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第107話

「アスルちゃん! もう降ろして大丈夫よ」


 俊輔の指示通り、京子を乗せて地上に出たアスルに対して京子は優しく声をかけた。


“コクッ!”


 京子に言われたアスルは頷き、ゆっくりと減速して京子を降ろした。


「ピピッ!」


 僅かに遅れてネグロも京子達に追いつき、アスルの頭の上に留まった。


「もう! 俊ちゃんに任せて大丈夫なの? ネグちゃん!」


 京子は無理矢理な感じで連れ出された事で、若干不機嫌そうにネグロに問いかけた。


「ピッ!」


 聞かれたネグロは、大丈夫と言わんばかりに京子に対して片方の翼を上げた。


「フウ……、皆速いな。やっと追いついたよ」


 また少し遅れ、アマンドが京子達に追いつき呟いた。


「アマンドさん!? 俊ちゃんはどうしたんですか?」


 てっきりアマンドと共に俊輔は先程の魔物と戦うのだと思っていた京子は、アマンドが現れた事に驚き、焦ったように問いかけた。


「彼は1人で戦うと言って、僕にも外に出ていてくれと言われたんだ」


 ここの調査をするうえで引率者の立場なのだが、俊輔の魔闘術のオーラを直接ああ間近で体感したアマンドは、魔物を俊輔に任せて来た事を若干申し訳なさそうに京子に話した。


「そうですか……、俊ちゃん1人で大丈夫でしょうか?」


 それを聞いた京子は、自信満々でアマンドを見送った俊輔の姿が想像出来、納得したような表情をした後、俊輔の姿を見たアマンドにSSSランクとしての意見が知りたくなった。


「多分大丈夫じゃないかな? あんな濃密な魔力を纏う魔闘術は見た事がない。僕はSSSランクと言っても偶々なれたと言ってもいいレベルだけど、彼は何と言って良いのか……、格が違う感じに思えたよ」


 京子の問いに対して、俊輔の魔闘術を肌で感じた事をアマンドは、誇張する事無く感じたままの意見を述べた。




““ピクッ!!””


「どうしたの? ネグちゃん。アマンドさんも……」


 リンドブルムの事は言われた通り俊輔に任せ、研究施設が地下にあった魔族のアジトだった屋敷の外に出た瞬間、ネグロとアマンドは固い表情で京子達の前に立ち止まり周囲を警戒しだした。

 その行動の意味が理解できなかった京子は、それぞれに対して視線を向けた。


“スタッ!”


「リンドブルムが檻から出た反応がしたと思ったら……、お前ら逃げ出して来たのか?」


「「っ!!?」」


 突如上空から1人の男が舞い降りて、京子達を見て一言呟いた。

 京子とアスルはその気配に察知出来ず、男がいきなり現れた事に驚きの表情になった。


「…………リンドブルムの事を知っているという事は、もしかしなくてもお前魔族だな?」


 蝙蝠の翼のような物を背中に生やして舞い降りて来た男が、まともな人間ではない事は聞かなくても分かる。

 しかも、先程のリンドブルムの名前が出た事で魔族であるという事も推理出来たアマンドが、その男を睨みつつ問いかけた。


「御名答! ちょっと博士に研究所からリンドブルムの捕獲を指示されて来たんだが……」


「博士? 貴様ら魔族にも研究者がいるのか?」


 男の言葉にアマンドは反応せずにはいられなかった。

 研究所を見付けたが、知能が高いとは言っても魔族が主導で研究しているようには思えない。

 恐らく魔物研究家の人間を攫ってきてキメラの研究させていたと考えていたアマンドだったが、男の言葉を聞いてふとそのように考えが浮かんだ。


「おいおい、お前ら人間は俺達魔族を馬鹿にしすぎだろ? 知能を手に入れ人化出来るようになった者の中には、頭脳を使う事に特化した魔族も居るって考えるのが普通じゃないか?」


 アマンドの言葉に、魔族の男は若干呆れたように話して来た。


「それもそう、か!」


 会話の最中だったが、隙があるように思えたアマンドは、一気に距離を詰めて魔族の男に対して蹴りを放った。


“ガッ!”


「おわっと! 危ねえな! まだ話している途中だろうが!」


 アマンドの意表を突いた攻撃を、魔族の男は両手を交差して防御すると、腹を立てて抗議をして来た。


「生憎魔族相手に正々堂々戦うつもりはないんでね!」


 聞く耳を持たないと言ったように、アマンドは連続で魔族に対して素手での攻撃を放って行った。


「おわっ! くっ!」


 アマンドの攻撃を辛うじて躱し、魔族の男は地を蹴って距離を取った。


「まだ話す事があるって言うのに……、礼儀を知らねえ野郎だな」


“ゴッ!”


 アマンドの攻撃が僅かにカスっていたのか、ほんの少し頬を切って血が滲む魔族の男は、真剣な顔をして魔闘術を発動した。


「魔族が魔闘術か? 面倒だな……」


 そう呟くと、アマンドは魔法の袋から手甲を取り出し装着した。


『手甲? さっきの鋭い攻撃と言い、アマンドさんの戦闘スタイルって体術なのかな?』


 いきなり始まった戦闘に、京子達は巻き込まれないように離れた場所に移動した。

 手甲と先程の攻撃を見て、京子はアマンドの戦闘スタイルをそう判断した。


「……手甲に体術でさっきの鋭い攻撃、ここの近くの町を拠点にするSSSランクの冒険者、撃滅のアマンドってのはお前の事か?」


「あまりその二つ名は好きではないんだけどな……。確かにそう言われてはいるな」


“ボッ!”


 そう言うと手甲を付け終えたアマンドは、魔闘術を発動して魔族の男に対して構えを取ったのだった。


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