第104話
「先に進みますか?」
ネグロとのやり取りをやめ、ケルベロスの遺体を魔法の袋に収納した俊輔は、アマンドに対して移動を促した。
「そ、そうだね。でもこれ以上危険だと僕が判断したら引き返す事を約束してくれるかい?」
「分かりました」
本来ならケルベロス程の魔物が出た時点で昇格の審査をしている状況ではないのだが、俊輔たちの言動から、実力は自分と同等、もしかしたらそれ以上かもしれないと感じられた。
それでもこのまま進むにしても警戒をした方が良いと経験から感じたアマンドは、俊輔達に忠告がてら撤退の意識を待たせる事にしておいた。
俊輔も別に警戒していない訳ではないのだが、アマンドの言っている事の意味を理解して素直にうなずいたのだった。
「…………どうやら他にも魔物がいるようですね?」
ケルベロスの討伐後、俊輔達が地下の通路を少し進んで行くと、前方からまたしても魔物が迫って来る気配がした。
『察知が早いな……』
冒険者はランクに関わらず魔物と戦う機会が多い。
魔物の退治の方が他の依頼よりも金額が上な為、より多くの資金を得るには手っ取り早いからである。
しかし、魔物との戦いは危険が伴う。
毎年多くの冒険者が魔物との戦闘によって命を落としている。
魔物を退治するうえで極力危険を回避する為には、いち早く魔物を察知する能力が重要である。
ランクの高い冒険者程そう言った能力が高いのだが、俊輔の察知能力はSSSランクである自分よりも上のようだった為、アマンドは心の中で感心していたのだった。
「っ!!? 何だ!? こいつら!!」
寄って来た魔物達を見て、アマンドは驚きの声を上げた。
「こんな魔物見た事ないぞ!」
何故なら、続けた言葉の通りその魔物達は今まで見た事もないような姿をしていたからである。
「新種? ……いや、そう言った感じではないような」
俊輔も見た事が無い魔物だった。
もしかしたら新しい魔物かと思ったのだが、すぐにそれとは違う考えが浮かんで来た為すぐにそれを否定した。
「………………合成獣か?」
寄って来た魔物の全体的な形は見た事は無いが、体の部位を所々を良く見てみると、見た事がある魔物の一部が繋がっているように見えた。
「ゲギャ!!」
寄って来た数匹の魔物の内、顔がゴブリンで体が狼の姿をした珍妙な姿の魔物が俊輔目掛けて襲い掛かって来た。
“ボンッ!!”
「ハハッ、変な姿の魔物だな」
その魔物の姿が前世で言う所の人面犬のような物に見えた俊輔は、その姿の珍妙さから軽く笑ってしまった。
その笑いと共に魔力を纏った拳で殴り飛ばした。
「ギギッ!!」
続いて向かって来たのは、バッタの顔をして鳥の胴体と脚をしていて、手がカマキリの形をした魔物だった。
“グシャ!!”
「こいつも幾つか混ざっているみたいだな」
右手の鎌を振り下ろして来た魔物の攻撃を躱し、そのまま接近した俊輔はアッパーカットで頭を吹き飛ばした。
頭が無くなった魔物は倒れ、ピクピクと痙攣した後すぐに動かなくなった。
「ガーッ!!」
「おっ? こいつは何かかっこいいな」
声を上げて次に襲い掛かって来たのはゴリラの魔物に角が生え、背中に蝙蝠のような翼が付いていた。
その姿が、俊輔の美的に上手くまとまっているように見えたので、思わず褒めてしまった。
「飛べるのか広いとこで見てみたい気もするけど……」
“ドンッ!!”
「他にもまだキメラがいるみたいだからさっさと消させて貰うな?」
ゴリラの左のフックのような攻撃を躱して近付くと、ゴリラの腹に蹴りを放ち風穴を開けた。
まだ他にも色々混ざった魔物達がいたが、俊輔の強さに恐れおののいたのか後ずさりしていた。
そんな魔物達を、俊輔は主武器の木刀を使う事無く武術のみで潰して行ったのだった。
「……すごいな。こいつら動きから最低でもAランクの上位レベルの魔物ばっかりに見えるのに、武器も使わずあっさりと……」
ここまででの戦闘で俊輔が強いのは分かっていたが、普通の魔物とは違う変則的な攻撃をしてくるキメラ達の攻撃を余裕をもって躱して倒す姿に、アマンドは今日何度目になるのかと言ったような驚きの表情をしていた。
「ピピピッ!!」
俊輔の頭の上に乗ったままのネグロは、「いいぞ!」と言ったような楽しそうな声で俊輔の殲滅劇を見ていた。
「ネグちゃんを頭に乗せたまま戦っている俊ちゃんの方が珍妙に見える気がするけど……」
幼少期からいつも俊輔の頭の上が好きなネグロを乗せた俊輔は、パッと見るとアフロヘアーをしているように見え、京子は思わず小声で突っ込んだ。
昔からこの姿を見ている京子だが、それでもいまだに変な姿に見えるようである。
それも当然、アフロヘアーの人間などこの世界にはいないから仕方がない。
「ネグちゃんはちょっと過激な性格になっちゃって……」
続いて、アスルの騎乗時や今の殲滅劇で、昔は見る事が無かった楽しそうな声を上げるネグロの姿に、京子は少し引いた呟きをした。
『スゲッす! 流石旦那! めちゃくちゃカッケーっす!』
ダチョウのアスルは、俊輔の流れるような武術に感動した表情で見ていたのだった。




