第8話 Ⅱ号弾薬運搬車
1940年10月中旬。
クンマースドルフ試験場。
広大な試験場の一角に、二両の車輛が並べられていた。
一つはハンス少尉が主導したⅡ号弾薬運搬車。
もう一つは、勝流の計画によるⅡ号15cm自走重歩兵砲である。
試験に訪れているのは、クラウス課長をはじめ第4課の面々。
加えて、開発及び製造を担うアルケット社の設計陣。
さらに陸軍兵器局長エミール・レープ、そしてフランツ・ハルダー陸軍参謀総長という錚々たる顔ぶれだった。
気になった勝流は、そっとクラウス課長に尋ねた。
「……何故、ハルダー参謀総長が?」
「自走砲に興味を持たれたそうだ。前線から好評だったからだろう……試験を始めるぞ」
クラウス課長が声を張る。
「Ⅱ号弾薬運搬車から試験を開始する。ハンス少尉」
促されて、一歩前に出たハンス少尉は緊張を滲ませながらも声を張り上げた。
「本計画を担当した、ハンス少尉であります!!」
語るうちに、彼の声は次第に堂々としていった。
「本車輛は、前線に随伴可能な大容量の弾薬運搬車として設計されました。足の早い部隊に追従し、その場で補給を行えます。場合によってはトレーラーや火砲を牽引することも可能です。勿論、自走砲部隊への随伴も十分にこなせます」
説明はもっともらしかった。
だが勝流は心の中でほくそ笑んだ。
(課長からの要請も、エアハルト先輩の後押しも……全部俺が仕組んだ。ハンス少尉には悪いが、やる気を削いでしまうよりはいい)
ハンス少尉はそんな裏事情に気付かぬまま、自らの設計を堂々と語っていた。
「ご覧ください」
彼は車体前部中央を指し示す。
「本来ここには15cm重歩兵砲を搭載する予定でした。そのための空間をわざと残してあります」
「何故、わざと残したのかね?」
ハルダー参謀総長が問いかける。
「必要とあれば砲を搭載可能だからです。今回は補給型ですが、将来的には多用途化が可能となります。対戦車砲や榴弾砲の搭載も視野に入れております」
レープ局長は顎に手をやり、じっと車輛を眺めていた。
「ふむ……随伴能力があって、砲も搭載可能。前線で行動可能な補給車輛か。悪くない」
「補給の遅れが作戦全体を台無しにすることは多い。前線で使えるなら、実に便利だ」
ハルダー参謀総長も頷く。
続いて走行試験が始まった。
Ⅱ号戦車を基にした足回りは安定し、積載した弾薬ダミーを軽々と運んでみせる。
さらに、補給演習を兼ねたデモンストレーションを行う。
「効率的に荷下ろしできるよう、両側面の装甲板は両開きハッチになっています」
金属の軋む音と共に側面ハッチを開くと、立ち会う将校たちが身を乗り出した。
レープ局長は興味深そうに覗き込み、再び頷いた。
試験を終えたハンス少尉は敬礼する。
レープ局長とハルダー参謀総長は満足げに頷き、クラウス課長も安堵の笑みを浮かべていた。
(……よし、弾薬運搬車は通った。次は俺の番だ)
勝流は、並ぶもう一両、自らのⅡ号15cm自走重歩兵砲を見据えた。
いよいよ、自分の構想を示すときが来たのだ。
クラウス課長が合図を送る。
「続いて、Ⅱ号15cm自走重歩兵砲を。アルデルト少尉」
勝流は深く息を吸い込んだ。
「では、説明させていただきます」
本車輛のデザインについてですが、史実では存在そのものがないため、イメージしづらいかもしれません。非常に悔しく、また悲しいところです。もし自分に絵を描く能力があれば、読者の皆様にもっと分かりやすく示せたのですが……
具体的には、史実のⅡ号15cm自走重歩兵砲から砲周りの機構を全て取り外し、そのスペースに弾薬を大量に積載した姿を思い浮かべていただければなと。
次に登場するⅡ号15cm自走重歩兵砲も同様で、私の頭の中にはイメージがありますが、それをそのままお見せする術がありません。そのため、似たような車輛を参考にしています。
人生で初めて「絵を描ければな! 畜生!」と思いました。
自分では描けませんが、誰かに頼ってみるのも一つの手かな、と考えてはいます。




