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第147話


「ぐうっ……!?」


 倒れて動かなくなったことを確認し、勝利を確信した俊輔だが、玄武もただでは殺られなかった。

 ダメージで俊輔の突きを躱せないと悟った玄武は、せめて俊輔を道連れにしてやろうと、尻尾の蛇を動かして俊輔の左手首に噛みつかせた。

 蛇の牙が突き刺さった俊輔の手首は、じわじわと紫色に変色しだした。

 どうやら毒を撃ち込まれたらしく、紫色になった場所から組織が破壊されて腐っていっているようだ。

 魔物の中には毒を使う者がいるため、俊輔は毒の耐性もある程度は高くなっている。

 とはいっても、強い毒でも即死を防ぐ程度の耐性でしかなく、無効化するほどではない。

 玄武の毒もかなり強力。

 俊輔の耐性では、せいぜい浸食を遅らせることが精一杯といったところだ。


「ぐっ……」


 耐性のお陰で浸食を遅らせているのは良いが、このままでは毒が肉体へと回ってしまう。

 すぐに対処をする必要がある。

 俊輔は魔法の袋から短刀を取り出した。


「ピッ!!」


 俊輔が何をしようとしているのか理解したネグロが、こちらへ走ってきた。

 どうやら玄武の水弾を両翼で受けたせいで、両翼の骨が折れて飛べなくなっているようだ。

 だが、水弾によるダメージは両翼の骨折程度で済んだらしく、他は大きな怪我をしている様子はない。


「ネグ!! 大丈夫だったか?」


「ピー!!」


 いつものように片翼を上げて返事をしたいところだが、骨が折れているので頷くことで意思を伝えることにした。

 それよりも、今は俊輔の左手の方が問題だ。


「ネグ、頼めるか?」


「ピッ!!」


 俊輔のいいたいことが分かり、ネグロは頷いた。

 その返事を受け、俊輔は出した短刀をまた魔法の袋に収納し直した。

 そして、左手の肘付近まで浸食してきていた左腕を、肩の高さにまで上げてそのまま動かさないようにした。


「ピー!!」


“ズバッ!!”


「ぐうっ!!」


 ネグロが魔法で風の刃を飛ばすと、俊輔の左肘から先は斬り飛ばされた。

 俊輔が先程収納した短刀でしたかったのはこれだった。

 毒が回らなければ死ぬことはない。

 かといって、毒を噛まれた傷口から吸い出すのは危険だと何かで読んだ。

 再生させることが出来る俊輔ならば、斬り飛ばしてしまうのが一番手っ取り早い。

 何度も死にかけるような怪我を負った経験から、痛みには強くなっているとは思うが、自分で自分の腕を斬るのは勝手が違い、結構な気合いが必要になる。

 怪我しているとはいっても、こういう時ネグロがいてくれるのはかなりありがたい。


 毒はもう広がる心配はないが、今度は出血が問題だ。

 でも、そんなことはたいした問題ではない。

 俊輔は魔法の袋から回復薬の入った瓶を取り出し、蓋を開けて飲みまくった。


「ピー……」


 そうしなければならないことだとしても、俊輔が苦しそうな表情をするのを見るのはかなり心苦しい。

 俊輔が回復薬で出血を止めることが出来るまで、ネグロは心配そうに眺めていた。


「ふぅ、もう大丈夫だ。血は止まった」


 片腕がなくなってしまったが、1年半ほど閉じ込められていた魔の領域の最下層を攻略した。

 後は、奥に飾るように置かれているダンジョン核を破壊すれば、地上に張り巡らされている結界を消滅させることができるはずだ。


「ていっ!」


“パリン!!”


 ここにいたいという気持ちは全くないので、俊輔は何のためらいもなく核を破壊した。


「帰るぞ!」


「ピー!」


 これでそれほど時間もかからず結界が消滅するはずだ。

 前回の無人島では、結界消滅後すぐに転移魔法のプエルタで脱出したので確認はしなかったのだが、この結界がどれくらいの期間消えているのか分からない。

 1日なのか、1週間なのか分からないが、破壊した核は、今まで集めた大量の魔素で修復されてしまうだろう。

 修復してしまえば、また玄武との戦いをしなければならなくなる。

 一度勝ったのだからまたやっても勝てるとは思うが、今回同様無傷で済む保証はどこにもない。

 このダンジョンから出ていけるのであればさっさと出て行くべきだ。

 そう考えた俊輔は、ネグロを右手で抱え、最下層から地上に転移した。






◆◆◆◆◆


「俊ちゃん!?」


「…………!?」


「よっ!」


 いつもの拠点に戻ると、そこには京子と従魔のアスルが待ち構えていた。

 二人とも俊輔とネグロの姿を見て慌てた。

 俊輔は片手がなくなっているし、ネグロは翼の形がおかしな感じになっている。

 ぱっと見るとボロボロの状態だ。


「左手どうしたの?」


 先程、上空にも張られていた結界が消えていく現象が見られた。

 京子は、それを見て俊輔が勝利したことをおぼろげながら感じていたが、やはり傷だらけの状態を見せられるのは、生きた心地がしない。

 京子は他に大怪我をしていないか、心配そうに俊輔の全身を確認した。


「最後にちょっとやられて……」


 かなり本気の表情で心配している京子に対し、俊輔はいい出しずらそうに答えを返した。

 自分に対して、京子は少々心配症なように思える。

 なので、なるべく大怪我をしないようにしたいと思っていたが、そう世の中そんなにうまくいかないものだ。

 結局心配させる結果になってしまって、俊輔は申し訳なく思った。


「それよりも、結界がいつまで消えているか分からない。すぐにここから出るぞ」


「うん!」


 俊輔は左手以外も怪我しているし、ネグロの両翼の骨折と他にも所々血が出ている。

 しかし、脱出機会がいつまで続くか分からないので、俊輔は京子にすぐに脱出するように指示した。

 京子もそのことに気付き、必要な物は魔法の袋に収納するなどすぐに行動を開始した。






「久々だな……」


「……そうだね」


 結界が張っていた部分を出てしばらく森の中を歩いていくと、温泉の硫黄の匂いが漂って来た。

 1年半程前に俊輔たちが温泉を掘り当てた村はまだ残っていたらしい。

 あの時のことを考えると懐かしく思い、俊輔と京子は顔を合わせて笑顔になった。

 そして、ようやく実感した。

 あの領域から脱出することに成功したのだと……。


今回で5章は終わりです。

俊輔たちはまた旅行を始める予定です。

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