第120話
出版記念投稿です!
「お~い! アスル、のんびりで構わないぞ!」
“コクッ!”
ピトゴルペスの町から北にある北東国のエルスール国へと進む街道を、一つの馬車が走っていた。
馬車と言っても、引いているのは馬ではなくダチョウ。
地球のダチョウよりもその体躯は大きく、その太い脚によるけん引力で、自動車レベルの高速で進行していた。
そのダチョウの主人の俊輔は、景色を眺めながらのんびり目的地に向かう事が乙に感じるタイプなので、速度を落とすように声をかけた。
地球のダチョウと同じように、魔物とはいえこちらの世界のダチョウも全然鳴かないので、従魔のアスルは了解の合図に頷いた。
ピトゴルペスの町からエルスール国へ向かうには、標高の高い山脈を越えなければならない。
そこを超えると一気に気候は変動し、極寒、豪雪の国へと至る。
「お前寒いの大丈夫か?」
俊輔たちは、ちゃんと北へ行く装備をピトゴルペスの町で備えたのだが、幾らアスルにも防寒用の特注の服を用意したと言っても、ダチョウは暑い国の動物だというイメージの強い俊輔は、アスルに聞いておくことにした。
“コクッ!”
俊輔の質問に、アスルは大丈夫だと言うように頷きで返事をした。
「そうか? 寒かったら念話で伝えろよ!」
従魔とその主人の間では、契約と同時に念話が使えるようになり、特殊に会話が出来るようになる。
アスルは念話だとおしゃべりなので、あまり頻繁に使うのは俊輔としたら迷惑なのだが、体調の事で念話するのは全然かまわない。
そのため、俊輔はアスルに告げておいた。
“コクッ!”
それにまた頷きで答えたアスルは、少しずつ速度を落とし、普通の馬車が出すくらいの速度で街道を走って行った。
「エルスール国って何が有名なのかな?」
ピトゴルペスの町から北の国への街道は、ほとんど一本道なので、アスルに任せておけば構わないのだが、魔物が出現した時の為に御者台に座る俊輔に、荷台の中で俊輔のもう一羽の従魔で、丸烏のネグロと戯れていた京子が話しかけた。
「フッフッフ……」
その質問を受けて、俊輔は意味深な笑いをした。
「どうしたの?」
長い付き合いから、きっと何か知っていて、質問されるのを待っているのだと分かった京子は、素直に質問してみた。
「町を出る前に、宿屋のおばちゃんに聞いたら、少しだけ情報を得られたんだ」
「へ~……、どんな情報?」
その質問を待ってましたと言わんばかりに、俊輔は笑顔で京子に話し始めた。
京子はいいタイミングで相槌を打ち、その先を促した。
「北の2国は、その気候柄雪に覆われている期間が長い。そのせいで昔から作物を多く育てることが難しかった」
「うん。マエストロが言ってたね?」
一昨日魔族の情報を聞くのと、俊輔の手の修復が終わったのを見せに行った時、マエストロから聞いた情報である。
「そのせいと言うか、お陰というか、少ない作物を無駄なく使う事を求めた」
「うん、うん」
段々と変わっていく話の内容を、京子も笑顔へ変わりつつ聞いていた。
「そうしているうちに、食材を無駄なく使う為に色々と料理の技術が発展して行ったらしい」
「えっ、じゃあ……」
俊輔の興味を引きそうな言葉が出てきて、京子は嬉しそうな顔である事を想像した。
「……そう! この国は食事が美味い国、別名[美食の国]って言われているんだってさ!」
この世界では魔族が何やら蠢いているようだが、俊輔たちの目的は旅行と観光だ。
魔族にとって何が目的だか分からないが、自分たちの邪魔にならなければ放って置いても構わない。
一応冒険者ランクを上げるという事もしなければならないのだが、俊輔にはその事や魔族の事よりも、美食の国への期待感しか頭のない状況である。
「ご飯が美味しいんだって! 楽しみだね? ネグちゃん!」
「ピ~♪」
京子は俊輔の話を聞いて、俊輔との楽しい夕食を想像してし嬉しそうにネグロとはしゃいだ。
俊輔の従魔のネグロだが、京子との付き合いは俊輔と同じくらい長い。
主人の俊輔が楽しそうなことも、その奥さんの京子が楽しそうなのも、ネグロにとっては嬉しい事である。
ネグロは、二人がいつも楽しそうにしているこの大陸旅行が好きである。
しかし、いつも魔族が余計な邪魔をしてくるのは嫌いだ。
俊輔の指導もあって、火力の強い魔法は五年間の無人島生活で得意になったが、細かく威力の高い魔法はまだ得意ではない。
先日の魔族との戦いで、ネグロからしたら弟子のような立場のアスルを守りながら戦った時、守る事は出来たが、無力化する事は出来なかった。
その事を、ネグロは内心悔しい思いをしていた。
今までは俊輔に守られる存在だったが、いつまでもそのままではだめだ。
俊輔はともかく、アスルや、京子も守れるまで強くならなければいけない。
「ピッ!?」
“バッ!!”
「あっ!?」
常に魔力を操作し、探知術で範囲内に入った魔物を探知すると、高速で馬車から飛び出し、退治をし、
食べられそうな魔物であったらその死体を俊輔の所へ運んでくる。
強くなるに頑張ろうと行っている行為だ。
「えらいぞネグ~!」
“モシャモシャ……”
「ピ~……♪」
魔物を率先して退治して帰って来たネグロを、俊輔は両手で撫でまわした。
強くなるためでもあるが、やっぱり俊輔に褒められて嬉しい声で撫でられるネグロだった。
そんなこんなで旅行を楽しむ俊輔たちは、北の国で初めての町、アルペスの町へと辿り着いたのだった。
以前投稿した話が何故か消えてしまい、毎週投稿の一話分が空いていました。
丁度いい機会なので、その分の意味も込めて本日投稿しました。
明日の投稿曜日も、いつもより遅れるかもしれませんが投稿予定です。




