第11話
「はい、これ上手く出来たかな?」
そう言って俺は、魔法陣の上にあった袋をニコラスに渡した。
「あれだけの魔力を注いだんだから、多分大丈夫だろう」
ニコラスの手にある袋を見ながらペドロが言う。
「とりあえず、ちょっとだけ試して見るか?」
ニコラスは井戸に行き、水を袋に入れていった。
すると次から次へと水が入って行って、恐らくお風呂10杯分は入ったところで手を止めた。
「おいおい、これどんだけ入るんだ?」
ペドロは少し呆れたようにニコラスに聞いた。
「分からない。でもこの時点で1番安い魔法の袋より上だと思う。それにまだ入りそうだ」
ニコラスは信じられないような顔をして袋を見つめていた。
「成功したんだよね?」
俺は二人の反応があまり良くない感じだったので、疑問に思って聞いた。
「あぁ、成功も成功、大成功だ」
「うん、これはちょっと出来すぎかも……」
二人は何か思い詰めた様子で俺の顔を見た。
「俊坊、これ本当にもらっていいのかい?」
「うん、あの……」
「ん? 何かあるのか?」
二人が帰ってしまってから色々試してみたい事があった為、俺はとりあえず頼んでみることにした。
「この魔法陣の布が欲しいんだけど……」
「あぁ、その布だったらあげるよ」
「えっ!? いいの?」
結構あっさりとニコラスが魔法陣の布をくれた事に俺は驚いた。
「これほどの魔法の袋をもらえるんなら、その布ぐらい安いもんだよ」
ニコラスのその言葉に、俺は少し疑問に思った。
「この魔法陣の布って安いの?」
「うん安いよ。大陸では錬金術を使う人間はあまりいないし、わざわざ大量の魔力を使わなくても、大体の物は手作業で作れるからね」
「この魔法の袋も?」
「いや、魔法効果のある道具なんかは、錬金術で作るんだけど、どんなものを作るにしても、大量の魔力が必要だから魔力のあまりない人は、その布なんて興味ないし錬金術を使う人間なら、紙に写し書いたりすればいいだけだから簡単に手に入るよ」
「そうなんだ?」
『結構簡単に手に入るのかよ!』
「そんな事よりも俊坊……」
「ん? 何?」
二人が真剣な顔をして俺を見てきた。
「俊坊の為に1つ忠告しておいた方が良いと思ってな」
何の事だか思い浮かばず首を傾げていると、
「これだけの魔法の袋が作れると言う事は、あまり他人に知られない方が良いよ」
「前も言ったけど、幸運の兎だけでもかなりの高額な上に、高品質の魔法の袋を作れる子供がいるなんて知られたら、俊坊を利用しようとする輩が寄って来る可能性があるからね」
「まぁ、俊坊だけなら魔闘術が使えるから平気かもしれないけど、京子嬢ちゃんを人質に、なんて考える馬鹿が現れないとも限らないからな」
二人の言っている事を聞きながら、なるほどと納得した。
「分かった。なるべく他の人には言わないようにするよ」
二人は俺の言葉を聞いて安心したような顔をして頷きあった。
「よし! じゃあそろそろ名残惜しいが出発しようか?」
「そうだな。皆にも挨拶はしたし、諦めかけた魔法の袋も手に入ったし、今からならちょっと急げば、隣の村に日が暮れる前に着くだろうから出発するか?」
ここ最近二人にくっついて色々楽しい日々を過ごした為、俺は結構寂しく思っていた。
前世では平凡な生き方しかして来なかったので、二人のような思いつきを行動に移すような生き方に感銘を受けていた為、
「僕も、もう何年かしたら大陸に渡って、冒険者になって二人に会いに行くよ」
と思いついた事を口にだしていた。
「へへっ、そうか、だったら楽しみに待ってるぜ!」
「うん。その時は、冒険者グレミオに俺達の名前を出したらどこにいるか分かるから、受付にでも聞いてみてよ」
二人はそう言って俺に手を差し出し握手を求めて来た。
俺は1人ずつしっかりと握手をして二人を見送った。
「じゃあなー! 俊坊!」
「元気でねー!」
二人はかなり離れても手を振りながら隣の村への道を進んで行った。
「二人共! また会おうねー!」
俺も二人が見えなくなるまで手を振り続け、冒険者になって世界を旅する事を心の中で決意したのだった。
冒険者グレミオのグレミオとはギルドの事です。
大陸ではスペイン語が使われている設定の為、グレミオにしてみました。たぶん意味は合っていると思います。




