第165話
「おい、おい……」
ハンマーを取り出し、またパーティー会場から出て行くと思ったのだが、ガタイのいい女がそのまま壁をこわしたのを見て、俊輔は思わず声を漏らした。
「面白い攻撃だな……」
廊下にいる京子の位置から計算し、壁を壊した瓦礫で生き埋めにするなんて荒々しい発想と女の行動力に、俊輔は敵ながら見事と感心した。
やられた方からしたら、予想外の攻撃は対応が難しい。
京子も焦っていることだろう。
『まぁ、それで京子がやられるとは思わないけど……』
それでも俊輔が京子の援護に向かう気がないのは、単純に京子の実力を信頼しているからだ。
「……それよりも、こっちはこっちで闘りますか……」
察知する限り、京子の方はもう数人の魔力が消えた。
それに引きかえ、俊輔は敵の誰にも深手を与えられていない。
囲みからも脱出したので、そろそろ仕留めないといけないだろう。
「……殺れ!」
少しやる気を出した俊輔に対し、長と呼ばれた男が小声で指示を出し、その合図と共に敵たちは俊輔へと襲いかかった。
一番近くにいた男は、クレイモアのような剣で俊輔へ振り下ろしてきた。
相当な鍛練を重ねたのだろう。
一連の攻撃には無駄がないようにうかがえる。
しかし、
「ムンッ!!」
「ゴアッ!?」
髪の毛を掠るくらいギリギリで躱した俊輔は、カウンターで男の鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。
敵の男からしたら完全に攻撃が当たったと思っていただろう。
日頃研鑽を積んでいようとも、そう思って気が緩んでしまったのは仕方がない。
男は無防備になった所に膝蹴りをくらい、その一撃で昏倒した。
「っ!?」
仲間の男が膝蹴り一発でやられたことで、他の敵たちは僅かに動揺したように見えた。
それもそのはず、自分たちは一撃でやられるような鍛練を積んでいない。
やられた男は体格も良い方で、その分ここにいる者たちの中ではタフな方に入る。
それを一撃で仕留めたという結果に、目の前の少年の実力は想像以上だと警戒心が更に上昇した。
『……そうだ!!』
さっきガタイの良い女がやったことが面白いと感じたからか、戦闘中でありながら俊輔はあることを思いつき、行動に移すことにした。
「よっと……」
「……?」
木刀の先に近くのテーブルの上に置いて行かれたコップを引っ掛け、一番近い場所にいるエストックを持った敵に向けてそのコップを投げた。
何のために俊輔がコップを投げたのか意図が分からなかったが、男は顔を傾けるだけで回避した。
「うごっ!?」
男が傾けた顔に高速で飛来した魔力の玉が激突した。
緩い速度で飛んできたコップに注意を向けさせ、木刀の先からサッカーボール大の魔力の玉を高速で発射したのだ。
野球でも緩いボールの後の速球は反応が鈍る。
その感覚を利用した攻撃だ。
「……ぐっ……ぐうっ!」
攻撃を受けた男は、先程の男のように一撃では気を失っていないようで、顔を抑えながら蹲った。
「チッ! ……複数で掛かれ!」
長と呼ばれた男は、舌打をした後的確な指示を出す。
その指示通り、2人の男が俊輔に迫る。
「ハッ!!」「シッ!!」
「よっ! たあっ!」
レイピアで高速の突きを放つ男と、ロングソードで斬りかかって来る男の攻撃を躱しながら、先程同様にテーブルの上のコップを木刀に引っ掛けたまま少し距離をとると、俊輔は迫りくる2人に向かって投げつける。
「同じ……ぐあっ!?」「……くっ!?」
同じ攻撃を受ける訳がないと2人は思っていただろうだろう。
2人はコップを気にせず突っ込んで来た。
たしかにただ投げられたコップならば、魔闘術を纏っている者が当たった所で痛みなど感じない。
だから2人は、コップを食らいつつも突き進んだ方が距離を詰めることができると判断し、行動したのかもしれない。
だが、同じ攻撃が通用しないのは俊輔も分かっていた事。
今回投げたコップには魔力を纏わせ、威力と速度を高めたちゃんとした攻撃だ。
それをレイピア持ちの方はまともに鼻に受け、もう一人は咄嗟に反応してロングソードで防御した。
“スッ!!”
「っ!?」
鼻を抑えて俯いた男の横をすり抜け、俊輔は防いだ男の方に接近する。
顔に飛んできたコップの防御に武器を上げているので、胴の方はがら空きの状態だ。
「ハッ!!」
「っ!?」
そこに木刀を叩きこもうとした俊輔だったが、ショートソードを持った男がそうはさせまいとナイフを投げてそれを阻んだ。
続いて飛んで来るナイフを、俊輔は攻撃を急遽中断して右にサイドステップして躱した。
『……読んでたか!?』
飛んだ方向には待ってましたと言わんばかりに、敵の中で一番身長の高い筋肉ムキムキの男がアックスを振り上げていた。
「ハァッ!!」
「危なっ!?」
“ズガンッ!!”
振り下ろされたアックスを小太刀で弾いて軌道をずらすことで俊輔は攻撃を躱した。
「ていっ!!」
躱した俊輔は、近くのテーブルをアックスの男へ向けて蹴り飛ばした。
“ガシャン!!”
「チィッ!!」
アックスを横に一閃することで、男はテーブルを弾き飛ばす。
そしてすぐに俊輔へ追撃しようと左右を見回すが、俊輔の姿は見えない。
「後ろだ!!」
「っ!?」
長と呼ばれた男の言葉に、アックス持ちの男は慌てて振り返る。
「その通り!!」
“ドカカッ!!”
振り返り視線が合った時にはすでに遅く、俊輔の連撃が男に直撃した。
胴・脳天へ受けた男は白目をむいて叩き伏せられた。
「ダッ!!」「ガッ!!」
手負いのレイピア持ちの男と、エストック持ちの男が左右から挟撃してきた。
その挟撃を避けようにも、目の前には今さっき倒した巨体の男が転がっていて、背後にはスペースがあるがテーブルなどの位置を考えると逃げ道がなくなる可能性がある。
「だったら……」
ならば、迎え撃つのみ。
そう判断した俊輔は、まず左から迫るエストック男の攻撃を半歩近付き小太刀の木刀で受け止める。
半歩動いた分だけ僅かに遅れて右からのレイピアの刺突が迫るが、木刀を使ってするりと受け流す。
「うごっ!?」
俊輔に受け流されたことで、男は少し前に体が泳いだ。
その隙を見逃す程暇ではないので、俊輔は男の腹へ蹴りを突き刺し仕留める。
「このっ!!」
左のエストック男は、空いている左手で俊輔の手首を掴んで来た。
そして、掴んだ手首を引き寄せつつ、俊輔の喉に向けて突きを放つ。
“ボカッ!!”
「ごっ!?」
その突き体制を低くして躱しながら引っ張られる勢いを利用して近付き、ジャンプと同時に足を振り上げ顎を蹴り上げる。
蹴りが入って掴まれていた手がほどかれると、俊輔はテーブルと倒れている敵で行動範囲が狭くなった場所から離れ、周囲に何もないダンスホールの中央へと移った。
「残り半分……」
無傷だが、実は結構紙一重。
背中に軽く汗が流れるのを分からせないように、俊輔は余裕そうな表情で残りの4人を見据えた。




