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第161話

「ネグちゃんだけで大丈夫かな?」


 イバンに任せたネグロのことを、京子は色々な意味で心配そうに呟いた。

 

「大丈夫だろ?」


 京子の呟く気持ちも分からなくもない。

 俊輔は今まで貴族とは無縁の世界を生きてきた。

 その俊輔と離れることなくほぼ毎日一緒に過ごしてきたネグロが、貴族が沢山いる所で粗相をしてしまわないか不安になる。

 しかし、烏なだけにネグロは結構頭が良い。

 俊輔が言っておいたことはちゃんと理解しているだろう。

 それにしても、貴族専用の観戦室がペット可で運が良かった。

 フリオと大会開催中の警備の件で話をしていた時、その情報が出てきた。

 だったら、「ネグロを連れていったらどうですか?」と俊輔が提案したら、まるでこちらが言うのを待っていたかのように乗っかって来た。

 あまりにアッサリだったので、「イバン様に(うかが)わずにいいんですか?」と俊輔は聞かずにはいられなかった。

 だが、フリオが言うにはイバン本人がネグロのことを気に入ったのと、魔物を飼うことに偏見がないタイプらしく、許可はいらないそうだ。


「それに、結界張れっていっておいたから……」


 これまで魔法特化で火力重視に育ってしまった弊害からか、ネグロは対人戦が苦手な傾向にある。

 対人戦では殺してはならない場合が多いので、魔法をぶっ放っておしまいというわけにいかない。

 俊輔も以前からその事が気になっていたので、とりあえず1つの防御方法を教えていた。

 結界を張って味方だけでも守り切る方法だ。

 魔力の壁を作るというそれほど難しい事ではないので、ネグロは少しの間練習しただけでできるようになった。

 味方だけ最小限に、個別に、とはいかないが、指定範囲の発動なら上手くなった。

 あれならフリオとイバンを敵の攻撃から守るのには十分だろう。


「防御はネグに任せて、俺たちは別々で怪しい人間を探そう」


「うん!」


 元々丸烏にしては規格外のネグロは、今はしばらく防御壁を張っていられるほどの魔力を保有している。

 もしものことが起きても、俊輔が助けに入るまでの時間を稼ぐくらいはできるだろう。

 それよりも、怪しい人間に目星をつけてイバンたちへの接近を阻止する方が得策だ。


「京子とアスルは客席担当を頼む!」


「分かった!」「…………(了解っす)!」


 俊輔の指示に、京子とアスルは頷きで返す。


「参加冒険者、会場周辺の屋台とその客は俺がやる!」


 普通の人間なら広範囲の索敵なのだが、なんなら王都ほぼ全域も俊輔なら朝飯前だ。

 だが、範囲が広いと探知してからの伝わるのに誤差が生じ反応が鈍る。

 そういった理由から会場周辺までにしておいた。

 それぞれの範囲の確認をして、俊輔たちは行動に移った。






◆◆◆◆◆


 武闘大会は女性の部、男性の部に分かれている。

 女性の部は、この国にも女性だけの部隊が存在していて、そこへの入隊を希望する冒険者が多かったからできたらしい。

 午前は女性の部、午後が男性の部となっていて、2日かけて予選を、その翌日決勝トーナメントを1日

おこなう予定になっている。


「……もしかして参加したかったか?」


「…………少しね」


 予選の2日は何もなく終わった。

 現在イバンたち貴族は、城内で開かれている立食パーティーに参加している。

 残念だが従魔の参加は認められていないので、ネグロとアスルは厩舎で待機だ。

 護衛の俊輔たちはそれについてきていて、夕食に出されていた料理を少しいただいた。

 大会中は毎日開かれるらしい。

 バジャルドも参加している。

 この国の貴族がこれほど集まるなんて年に一回、この時期だけらしい。

 貴族たちが腹の探り合いをそこかしこでしている中、京子の様子から察した俊輔が問いかけると、思った通りの返事がきた。

 女性・男性の部に関わらずかなりの実力者が揃っていて、京子としても戦ってみたい表情が隠せていなかった。

 うちのカミさんはいつの間に戦闘狂になったんだと、俊輔は軽く引いた。


「あの鎧の人が出場しているとは思わなかったね?」


「あぁ……」


 京子がいうように、グレミオで仲良くなった鎧の男も大会に参加していた。

 大会の受付がグレミオなので、そこにいた彼が参加していたのも別に不思議ではなかった。

 しかし、探知をしながら観戦していた俊輔は密かに応援していたのだが、彼は今日の最終予選で負けてしまった。


「負けてしまったのは仕方ないさ……」


「……そうだね」


 その負けた戦いも、相手との実力は大差がなかったが、勝負は勝負。

 負けてしまったのは残念としか言いようがない。


「それよりも……」


「うん!」


 彼のことは残念だったが、今はそれどころではない。

 俊輔たちにはこれからが仕事本番と言ってもいい。

 何故なら……


「それでは、大会を勝ち進んだ男女16人をお招きしましょう!」


 パーティーの司会を任された男性が会場内に聞かせるように言うと、扉が開き、女性・男性の部を勝ち抜いたそれぞれ8名が入場してきた。

 合計16人は入場すると膝をついて頭を垂れた。

 これも毎年のことらしいが、決勝トーナメント進出者を労うために王がパーティーの参加を許可するそうだ。

 翌日のトーナメントで負けたとしても、どこかの貴族に拾ってもらえるように交渉する機会を与えるのが目的らしい。

 とは言っても、トーナメントに一回勝てばほぼ内定の状況なので、自信がある者はそれほど熱心に売り込んだりはしないとのことだ。

 暗殺者にとってはこれが絶好の機会だ。

 恐らく、この16人の中に暗殺者が紛れ込んでいるはずだ。

 何度も失敗したことで相手も本気を出してきたらしく、偽装技術が相当高い人物を送り込んで来たようだ。

 結局、俊輔たちは予選の戦いを見た中から、確実といえるような人物にあたりを付けることができなかった。

 イバンの近くに陣取り、俊輔と京子は彼らの行動に警戒心を高めたのだった。

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