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第158話

 イバンの護衛としてエルスール王国の王都のであるクルポンに着いて3日経つ。

 家督争いから、バジャルドがイバンに何か仕掛けてくるか分からない中、俊輔たちはというと……


「屋台だ!」「ピー!」「…………!」


 呑気に王都観光を楽しんでいた。


 区画によってきちんと整備されているのか、きれいな街並みをしていて、ただ散歩をしているだけでも楽しい気分になる。 

 俊輔の従魔であるネグロとアスルを、いつまでも室内で大人しくさせているのも可哀想なので、散歩ついでに観光をすることにした。

 イバンの護衛隊長のフリオにはちゃんと許可を取っているので大丈夫だろう。

 それよりも、歩いている先に屋台を見つけた京子は、軽い足取りで近付いて行った。

 ネグロとアスルもそれに釣られ、楽しそうな表情と共に京子を追いかけた。


「っ!?」


 皆の後を俊輔も少し遅れて付いて行くと、屋台が販売している物を見て驚いた。


『……トルティーヤ?』


 販売している物だけならまだ勘違いかもしかもれなかったが、張り出されたメニューを見て確信した。

 そこにあったのは、とうもろこし粉と小麦粉を混ぜたものを水でこね、それを薄く伸ばして焼いてできた薄焼きパン。

 前世の日本で食べたことがある品物、トルティーヤだ。


『トルティーヤってメキシコだよな……?』


 俊輔が心の中で思った通り、トルティーヤはメキシコ料理として有名だ。

 この大陸はスペイン文化が主流なように思っていたし、ここまでの旅でも他の国の文化を感じることはなかったように思える。

 そこへ来て、急に違う国の文化が入って来たのだから驚きもするだろう。


『……スペイン語圏だからか?』


 少し考えてみると、メキシコも確かスペイン語圏だ。

 もしかしてそれが関係しているのかと、俊輔は考えていた。

 

『……別に特別なわけではないのか?』


 周囲を見渡すが、道を通り過ぎる人々は特に珍しそうにしていない。

 むしろ、この屋台に疑問を持っているのは俊輔だけのようだ。


「タコスっておいしいね?」「ピ~♪」「…………♪」


 少し神妙に考えている俊輔とは対照的に、早々と注文をして購入したタコスを食べ、京子は満面の笑みでネグロたちに話しかけた。


『……まぁ、いいか……』


 もしかしたら、前世の記憶があるから不思議に思うだけなのかもしれない。

 色々と考える俊輔だったが、京子の笑顔を見るとそんなことどうでも良くなった。

 そこで、深く考えるのは止め、俊輔も京子たちと共にタコスを味わうことにした。






「結構冒険者がいるんだな……」


 他にも屋台が幾つも出ていて、それを楽しんでいる京子たちをそのままにして、グレミオ(ギルド)の建物が近くに目に入った俊輔は、一人で依頼書を覗きに向かった。

 だからと言って依頼を受ける為ではない。

 イバンの護衛を受けているので、町から離れる訳にはいかないからだ。

 中に入ると、多くの冒険者が受付に並んでいたので、俊輔は小さい声で呟いた。

 王都のような大きな町ではどんな依頼が張り出されているのかという単純な好奇心から、俊輔は依頼が張り出されている掲示板を眺めていた。


「…………」


「……何だ? 坊主、何か用か?」


 しかし、依頼書よりも隣に立った男に自然と目が行って、じっと眺めてしまった。

 その視線に気が付いたのか、頭一つ背の高い男は俊輔に顔を向けて問いかけた。


「いや、悪い。そんな面付けてて、飯食う時面倒そうだなって……」


 俊輔がじっと見てしまったのは、男がフルフェイスの面を付け、全身鉄の塊といったような鎧を身に纏っていたからだ。

 俊輔が言ったように、被っている面は顔全体を隠し、目の部分しか穴が開いていない。

 別にこういった格好をした冒険者は多くはないが、珍しいという訳でもない。

 ただ、この格好の人間を見るたびに、俊輔はそのように考えていた。


「……慣れれば大して面倒ではない。それより身の安全が大事だ」


「なるほど……」


 俊輔が素直に謝ったからか、鎧の男の声色が柔らかくなったように感じる。

 男が言うことはもっともだ。

 魔物と戦う場合、常に油断は禁物。

 高ランクの冒険者でも、いつも倒している魔物に不意の一撃を食らう可能性が無いわけではない。

 冒険者は体が資本。

 大怪我を負えば、食う物・住む場所があっという間に失われ生きる道が閉ざされる。

 その可能性を下げるためにも、防御を固めるのも一つの手だ。


「坊主は随分軽装だな? しかも武器はその木剣か?」


 答えた鎧の男は、自分とは真逆の装備をしている俊輔に問いかけた。


「装備の重りで動きが鈍る方が嫌いなんだ」


「……そうか」


 冒険者の中には鎧の男のような重装備の人間より、俊輔のように防具をあまり装備しない者の方が多いといっていい。

 それは単純に装備にお金がかけられない者もいるからだ。

 そういった者は着る物で分かることが多いが、俊輔は金がないから軽装と言ったようには見えない。

 だから聞いたのかもしれないが、鎧の男は答えから俊輔の戦闘スタイルによるのだろうと考えた。


「これは日向だと木刀って言って、ガキの頃から使って来たから一番手になじむんだ」


 武器も見た所木の棒しか持っていないようなので、鎧の男は聞いてきたのだろうが、見た目とは違いこの木刀は最早まともな武器ではない。

 なので、俊輔は理由の一つを答えることにした。


「……なるほど、その気持ちは分からなくない。俺のランスと盾も無名の作者の作だからな……」


 鎧の男の背にはランスと丸盾が背負われていた。

 それを指さしながら男は言う。


「おぉ! おっさん話が合うな!」


 全身覆い隠している割には結構話せる人間だと思って気に入った俊輔は、鎧を軽くたたいて笑った。


「……おっさん言うな! こう見えても23だ!」


「えっ!? 顔が見えないから声で判断したんだが、結構若いんだな?」


 男の年齢を聞いて驚いた。

 声が低めで渋く感じたからかなり年齢が上だと思っていたが、どうやら俊輔の少し年上の若者らしい。


 そんなやり取りをした後、俊輔と鎧の男は色々と情報交換を始めた。


「俊ちゃん!」


「おう!」


 話している内にお互いに気が合い、少し話込んでしまったらしく、屋台巡りをしていた京子が迎えに来た。


「じゃあな! 俺は俊輔って言うんだ。また会おうぜ! 鎧の兄ちゃん」


 これ以上京子を放っておいては怒られそうなので、仲良くなった鎧の男に名前を告げて、俊輔はその場から去っていった。


「あぁ……、またな!」


 手を振って去っていく俊輔の言葉に対し、鎧の男も手を振り返す。

 名前を教えようと思ったが、その前に俊輔は去っていってしまった。


「……何か嬉しそうだね? 俊ちゃん!」


「あぁ! 何か馬が合う冒険者に会ってな!」


 話が合う人間に久々会ったことで気分が上がっていたからか、肝心なとこで抜けていて、少しして名前を聞き忘れたことを思い出す俊輔だった。




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