第150話
「護衛……ですか?」
たまたま助けたフリオに、公爵家の子供であるイバンの護衛を頼まれ、俊輔は考え込んだ。
はっきりいって、俊輔はこれまで貴族にかかわるのは避けてきた。
気に入られても、敵対することになっても、かかわるだけ面倒事しか起きないと思っていたからだ。
『断るべきか……。でもこいつらだけだと無理だろうな……』
北西の国エルスールへ向かうには方向としては一緒だ。
エルスールはここを西へまっすぐ行けばいいのだが、巨大な山脈と、俊輔たちを1年半閉じ込めていた魔の領域が存在する森があるため、遠回りする必要がある。
南下してアルペスの町へ行き、そこから南西へ向かえばエルスール国の領地であるムニピオの町にはいれる。
エルスール王国国内に入るにはそれが一番の近道で、そこから西へ向かえば、王都クルポンへたどり着く。
結構な長旅だ。
「西か……」
フリオに道のりを聞いていると、俊輔の脳裏にはある考えが浮かんできた。
西に行けば魔人族がすむ大陸に近付ける。
京子にもまだ言っていないが、俊輔は魔人大陸・獣人大陸の国にも行ってみたいと思っている。
両方とも人族とは休戦中なだけで、交易をおこなってはいない。
もしも、どちらかの大陸に行くのであれば、着いた先でどのような目に遭わされようともだれも助けには来ない。
完全なる自己責任といったところだ。
さらに言えば、魔人大陸には人族の大陸と比べて強力な魔物が出現しやすい傾向にある。
生半可な戦闘力で向かうのは単なる自殺行為だ。
まぁ、今の俊輔なら大丈夫なレベルだが……
なんにしても、とりあえず近付いてみるだけでもいいかもしれない。
それにイバンは公爵家と名乗った。
下っ端貴族が相手だったらどうでも良かったのだが、流石に公爵となると話が変わって来る。
恩を売って、エルスール国内での後ろ盾に出来れば色々と都合がいい。
「どうする? 京子」
「ん~……、いいんじゃない?」
フリオたちから少し離れ、俊輔は京子に魔人大陸の方はまだ言わず、後ろ盾にするという方の考えだけ話してみた。
京子の方は楽観的なのか、それほど悩むことなく答えを返した。
どこに行くかよりも、誰と行くかの方が京子には大事で、俊輔と一緒なら他は結構どうでも良いからかもしれない。
「じゃあ行くか……」
悩んだ時に京子のこの態度は結構気が楽になる。
俊輔は、時折考え込んでしまい答えがなかなかでなくなることがある。
そういう時、京子が出した答えに乗っかると、大体結果オーライに終わることが多い。
なので、俊輔は今回も京子の意見に任せてみることにした。
「おお、有り難うございます」
「感謝する」
依頼を受けることを俊輔が告げると、フリオとイバンが喜びの声をあげた。
高位貴族だからか、イバンは軽く頭を下げるだけだった。
俊輔のにわか知識だと、平民に頭は下げないのが貴族の基本だろうから、相当感謝している証なのだろうと思うことにした。
貴族だから仕方がないが、明らかに自分より年下の子供に上から言われるのは、ほんの僅かにひっかりを覚える。
前世の体育会系のノリがまだ残っているのか、そう思ってしまうが、それを顔に出したり口に出したりするほど俊輔は狭量ではない。
そこに引っかかる時点で狭量と言えなくもないが……
「……っていうか、こいつらに何か襲われる理由でもあるの?」
「……いえ、ただの盗賊でしょう……」
イバンたちを襲っていた盗賊たちに、俊輔は若干の違和感を感じる。
盗賊にしては少々装備が良い。
フリオは騎士で剣の腕ばかり鍛えてきたからか嘘をつくのが苦手なようで、思いっきり怪しい態度をしている。
『……舐めてんのか?』
護衛は、対象者を守るために体を張らなければならない危険な仕事だ。
護衛対象者がどのような者に狙われているか、情報は多ければ多い程対策を立てやすい。
対価は払うといっても、何の情報も無しというのは些か失礼ではないだろうか。
この盗賊たち程度なら俊輔たち一行には何の脅威にはならないが、嘘をつかれたことで俊輔には不信感が湧いた。
「……では、まずはアルペスの町へ向かいましょう」
「そうですな」
「盗賊はこちらの馬車に乗せてください。荷物は何も積んでいませんから」
「分かりました」
僅かにイラッとした俊輔の内心を察してか、京子はいつまでもここで立ち話をしている訳にも行かないので、とりあえずこの場を出発することを進めた。
京子のフォローで、俊輔もすぐに気持ちを切り替え、気絶させた盗賊たちを縛り上げていた他の騎士たちに、アスルが引く幌に乗せるように指示した。
俊輔たちは魔法の袋を所持しているので、荷物はほとんどない。
幌も、俊輔たちが乗れるだけのスペースがあれば良いだけだったが、無駄に余っていたスペースが今回は都合が良かった。
盗賊は殺してしまっても罪に問われないが、グレミオに届ければ報酬を支払ってもらえる。
これまでこの盗賊たちが起こした被害状況などを加味して計算されるが、初犯であろうとも肉体労働をさせる奴隷にして売りさばけば賃金に変えられるため、冒険者なら当たり前の行為だ。
「それでは、出発しましょう」
アスルが引く馬車を先頭に、幌に乗せた盗賊たちは京子が見張り、イバンの馬車の馬の背にネグロが乗り、俊輔は最後尾の騎士たちの馬車の御者の隣で警戒をすることにし、アルペスの町へ向けて再度出発すを始めたのだった。




