきたのはイバンだった。

 自分たちが来た廊下に近い場所に膝をつくシモンに、イバンは無警戒と言ってもいいように近付いていった。


“ニッ!”


「おいっ!!」


 何を考えているのか分からないが、イバンが馬鹿みたいに近付いたことにシモンは笑みを浮かべた。

 俊輔がイバンたちに制止の言葉を告げるより早く、シモンが動いた。


「動くな! 俊輔!」


 吹き飛ばされ、しこたま背中を打ち付けたシモンだが、それほどのダメージを受けていなかった。

 俊輔のふざけた強打のダメージを、鎧が最後に受け止めてくれたのかもしれない。

 たしかに自分は俊輔には勝てそうにない。

 だが、このまま捕まる訳にはいかない。

 未遂とは言え国王暗殺を謀ったのだ。

 当然死罪だろう。

 しかも、魔人の血を引くことが分かれば裁判する時間すら与えられない。

 自分だけならまだしも、組織の者たちも危険だ。

 ただですら幼少期から魔人の血で差別を受けてきた者たち。

 人族に地獄を見せるにはまだこれからだ。

 自分に近付くイバンの、腰に差している剣を奪い、そのまま背後に回って首に剣をあてがう。

 あっという間に人質を奪い、俊輔が近付くことをさせない。


「俺も仲間も捕まる訳にはいかない。ここは引かせてもらう」


「くっ!?」


 人質のイバンを引きずるように引っ張りながら、少しずつ外へと通じる扉へ向かうシモン。

 公爵が人質なので、俊輔だけでなく他の騎士たちも動くことができない。

 

「そこから動くな! 追いかけてきたらこいつを殺すぞ?」


 人質を取りながら、シモンはとうとう扉から外へと飛び出して行った。

 俊輔に追走をさせないように釘をさし、あっという間に姿が見えなくなっていった。


「くそっ!」


 まさかこんな邪魔が入るとまでは思ってもいなかった。

 むざむざと逃げられたことに、俊輔は思わず腹が立った。



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