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第116話

「……どういうことだ?」


「さっき話した通りだよ……」


 ピトゴルペスの町に戻った俊輔達は、すぐにグレミオに行き、マエストロのフィトに今回起きた事のあらましを話していた。

 その内容説明のほとんどはアマンドに任せ、俊輔達は静かに体を休めていた。


「魔物の素材よりもこいつの方が貴重な土産になったな……」


 魔族が使っていた地下の研究所から、俊輔が持ってきて机の上に置かれた資料の束を見て、フィトは一言呟いた。

 ここ最近魔族が色々な場所でもめ事を起こしているが、その目的の一端がこの資料によって解析できるかもしれない。

 何もない所だと思っていたので、軽い気持ちで素材採取の依頼をしたが、そんなものよりも価値あるものを持ってきたものである。

 さらに、魔族が行っていた魔物の合成研究など、興味深い物までついてきているおまけつきだ。

 フィトはその手の研究には興味がないが、そういった事を密かに研究している貴族もいるという噂を聞いている。

 その者達からしたら、この資料はのどから手が出るほど手に入れたい物かもしれないという事に気づき、何か嫌な予感がするフィトだった。


「それにしても大変な目に遭ったようだね? これからは資金と根気が必要になってくるね」


 資料の事は一先ず置いておいて、片腕を無くして戻って来た俊輔に同情しつつ声をかけたのだった。

 この世界では、魔法によって欠損してた肉体を再生する事は可能である。

 大きな町の教会には、回復魔法や再生魔法を使える人間を所持している事が多い。

 肉体を再生してもらう場合、教会で資金を払う事で再生魔法をかけてもらえるのだが、指一本再生するのにも一年の時間がかかるのが普通である。

 何度も何度も高い資金を支払わなければならない為、腕一本だとかなりの資金と根気が必要になる。

 更に、再生魔法は才能と練度が左右する魔法である為、その再生速度は術者によってまちまちである。

 この町の教会にも再生魔法の使い手がいるが、これからの長い再生との戦いを考えると、フィトが同情するのも当然である。


「いや、ここだけの話ですが、自分再生魔法が使えるんで資金の心配はいらないです」


 同情してくれるなんて随分親切なマエストロなんだなと思った俊輔だったが、その同情は別に必要ない事だとあっさりと再生魔法が使えることをばらした。


「……えっ? 再生魔法使えるの?」


 俊輔の言葉にフィトはびっくりした表情に変わった。


「しかもかなり得意なんで、これぐらいならすぐ治りますよ」


「へ~……、そ、そうなんだ……?」


 続けて告げられた言葉に、フィトは若干引き気味に言葉を返した。

 再生魔法の一番の上達方法は、自分の肉体の再生を行うことが近道だというのが一般的に広く知られている方法である。

 しかし、回復魔法や再生魔法の仕える人間というのは、大概が戦闘が不得意な事が多く、自分を再生するような事はほぼ皆無である。

 わざと自分で肉体の一部を切り落としてまで、再生魔法の練習をするような頭のおかしい人間などはいない。

 つまり俊輔が再生魔法が得意だという事は、何度もけがを負うような危険な場所に足を踏み入れてきたという事である。

 その事に気付いた為、フィトは引いてしまったのである。


「……マエストロなんですからばらしませんよね?」


 軽い口調で結構自分の貴重な情報を漏らした感じの雰囲気になっているが、グレミオは登録冒険者の情報を他者に軽々しく広めるはずがないだろうと、念のため俊輔は確認しておいた。


「も、もちろんだよ……」


「…………」


 若干怪しい感じだが、これで取り敢えず言質は取った。






◆◆◆◆◆


 俊輔から資料を責任もって受けとり、資料を調べて報告することを告げ、疲れているであろう俊輔達を宿に戻らたフィトは、アマンドを残して話をしていた。


「アマンドも大変だったようだな?」


「全くだよ……」


 俊輔の回復薬で傷や出血は治っていたアマンドだが、鼻の骨が折れてくっついてはいなかったので、俊輔が少し粗目に鼻を真っすぐにして回復魔法をかけて治しておいた。

 痛みに悶えていたが、今は元の鼻にきれいに治っている。

 とはいえ、今回の事はSSSランクにもかかわらず魔族に負けた事で、かなり反省しているようである。


「…………そう言えば、俊輔君たちのSランクへの昇格の件だけど……」


「分かってるよ。お前が負けた相手に勝ったんだ。昇格させるに決まっているだろ」


 最初話を聞いた時はアマンドが負けるなんて信じられなかったが、本人からの詳細な報告を受けた今では、俊輔達の実力の高さを受け入れている状況である。


「……今回の事で昔の事を思い出したよ。どうやら自分の技術が鈍っていたみたいだってな」


「…………」


 アマンドの話にフィトは黙って聞いていた。


「あの二人の事は一生忘れるつもりはないが、もう少し深く考えないようにするべきかもしれないな……」


「そうだな……、最近は簡単な依頼ばかりこなしていたからな……」


 どうやら自分が懸念していたアマンドの問題も、今回の事で解決したようである事に、フィトはこれも俊輔達のおかげなのかもしれないと思ったのだった。



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